第27話『観測拒絶』
セリオスは深く息を吸い、前に立つ影──ラグド=オラを見据えた。
だがその瞬間、視界がざらりと濁る。
未来が視えない。
どれだけ集中しても、数秒先の動きが黒い
「……なにも、視えない。」
セリオスは未来視を諦め、現実の眼だけで情報を拾おうとした。
だが、ラグド=オラは微動だにしない。
動かない。
気配も読めない。
視線すら向けてこない。
ただ、そこにいるだけなのに──情報が入ってこない。
ラグド=オラは機械のような音程で言葉を落とした。
「視るな。」
その声が落ちた瞬間、セリオスの視界がひび割れたように揺れ、頭痛が走る。
「ッ……!」
ラグド=オラは歩いていない。
身体を傾けてもいない。
ただそこに存在しているだけ。
それなのにセリオスの未来視は完全に封じられ、周囲の空気が不気味に沈んでいく。
セリオスは理解する。
(……こいつはこれから何をするかが視えないんじゃない……今どうしているかすら観測できていない!)
ラグド=オラは微かに首を傾けた。
その仕草にすら、波のような違和感がついて回る。
「観測は無意味。」
その言葉が空気を震わせ、セリオスの鼓膜が一瞬だけずれたように聞こえた。
未来視どころか、音が正しく届いていない。
「くっ……視えないし聞こえない。これじゃ戦いようがない!」
だが、逃げられない。
セリオスは地を踏みしめ、わずかに残る感覚──
足裏の振動、風の流れ、呼吸の音だけを頼りに立つ。
観測ができないなら、観測に頼らない戦い方をするしかない。
ラグド=オラは一歩も動いていないのに、戦場の“密度”だけが高まっていく。
攻撃の気配はない。
でも、確実に迫ってくる。
セリオスは集中し、目視ではなく“肌感覚”で位置を掴もうとした。
(こいつ、情報そのものを遮断して……存在を曖昧にしてる?)
ラグド=オラの声が、耳の奥に直接触れるように流れ込む。
「存在を観測するな。」
途端に──
セリオスの視界からラグド=オラの輪郭が消えた。
「……っ!!?」
そこにいるはずなのに、視界がその存在を避けてしまう。
意識が向けられない。
セリオスは反射的に飛び退く。
次の瞬間。
地面が、さっきまで自分が立っていた場所ごと沈んだ。
(見えてなくても攻撃は来る……予兆すら感じ取れない!)
セリオスは息を荒げながら、それでも立ち向かう姿勢を崩さなかった。
「視えないなら、視ない戦い方を探すしかない!」
未来も現在も視えない戦場で、セリオスは初めて“無観測の戦い”へ踏み込んだ。
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