第4話 壊れ行くもの

「オラふざけんなよ。おまえんところの製品が爆発をしたんじゃ。どうしてくれるんや」

 電話をかけて、頭から会話では無く怒鳴る。


 俗に言う、かましと言う奴だ。

 脅せば勝ち。中学時代の記憶で、彼は行動をする。


 だが大人になれば、驚はするが仕事をする。


「顧客対応の品質向上のために、この会話は記録されています。ご承知頂けますよう、おねがい申し上げます」

 それを聞いても彼は「うららうららうらうらら」と言っていた。それを聞いて、担当者は話が通じないために義也へと変わる。


「お電話変わりました。お客様。どの商品が、どういう状況でどのようになったのかをご説明をいただけますか?」

「ちっ。またかよ。扇風機を買ったんだよ。暑いからな。それでだ、買ってそんなにしないうちに、急に動かなくなったと思ったら爆発をしたんだよ」


 嘘は言っていない。

 大幅に、中間の説明が抜けているのだが。


 ただ、これだけだと、製品に何か不具合があったのかと当然彼は考える。対応のマニュアルを見ながら説明を行う。

 当然だが、商品代金の弁済などと言う言葉を使ってしまった。


 そう修理に出して貰って点検を行うか、原因によっては交換。

 対応によっては料金を返す。

 そんな話しを行った。


 そう、それにより、田堰は返金を望む。

 なおかつ、爆発のために壊れたアパート内の壁紙や窓ガラスなど、請求を求める事にする。

 そのために、彼は電話を切った後、喜んで業者に連絡。

 見積もりを出して貰う。


 そう、そんなに間違った対応でも無い。

 ただ爆発を起こした以上、総務へまわし、法的な対応までしないといけない。


 次に掛かって来たときに、それを説明をする。

 そして、もっと深く話しを聞き、コールドスプレーの存在を知る。

「お客様、それは弊社の責任では無いと思われます。一度法務の方とも話しはいたしますが……」

「やかましい。この前、お前は出来ると言っただろうがぁ。嘘をつくんじゃねえよ」

 そこから彼の粘着は始まった。


 これは法的に何とかして貰おうと思い、総務預かりに回した。

 そう顧問弁護士へと、仕事を回すのだ。


 まあ、調査がされて、彼は法的にクレーム認定された。

 だけど、あいつがあんな事を言わなけりゃと、まあいつもの調子で、義也の責任だと転嫁する。


 そこからは、クレームというより嫌がらせが始まる。


 そう、業者さんに見積もりなどを取って、工事が行われないと、見積費用が発生する。

 彼は余分な出費をはらったのも、すべて義也のせいにする。


 そして、その嫌がらせのせいで、長時間オペレーターが拘束される。

 その為やめるように訴える。

 当然だが、聞きやしない。


 その内なぜか、上の人間から改善命令が出される。

 お前の対応が悪いから、こんな事になると……

 それは正式に訓告となった。



 そんな状態で、追い詰められていく義也。

 人間余裕がなくなると、優しさにも陰りが出始める。


 その頃付き合っていた彼女。

 杉田すぎた 希実のぞみ

 彼女は大学時代に知りあった。

 そう、彼が大手の電機会社に就職が決まった頃から、二人の付き合いは始まる。


「すごいですね」

 我が事のように喜ぶ彼女。


 だが、数年が経ち、普通なら結婚でもしようとか考え始める頃に、丁度彼の限界が来た。

「今は、まだ無理だ」

 彼女が式を沖縄のチャペルで開き、友人も呼ぶとか言い始める。


 その頃、彼の頭には、なぜ俺ばかり……

 そんな疑問ばかりが、頭の大部分を占める。

 何もかも上手く行かない。


 それなのに、彼女は自分の望みばかりを語り、俺の辛さを分かってくれない。

 見ようともしない。

 そんな思いが、彼の中で大きくなっていく。


 時間と共に、同棲をしていた部屋は、彼の安らげる場所では無くなり、帰る時に時間を潰し、一人で居られる時間を作ろうとし始める。


 それについても文句を言い始める彼女に、彼は言ってしまう。

「今は、そんな事を考えられないと言っているだろ、もう少し時間をくれ」

「じゃあ、何時いつなら良いの? あなたは、私のことなんかどうでも良いのね」

 とまあ、定番の言葉が投げかけられる。


 余裕の無い彼と、異変に気がつかない彼女。


 かれは、本格的に帰らなくなる。


 辛さを忘れるために、レンタル個室に籠もり、趣味に没頭する。

 大学時代から考えていた、貯留式熱循環住宅システムを詰めていく。


 家の地下に、相変化を利用する潜熱蓄熱材や化学蓄熱材を埋設をして、熱を貯留。

 短期では昼の太陽熱を、夜間の暖房に使い、冷暖房エネルギーの効率化を図る。

 貯留システムの規模は大きくなるが、夏の暑さを冬に暖房と使うものでも良い。

 その総合システムについて、彼は昔から色々と試行錯誤をしていた。


 電気そして冷媒。

 ガスや水。

 オイルやゲルなど昔からあるもの。

 そんな物を有効に使い、何とか安価に出来ないか?


 設置のコスト、そして効率。

 太陽熱、風、地下の水と熱。

 そんな物も組み合わせて、複合的にシステム化をしていく。

 そして、テーマごとに、その利点と欠点を書き出していく。


 そう、それは昔から繰り返された作業。

 これが一番だと決定しても、数日後に別の疑問が湧き、また精査を行う。

 終わりの無い作業。

 だがそれが、彼の心を現実社会に留める手助けをする。

 だけど、周囲はそれを壊そうとする……



 そう、彼が現実逃避をしていたとき、彼女の方は心配よりも怒りをまき散らす。

 彼がいないため、同僚に思いをぶちまけていた。


 仕事帰りに、希実は同僚の浅井あさい 乃理のりを誘い飲みに来ていた。

 彼女とは昔からの連れだ。


 彼についての心配はせず、逃げたことが気に入らないようだ。


 居酒屋で文句を垂れ流し、乃理がてきとうに相づちを打つ。

 であまあ、よくある話しだが、ナンパされてホイホイとついて行く。


 実は彼女達、昔からこんな感じだった。

 希実は彼と付き合い始めてから、さすがに回数は減っていた。

 だけど、やめることは無かった。


 一夜の関係は、当たりもあればハズレもある。 

 だけど、楽しい。

 そう、彼女もまた、誰かに自身が望まれることを欲していた。


「あんたなんか産むんじゃ無かった」

 両親が離婚をして、母親に引き取られてすぐの言葉。

 どうやら、母親にはすでに男がいて、彼女がじゃまになったらしい。

 その言葉は、彼女の性格形成に大きく影響をした。

 だからと言って、許される行動では無い。


「希実?」

 そんな姿を、彼に目撃をされてしまう……

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