第12話 決死の河口さん

それから受験やら何やらと慌ただしく過ぎていった。


お互い家も出るしこの先も部屋決めやら次の生活に向けてやる事も沢山あった。


河口さんとは県もかなり離れる事になるので多分リアルで会ったりは難しいだろう。

思えば不思議な関係だった。


卒業後も会おうって程の友達…とも言える付き合いの深さでは無かったかも知れない。


ただ、河口さん曰く俺と話して夢を決めたと言ってくれたし、俺も初めて小説なんて書いてみるきっかけも貰えた。


思い返せばただのんべんだらりと駄弁ってただけな気もするけど、悪くない時間だった。


学校では絡まない様にしてたけど、今日で卒業なんで、ちゃんと河口さんには挨拶しておこう。



○○○○○○○○○○




「田中、今まで駄弁ってくれて有難う。田中と話してる時間は悪くなかったよ。」


河口さんから声をかけてくれて尚且つ俺が頭で思ってた事まんま言ってる。


思わずおかしくなって笑ってしまった。


「なんだよ〜笑うなよ〜気分悪いなぁ」


「違う、ごめんごめん、俺が思ってた事まんま河口さんが言ったから面白くてつい…」


「まあ今日で最後だしな。大目にみてやるよ。ところで田中、私の恋バナ聞いたら新しくBL書いてくれる?」


「ん!?もう聞いたし、あれで打ち止めでしょ…新たに好きな人出来たの?」


「いや、違う。同じ人だけどさ。今日で卒業だから告ろうと思う。その経緯話したら書いてよ」


「おいおい、俺の為にそこまですんなや」


「いーや。田中の為だけじゃない。ここで綺麗に散って気持ち切り替えて新しく始める為。あわよくば田中にBLかかせる。」


「なんかこれもう脅迫に近いお願いだぞ…まあその心意気しかと受け取った。了承したからしっかりフラれてこい。聞きながら多少は慰めてやる。」


「まだ付き合う可能性もゼロではないっ!ではいざ参る!」


河口さん大丈夫かなあ…




○○○○○○○○○○




「有難う、嬉しいって言われた…」


「うん」


「千春とはこの先も友達で居たいけどダメ?って…」


「まあなあ…そうなるよなあ。でも断り方は割とスマートだなギャルなのに。」


「有難うって答えてそのまま走って逃げて来た…」


「まあ若干コミュ障気味の河口さんにしては頑張ったと思うよ。元気出しな。」


「田中の癖に〜優しい事言いやがって」


「お前はジャイアンか?ガキ大将かよ。」


「まあ私県外行くしっ、多分東京で就職するしっ、顔は合わせなくて済むしっ、なんなら一生会わないかもだしっ…」


「そだね…」


「あはは…ざまー私…」


「ヤケになりなさんな…」


「ホントにさ…好きだったんだよ…7年間…」


「うん…」


「スッキリしたぜー!キャンパスライフ楽しんでやっからなー!みとけや田中ー!」


「なんで俺八つ当たりされてんだ…」


「約束忘れんなよ田中ー!」


「河口さんも達者でな。」








誰かを本気で好きになってぶつかって散って傷ついた河口さんを見て


誰かに思いを寄せている、好きでいる時の河口さんが好きだなぁと


何となく思った。

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