第23話 ガッシャーン!
『まあ、冗談はほどほどにして』
「本当に冗談でしたか……?」
いっぱい大声を出して疲れ果てたエステルは、眉を下げてジュリーを見つめた。
『ほんとのほんとに冗談よ。ねえ、エステルファンのみんな』
〈その通り〉
〈全部冗談だぞ〉
〈安心してくれ。本気じゃないから〉
〈俺たちがエステルを裏切るはずがないだろう?〉
「……まあ、確かに」
エステルは視聴者たちに
何だかんだ優しい人たちの集まりではあるのだ。
『ごめんね、エステル。ジュリーさんの手伝いを俺の方から申し出たんだよ』
タイミングを見計らっていたのか、途中からずっと静観していたバートが口を開いた。
彼に謝られてしまっては、それ以上怒り続ける事もできない。
エステルは複雑な気持ちでバートを見た。
「……お手伝い、ですか?」
『そう。今俺たちがいる『灼熱の地底湖』は、マグマが溢れている危険なダンジョン。聞いた話によると、
「それは、そうですね。不人気ランキングでも毎年上位に上がっていますし」
一般的な探索者の主な収入源は、モンスターから回収した魔石の売却である。
魔石は魔力を内包しており、魔法科学のエネルギーとして利用できるため価値が高いのだ。
しかし『灼熱の地底湖』は、マグマの中を泳ぎ回る魚型モンスターが多数を占め、倒しづらい上に魔石の回収が困難な場合が多い。
その上、
にも関わらず、気温がとてつもなく高く冷却グッズが必須という過酷な環境なのだ。
一言で言えば、割に合わない。
『不人気ダンジョンはモンスターの
〈マジかよ〉
〈ジュリー偉すぎだろ〉
〈定期的にそこ行ってるから好きなのかと思ってたけど、そんな理由があったんか〉
『あはは、別に私だけじゃないけどね。国務討伐官はもっと危険かつ不人気なダンジョンを優先する必要があるから、こういう中途半端なところは私みたいな探索者の仕事かな〜って』
ジュリーとしては、公にするつもりはなかったのだろう。
彼女は愛想笑いで頬をかいた。
『まあ、そんな感じでね。今日も『灼熱の地底湖』に行こうと思っていたら、バートさんが手伝ってくれる事になったのよ』
「そ、そうだったのですね……」
真面目な理由がちゃんとあったらしい。
それは分かったのだが、バートとジュリーが二人でダンジョン探索を行う事には、やっぱりモヤモヤしてしまう。
一緒に誘ってほしかったというのが、正直なところであるが。
(だけど、そっか。『灼熱の地底湖』は危険度3だから、C級以上じゃないと入れない。私じゃ、二人にはついて行けない)
D級探索者は、危険度1から2までのダンジョンしか入れない決まりだ。
C級に上がるにはある程度の強さを身につけなければならないが、エステルはまだまだ駆け出し探索者。
実力はD級の中でも下の方であり、上位には遥かに及ばない。
(弱い探索者がバート様の隣にいるのは、おかしいよね……)
エステルは自身の力不足を痛感した。
「事情は分かりました。お二人とも、どうかお気をつけて下さいね」
そう言って見送る事しかできない自分が、悔しくて。
強くなりたいな、とエステルは思い——。
「——あれ? ジュリーさんは私と
ふとした疑問。
「どうしてバート様は、ジュリーさんが『灼熱の地底湖』に行く事を知っていたのですか?」
『『あっ……』』
バートとジュリーの「やべ」という感じの声が重なった。
エステルは目を細める。
……何だろう、何だかすごく嫌な予感がする。
それでいて、うやむやに終わらせてはいけないという直感もあった。
「……ご説明を、お願いできますか」
『あー、その、何て言うか。俺はね、最初は魔界省のソファーとかで寝させてもらうつもりだったんだけど』
バートが苦笑を浮かべつつ視線を逸らした。
『ジェローム大臣が、俺をそんなところで寝させられないと
ジュリーもまた、誤魔化すような愛想笑いを浮かべた。
『そんなわけで、バートさんは我が家に泊まる事になりました。てへっ』
——ガッシャーン!
エステルは泡を吹いて椅子ごと床にひっくり返った。
『ち、違うのよエステルっ! 別に二人きりじゃないから! お祖父様たちもいるから! エステル——ッ!!』
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