第26話『未来の欠片』

ネザリオのてのひらが、ゆっくりと傾いた。

その動きは恐ろしいほど緩慢かんまん


だがリュミエルには、もう分かる。


(次は……右肩に落ちる)


理由は説明できない。

ただ、落ちてくる未来の欠片が、薄く光の揺れとなって胸の奥へ伝わる。


リュミエルは素早く光を肩に集中させた。


ネザリオの掌がさらに下がる。


その瞬間──


ズキッ、と右肩へ鋭い痛みが落ちた。


だが、


「……っ、今のは軽い!」


完全には防げていない。

けれど、先に落ちる位置を知ることで光の膜が痛みの大部分を抑えていた。


ネザリオのまぶたがわずかに開く。

それは驚きというより、興味の気配。


「……未来が読めるのか。」


リュミエルは小さくかぶりを振った。


「読めてはいない。でも、あなたの落とす欠片の方向と強さ……なんとなく伝わってくるの。」


ネザリオは一歩だけ前へ。

その足取りも遅いのに、空気の重みが一段階深く沈んだ。


「では、次は……」


掌がわずかに上へ動く。

今度は痛みの重みが胸の奥から伝わってくる。


(胸の中心……深く!)


リュミエルは咄嗟に詠唱する。


「光よ……未来より先に照らせ──先環障せんかんしょう!」


胸の前に光が折り重なり、三重の膜が生まれた。


直後に痛みが落ちる。

深い衝撃が胸を打つはずだった。


だが、光の膜が割れながらも痛みの衝撃を和らげた。


リュミエルは大きく息を吐く。


「前より受けられる!」


完全ではない。

でも、確かに前進している。


ネザリオの手の動きが一瞬止まった。

ゆっくりと、指が閉じる。


「読まれると……困る。」


リュミエルの身体が強張った。

今までと違う。


未来から落ちてくる痛みではなく──


まるで、未来そのものをズラす気配。


「……っ!今の何?」


ネザリオの声は淡々としている。


「未来を組み替える。欠片ではなく……“本体”も動く。」


(未来そのものを動かす?そんなもの来たら光で防ぎきれない!)


ネザリオは掌を、静かに前へ向けた。


未来が揺らいだ。


時間の層がずるりと落ち、まだ来ていない未来の衝撃が薄い光の影のように戦場へ迫る。


リュミエルは震える膝を押さえ、それでも立ち続けた。


「……いいよ、来なさい!私が先に光で照らしてみせる!」


光が彼女の周囲に集まり、ネザリオの未来操作に抗うように脈動する。


ネザリオはその光を見つめ、静かに姿勢を戻した。


「……理解が進んだ。次はもっと深く……壊せる。」


未来が軋む音だけが、空気に染みた。

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