くぎぼっくす
じゃじゃうまさん
綴木
8月14日
花火のように咲き、花火のように散ったあの8月6日も、散り散りに。
散らかった思い出を踏みにじるように、私は家に帰る。
帰路に就く。
妖怪、
現実として、未だに心に刻まれる。
刻み込まれる。
世の中で嫌いなもの、否定したくなるもの。
そんなものと、私はまた出会うのだろうか。
友達がまた。
犠牲になるのだろうか。
「…まぁ、またあのレベルの妖怪に遭遇えばだけどね。」
目の前、電柱に背中を預けている鈴木さんの姿を見る。
鈴木さんたちを見る。
「蜘蛛守蜘蛛はこの土地に長いこと潜んでいた大妖怪だ。数百年、この土地の女の皮を剥ぎ、力を蓄えていた。あのバカみたいな大きさは、それが原因。妖怪は人間と違って、年を重ねりゃ重ねるほど強くなる。」
「…それを、引き寄せたのが…私…」
…少し、ワクワクしてしまう自分がいる。
こんな非日常を、心の奥で求めているのかもしれない。
犠牲を待ち望んでいるのかもしれない。
そんな一面があるのかもしれない。
「…気に病みすぎないで。責任を背負い込みすぎても、いいことないよ。」
「…そうですか?」
「うん。さっきも言ったけど、あのレベルの妖怪が出れば、多少の犠牲者は免れない。でも、基本は人に害を与える、重症を負わせる妖怪なんてのは、よっぽどじゃないと居ない。それに…僕がいる。なんて。」
ははは、と笑う鈴木さん。
前回、蜘蛛守蜘蛛に一人で相対した。
祓うことはできたらしく、事務所には蜘蛛守蜘蛛の顔面が飾られている。
いい家に置いてある鹿のあれみたいに。
ますます不気味じみているが、不可思議じみているが、鈴木さんは誇らしそうに飾っている。
見た目にそぐわず子供っぽい一面がある。
「…じゃ、また明日。」
「…はい。」
帰宅。
そのまま部屋に戻り、メールを整理する。
男友達、委員長、副委員長、女友達…飲食店…
ん?
メールをスクロールする指が止まる。
ふと、知らない名前が一人。
「泣晴詩 屑羽根」
こんな人登録したかな?
話した履歴もない。
名前の心当たりをかんがえていたその時、メールが。
『私を知っていますか?』
知るわけがない。
たわけた質問を投げかけてくる、新手の迷惑メールだろうか?
『私は
知らない名前だ。
まったくご存じではない。
さらに言うならば記憶にない。
泣晴詩 屑羽根。
男性か女性か判断に困る名前だ。
『知りません。』
『そのうち知る事になりますよ。』
不審なメールに違和感を感じながら、私はスマホを閉じる。
ベッドに寝そべり、寝転がり、眠る。
そのうち知ることになる。
きっと。
8月15日
月曜日である。
月曜日だからなんだというのだが、とにかく、必然的に、どうしようもなく月曜日だ。
朝のなんて事のないルーティンは省略し、場面転換。
体育館。
一限目の体育、バスケットボール。
気兼ねなく運動を楽しんでいる私に、委員長が話しかけてくる。
「黒金さん、今日って予定ある?」
「ん?うん、ないことはないけど。どしたの、委員長から遊び誘ってくるなんて珍しい。」
「そんなことないわよ、別に。いや、遊びの予定ではないんだけど。」
「ボーリング?」
「私たち、別にボーリングしたことないでしょ?」
「…今日手加賀美さんへお見舞いに行くのだけれど、せっかくなら黒金さんも来てほしくって。黒金さん、手加賀美さんと仲良かったよね?」
8月6日を境に、入院している手加賀美に、お見送りをするそうだ。
お見送りではなく、お見舞い。
どこへ送ろうとしているのだろう、私は。
「うん、いいよ。」
即答だった。
別に今日は冗談抜き、常識を抜いたとしても予定がないので、そのまま了承した。
委員長と二人きり。
我が女子中の頼れる委員長、
人格者、健康、賢い、理解が早い。
勝てる要素がボウリングぐらいしかないような、私たちの小雪坂委員長。
正直モテてる。
学校を出る際、手加賀美にメールする。
『お見舞い、委員長と行くね。』
『楽しみにしてる!』
委員長と二人で病院まで歩く。
手に果物を入れた袋をぶら下げながら。
何気なく、テストや勉強面の話を繰り返し、折り返していた。
「…ねぇ、黒金さん。」
少し、声色と言うか、声の響きが変わる。
「ん?」
「…黒金さん、妖怪って信じる?」
「…どうして急に?」
委員長は少し間をとってから、話しづらそうに話し出す。
「…昨日の夜、雪が降ってたの。」
雪が?
この辺りはそこまで寒い地方ではないし、第一、まだ八月だ。
「…見間違いではなく?」
「多分…違う。実態は雪その物だったし、冷たかった。」
でも…と、委員長。
冗談ではなく、尋常ではなく、常識では考えられない、そんなものを視認たような、視認てきたような目で、少し遠くを見つめる。
「話しかけてきたのよ、その雪が。」
…あまりに理解しづらいフレーズで、少し固まる。
話しかけてくる雪。
触れられて、冷たくて、話し出す。
「…黒金さん、着いたよ。さっきの話は…また今度話すね。」
気が付くと目の前には、大きな病院があった。
白を基調とした外見、大きい病棟。
白い。
白い?
6日に行ったときは、病院の色合いは黒色だったはず。
黒くはなく、白。
黒くない、白。
白い、雪。
白雪。
「こんニちわ!!」
今、白雪と言ったのは、決して白から雪が連想されたからではない。
目の前に、雪があったからだ。
積もっていたからだ。
寒さが体を襲う。
隣に、正しく言うなら私より少し前に立っている、立っていた委員長も、酷く震えている。
その震えが寒さによるものではないと、すぐ気づいた。
周りの風景が銀色に、白色に染められる。
確かにいたはずの何かが、白色に塗りつぶされる。
「…委員長、これって…」
「…あの時見た…」
「あナたたちハだレ?」
妖怪には、返事をしてはいけないという風習があるらしい。
鈴木さんから聞いた話だ。
それも一説と言うか、別に考え方はそれぞれらしいのだが、妖怪と言葉を交わしてはいけない、というのは、意外とメジャーなようだ。
なぜその説が信じられているのか、はたまた信じられてきたかを、今実感している。
これらは確かにハッキリ、確実に私たちの言語を使っているし、間違いはない。
しかし、これらと話すと、どこかに連れていかれるのではないかと言う気がする。
知らないどこかに。
死らない、どこかに。
「おハナシ、しよ?」
それは雪の形を保っている。
床に積もっていて、重なっていて、溶けている。
声は、雪からする。
雪から聞こえる声は、人の声とは言えない。
機械的なようで、生物に似て非なるような。
その無邪気なセリフと対を成すような、不気味な鳴き声に、あの日のような感情を抱く。
「妖怪…」
「帰ろう。」
委員長が突然、空気をぶつ切りにするように話す。
「早く、早く帰らないと。」
「ちょ、ちょっと待って…」
「ゲンき?おトもだチなロ?」
委員長が私の手をつかみ、来た道をそのまま、走り出す。
霧のようなもので前が見えない中、ひたすらに走る。
「ちょ、お見舞いっ…」
「…ないと…」
「っ…?なんて…?」
「帰らないと。帰らないとダメなの。怒られちゃう。」
「帰った方が幸せなの。幸せ。幸福。」
「帰らないと不幸せ。不幸。」
「だから帰らないと。家に。私も、黒金さんも。」
「第一帰らないとお母さん心配しちゃうよ?」
「お母さんはみんなのことを考えてるんだから、顔を見せて心配させないようにしないと。」
「早く、早く、至急に帰ろう。うん、その方がいい。当たり前に、必然的に。」
「黒金さんもそう思うでしょ?」
あまりの剣幕に、あまりの重圧に、対応を遅らす。
妖怪以上に妖怪じみている彼女に、恐怖に似た感情を抱く。
ぶつぶつぶつぶつ、口から言葉を吐き捨てる。
無表情のような、闇の染みた表情で私を見つめる。
手を握る手が強いことに気付くことへ送れるほど、そのオーラに気圧される。
「…私は、行かないと…」
「行かないとダメなの?」
どうして?と、委員長。
視線を、目を下へ向ける私に、耳元で囁く。
「明日行けばいいじゃない。今日行く必要なんかないよ?見ないふりをする勇気がない人間はダメだよダメ。黒金さんはダメな方なんかじゃないよね?」
彼女の一言一言が、とても彼女自身から、小雪坂虹海から本心で言われている言葉ではないことを、私は感じていた。
まるで、言われたことを反復しているような。
「…私は…」
私は
私は
私は
行かなかった。
自分の意志で行かないと決めたと明言しておく。
彼女に気圧されたことも理由にあるが、触れたくなかったからだ。
視認たくなかったのだ。
聞きたくなかったし、聞かされたくなかった。
これ以上何も聞きたくなかったからだ。
雪の鳴き声も、委員長のあの言葉も。
家に帰り、気絶するようにベッドに倒れ込む。
私の選択は間違っていたのか。
私の
選択は。
8月15日
月曜日である。
月曜日だからなんだというのだが、とにかく、必然的に、どうしようもなく月曜日だ。
省略
学校を出る際、手加賀美にメールする。
『お見舞い、委員長と行くね。』
『楽しみにしてる!』
意識が、と言うより、昨日…厳密にいえば
昨日の、雪を、委員長を思い出したのは、この時だった。
「…委員長。お見舞い行く前に寄りたいところあるんだけど、いい?」
「?うん、いいけど…ボウリングとか?」
「いや、その…」
校門からしばらく歩き、私と委員長は到着した。
古めかしくはないが、中途半端な、彼…正しく言うなら彼らの事務所に。
「?あぁ、舞ちゃんと…そちらのお嬢さんは?」
「あ、えっと…」
「…黒金さんと同じ中学校で共に勉学に励ませていただいております。小雪坂 虹海です。」
あまりに小綺麗で、少し白々しいような挨拶をする委員長。
鈴木さんは少し委員長を見つめてから、少し険しい表情で委員長を見つめる。
「…鈴木 京浜だよ。よろしくね。…ねぇ、虹ちゃん。」
いきなり変なあだ名をつける癖は変わっていないようだ。
「で、話は?」
省略
「…雪、か。話しかけてきて、語り掛けてくる、怖い雪。逃げ出したくなるような…」
「…はい。」
「
「…はい?」
「その妖怪の名前だよ。多分、間違いない。」
私が最初に取った行動は、まず相談だ。
私の知る中で、一番妖怪に詳しい人。
一番、私を助けたであろう人。
「話雪。別名は離し雪とも呼ばれる。人と話し人を離す。記憶を引き出し、トラウマを…根源を引き出す妖怪。そして…」
「…そして?」
「…話雪は、何かを見て見ぬふりした人間に現れる。見ない振りした、見捨てた人間に。」
見て見ぬふり。
見ないふりに…見捨てた。
見たという事実を隠した。
見過ごした。
「…あるんじゃないのか?君の…見るべき、立ち向かうべき
「…私の…過去…」
「…何も、何もかも、決してそれを一生背負って生きていく必要なんかない。今だけでいい。今、君が終わらせるんだ。見るんだ。その悪しき過去を。」
俯く委員長を置いて、鈴木さんは私を呼ぶ。
手を引かれ、手をつかまれ。
「どうしました?」
「…舞ちゃん。なにか、今隠してることとかない?」
まだ、私がループしているという事実は、鈴木さんに伝えていない。
それは鈴木さんを信用していないわけでもないし、気のせいだと思っているわけもない。
「ないですよ。別に。」
「…ならいいけども。」
鈴木さんはふっと笑い、すぐに委員長のほうへ戻る。
その男性らしくない長髪を両手でまとめ上げ、再び椅子に座る。
私も、少し離れた席に腰掛ける。
俯いていた、下りていた委員長の視線は、少し上を向いていた。
「…四歳のころ、弟が生まれました。いい子でした、本当に。」
「あの頃はお母様も優しくて、お父さんも…」
「きっと、もう帰ってこない、温かい時間でした。」
…もう、帰ってこなかった…と、少し悲観的に話を止める委員長。
「…帰ってこなかったって…家に?」
「まぁ…うん。ずっと…帰ってこないんです。
「…理由は?」
少し、深呼吸をしてから、ゆっくり話し出す。
「…誘拐です。」
「…!」
「下校中に、少し寄り道していたところでさらわれました。厳密にはさらわれたらしい…ですけど。」
「…どうして私たちなんですか。私たちの家族なんですか。」
「…それは…」
「その日から、みんなおかしくなって…お父さんも…お母様も…」
委員長のプルプルと震える右手が、自分自身を包み込むように置いてある。
その手をそっと、ワイシャツのボタンにかける。
「…お母様に、つけられた傷です。」
ワイシャツを脱ぎ、背中を私たちに見せる。
裂傷のような、爪で引っかかれたような傷。
噛み跡。
やけど。
皮を剥がされたような跡。
一番新しい、鞭の青紫色の跡が背中のいたるところに入っている。
「…お父さんは、家を出て。養育費は振り込まれますが、お母様の宗教へのお布施でほとんどなくなります。」
「…どうして、ここまで…誰かに言ってたら、傷も少なく…」
「…私がせいです。」
「…委員長のせい?」
「私が…見捨てた、見過ごした、見て見ぬふりをしたんです。」
「連れ去られる、様子を見たんです。」
委員長の目は、視線は、もう歪んでいる。
前を向けていない。
「止めようかとも思いました。でも…もし助けたら、私はもうかまわれなくなるかもしれない。チャンスなんだと思ったんです。氷頭巳が…邪魔だったんです…。」
「…その、せいなんです。きっと。こんな惨状になったのは…」
委員長は再び俯き、絶望した表情をする。
「…先に言っておくと、僕は今回対処しない。」
「えっ?」
「そんな驚いたような声を上げるなよ舞ちゃん。当たり前だ。別に話雪自体、殺傷性があるわけでもない。今回の虹ちゃんの罪悪感と過去が強すぎるせいで、こんなありえない現象を起こしているんだ。」
「…でも、鈴木さんがいないと…」
「立ち向かうのは、あの子だけでいいんだ。あの子が初めて、あの子が終わらせないといけない
「…」
「いいかい、虹ちゃん。別に大人としてとか、妖怪の対処を心得ている僕からのアドバイスじゃないぞ。一人の、鈴木京浜からの助言だ。」
「…はい。」
「絶望していい。後悔していい。瓦解していい。崩壊してもいい。ただ、終了するな。自分を自分で終わらせるな。」
自分を保て…と。
事務所を出た私たちは、病院に向かう。
「…いつ現れるかわからないから、黒金さん…」
「ん?」
「…手つなぎたい。」
「えっ?いや…」
「…もし雪が見えたら、ちゃんと…立ち向かう、見るから。」
委員長の珍しい、甘えたような様子に負け、手を握る。
彼女の細くて柔らかい指に、可愛らしさを感じる。
「…大好き。」
「えっ!?」
「ふふっ、冗談。」
今回、今は、病院をしっかり見てみる。
黒い病棟。
段々と、
少しずつ、
確実に、
白色になっていく。
「マた、キたね。ク、クク、くろガね?」
「!?」
私は、私がループしているという事実を、鈴木さんに伝えてなかった。
それは鈴木さんを信用していないわけでもないし、気のせいだと思っているわけもない。
言ったところで、大して変わらないと思っていたから。
事態を紛らわしくしたくなかったからだ。
「イ、イうトおりダ。クズバねの、イうとおリだ。ホんとにきタ。」
なぜこいつは私が二回目であることを知覚している?
こいつがループの原因か?
屑羽根?
屑羽根。
泣晴詩 屑羽根?
なぜあいつのことを知っている?
屑羽根の言う通り?
あれが一本絡んでるのか?
というより、前回より、話雪が話せている。
話雪の言葉は、オウムが鳴き真似をするような、鳴き声に近いものじゃないのか?
コミュニケーションが取れるのか?
でも、前回は言葉を理解してるように見えなかったぞ?
「く、黒金さん。話雪と会ったことあったの?」
「ち、違う…いや、違わないけど…話雪自身が知覚してることが、おかしい。」
「ク、クク、クズばネのオかげ。まタ、くロガネにアえた。」
まったく別問題が発生した。
もう委員長の過去とか、そんな問題とは別問題が発生した。
間違えた。
いつもこうだっ。
「どうしてっ…」
「ねェ、どうやっテそんナコとしたノ?よクわかんナいなァ。」
前に進もうとする。
まだ試していない行動だったし、病院内に張れば大丈夫かと思ったからだ。
進めない。
地面が動かない。
いや、足が動いていない。
視点が下に行く。
下に、落ちる。
今の状況を理解するのに、時間がかかった。
意識が消える数秒前、理解に達した。
首が落ちたのか、私は。
「アれれ?コロさなようにカゲンシたのに…モろいなぁ。」
8月15日
月曜日である。
省略
「?あぁ、舞ちゃんと…そちらのお嬢さんは?」
「あ、えっと…」
「…黒金さんと同じ中学校で共に勉学に励ませていただいております。小雪坂 虹海です。」
省略
8月15日
月曜日である。
省略
8月15日
省略
「…舞ちゃん。なにか、今隠してることとかない?」
「…え?…そんな、こと…」
「…顔色悪いよ?」
8回目。
4回、殺された。
いくつかのことが分かった。
・ループを思い出すのは、手加賀美にメールを送った時から。
・お見舞いに行かないと、恐らくループする。
・無理矢理に行こうとすると、必ず殺される。
・どんな方法で死んだとしてもループする
・話雪は、私と会った回数をカウントしている。ループ自体をカウントしているわけではない
・泣晴詩 屑羽根が関係している。
「…繰り返してるんです。
「…繰り返すって?」
全てを話した。
視認たものを。
聞いたものを。
遭遇ったものを。
「…繰り返す妖怪なんて、正直見当がつかない。そんな摩訶不思議すぎる…ましてや、時間の壁を超える妖怪なんて、それはもう超常の類だ。まぁ、妖怪が超常ではないという保証もないのだが。」
「…あるとすれば、
「…まぁ、信じよう。急にそんな嘘をつく理由もないし。」
私は8回目にして、鈴木さんにループのことを話した。
「…舞ちゃんはとにもかくにも、虹ちゃんを信じるしかない。じゃないと、そのループは終わらない。」
「…そんなこと、何回も…」
「君の積み重ねは、無駄じゃない。」
目を逸らさず、虹ちゃんを見なさい…と。
目を向けていなかった。
ループの事ばかり考えていた。
委員長のことを、見れていなかった。
すぐに委員長のほうへ戻る。
その男性らしくない長髪を両手でまとめ上げ、再び椅子に座る。
私も、少し離れた席に腰掛ける。
俯いていた、下りていた委員長の視線は、少し上を向いていた。
省略
省略
「ア、えッと…6回目…?」
「…委員ちょ…虹海。」
「ん?」
私は深呼吸し、虹海の方を見る。
見つめる。
「…向き合ってきなさい。」
「…うん。」
8回ループして、前に行きさえしなければ、危害を加えなければ死なないことを知った。
そして、話雪は虹海のことは知覚できないらしい。
「…氷頭巳。」
雪を手に取る虹海。
「…ごめん、ごめんね。お姉ちゃん。ずっと…」
「いつも逃げて、氷頭巳から逃げて…」
視線はまっすぐに、一つを見つめる。
「自分の事しか、考えてなかった。」
「ほんとに、ごめんね。」
「大切なのは、私たちに必要だったのは、いつも氷頭巳だったのに…」
「大好きだよ。」
言葉に押され、雪が解ける。
白が、黒になる。
溶けていく雪を見届けた虹海は、そっと私を見る。
「…大好き。」
「…えっ?」
「…ふふっ。」
「…冗談?」
「…言わない。」
病院に入り、手加賀美の病室に向かう。
「…おはよ。早かったね。」
病室の窓際には、小鉢に植えられた、小さな赤い木が置かれていた。
くぎぼっくす じゃじゃうまさん @JAJaUMaSAn
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