第34話『光冠と星滅の激突』
光柱の残光が揺らめき、戦場は一瞬だけ静寂を取り戻した。
その中心に立つ太陽の神子リュオスの周囲には、淡い金色の粒が絶え間なく降り注いでいる。
“存在そのもの”が漏れ出しているような自然な輝きだった。
対して、ネヴラから溢れるのは、世界の理すら侵そうとする異界の闇。
外套の揺れひとつで大地の影が歪み、周囲の色が抜け落ちていく。
二つの“核”が向かい合った瞬間、空気はひび割れた硝子のように震えた。
黒い糸がネヴラの袖口から伸びた。
それは影ではなく“光を喰う線”。
触れた空間を削りながら一直線に走る。
だが、リュオスは手を上げもしない。
彼の体から溢れた光が、自然と糸へ反応した。
周囲の光子が集まり、薄い光膜となる。
影がその膜に触れた瞬間──
墨汁が水に落ちるように、ふわりと溶けて消えた。
光の密度が常軌を逸していた。
太陽の核を持つリュオスは、光を“物質化に近い状態”へと圧縮できる。
それは防御でも攻撃でもなく、ただ彼の存在が世界へ及ぼす影響にすぎない。
爆ぜるような音とともに、ネヴラの影が渦巻き、次の攻撃を形作った。
闇の柱。
それは地を割り、空を吞み込む“空洞”そのものだった。
黒い奔流がリュオスを呑み込もうと迫る。
しかしその瞬間──
リュオスは静かに、半歩だけ前へ出た。
足元から噴き上がる光が柱の根元を持ち上げ、軌道を歪ませる。
次の瞬間、柱は空中で二つに割れ、消滅した影の粒が風に散った。
力の優劣は、すでに明白だった。
砂埃の奥で、ネヴラの外套がぴしゃりと揺れる。
ただの揺れではない。
影の震動が、周囲に重い圧を走らせる。
低く歪んだ声が、布の奥から漏れた。
「光よ……我を遮るな!」
苛立ちが影そのものを揺らす。
大地の黒が濃くなり、侵食の速度が上がった。
リュオスは、薄く笑う。
優雅で、どこか楽しげで、しかし侮りではない静かな笑み。
「ほう……ようやくぬしの“色”を見せたな。」
その一言が、火に油を注ぐ。
影が荒ぶり、ネヴラの周囲に黒い圧力が立ち込める。
外套が大きく広がり、影の密度が跳ね上がる。
これは、星の法則を侵す“本気の一端”。
闇が渦を巻き、空間の座標がわずかに歪む。
戦場の空気が引き裂かれ、周囲の音が奪われた。
リュオスはその変化を一瞥し、手のひらに光を集めながら静かに目を細める。
「ふむ。ぬしの全力──我にぶつけてみよ。」
光子が共鳴し、太陽の中心から放たれたような輝きが広がる。
地の色が戻り、影の渦と衝突する。
光と影が噛み合い、弾け、衝突の余波で大地が波打つ。
五人の神子たちは、自分たちの敵と命を削る戦いをしながら、光と影がぶつかるたびに、“別次元の戦い”が背後にあることを痛感していた。
雷が散り、大地が揺れ、影が軋み、未来視が乱される。
その中、リュオスが創る“光の領域”だけは一切揺るがない。
まるで──
太陽がひとつ、戦場に落ちているようだった。
影がさらに膨張し、リュオスを呑み込まんと迫る。
だが彼は動かない。
ただ光を集め、ほんのわずかに顎を上げる。
次の瞬間、光が奔流となり、影を正面から押し返した。
闇の渦が悲鳴のように軋む。
太陽の光が戦場を照らし、影と光がぶつかり合う領域は、もはや“世界が二つに割れた”かのようだった。
神統のレガシア 〜異端の孫は混沌を継ぐ〜 Ren S. @rens3
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