姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~

ノリト&ミコト

序 章

プロローグ(上) 紅蓮の闇が襲い来る~守りたい者、立ち上がる者~

 怒声と悲鳴。


 爆音と同時に紅蓮の炎が立ち昇り、一瞬遅れて大量の煙が舌を伸ばす。

 白大理石でできた天井を走り、床に降りると逆流した。


 爆煙と炎に、短い悲鳴を上げたのは、まだ幼い少女。


 炎に照らされて、その柔らかな色合いの金髪が赤く染まり、薄青い瞳には涙が浮かんでいる。


 ジニア・プローフ・ジャネット。


 エスパルダ聖皇国の皇孫皇女で、大陸の守護者たる女神・ディエルの加護を受けた巫女姫。


 暁の女王とも呼ばれるディエルは、公正を司る法の番人であり、秩序を守るために自ら戦場を駆ける戦女神。


 その巫女姫であるジニアは戦乙女とも呼ばれている。


 とは言え、皇孫皇女という高い身分を持つ、まだほんの11歳の少女に、緊急事態への対応能力などあるはずもない。


 ただ、よく似た同じ年頃の少年と2人、震えながら抱き合うだけ。


 カルロス・グラジオス・ジョーン。


 10歳になるエスパルダ聖皇国の皇孫皇子は、ジニアとは年子の弟。


 ジニアより少し濃い目の金髪に、目の色もジニアより少し濃い青である紺青色。


 その瞳は見えざるものを見る力を持っていて、他の人には見えないソレに幼いころから怯えて来た。


 カルロスが泣きじゃくっているとジニアが駆け付ける。


 そうするとソレらはあっという間に霧散してしまうので、カルロスにとっては間違いなくジニアが救い主だった。

 

「姫様!皇子!」


 身を寄せ合う幼い姉弟を、駆けつけた年若い見習い騎士が呼ぶ。


「……ディアス……」


 ご無事ですかと、やや早口で問いかけたディアスの姿を見るなり、ジニアは本格的に泣き出してしまう。


 ディアス・ラーシア・ファーン=フロークス。


 フロークス侯爵家の嫡子で姉弟の幼馴染。


 2人の護衛騎士候補兼側近候補であり、15歳になれば正式に騎士に叙任されることが決まっている。


 銀の髪には煤が付いて薄汚れ、整いすぎて冷ややかな面立ちの中に赤い瞳が目につく。


 駆け付けるまでにも色々とあったのだろう、身に着けた騎士服のあちこちが汚れていて、息も上がっている。


「すぐに外へ!ここは危険です」


「どこへ行けると言うのです?」


 促したディアスに、この惨状には似つかわしくない、ひどく穏やかな声が投げかけられた。


「何者だ!」


 はっと、声の方を向いたディアスの鋭い声に、これ見よがしな溜め息が返る。


「まったく面白みのない言葉ですね…たまには違った反応も見てみたいものです」


 黒ずんだ、血のように赤い髪と目をした美しい青年は、人の姿をしてはいたが人間ではなかった。


 その背に、黒い網目模様の蝉の羽を持っている。


「魔物!?」


 悲鳴を飲み込んだ3人に、青年は不快げに眉を顰めた。


「そんな低俗なものと一緒にしないで下さい。私の名はアーグ。純血種たる魔族……女神の巫女。貴女を殺しに来た者です」


「っ!そんな事は……っ!」


「させない?心がけはご立派ですが、たかだかクウォーターの分際で私の相手になれると思っているのですか?それは、思い上がりと言うものですよ?」


「__っ!!」


 ざっと青ざめたディアスは無言で相手を睨む。


 アーグと名乗った魔族は、変わらず穏やかな微笑を浮かべたまま。

 眼差しは余裕を湛えている。


 小さく笑ったアーグが軽く右手を掲げる。


 その掌に炎が生じ、軽く握って振り下ろすと細く伸びて剣に姿を変えた。


「たかだかクウォーターとは言え、仮にも血を持つ者がディエルの巫女のお守りとは、嘆かわしい限りですね。まあ良いでしょう。その辺りで大人しくしていて下さい」


 顔の前で剣を構えて、にこりと笑ったアーグは言い様、軽くひと薙ぎする。


 生じた剣圧は赤い炎の筋となって、とっさに身構えたディアスを難なく吹き飛ばす。


 背中側から強く、壁にぶつかって、ひび割れた大理石がぱらぱらと散った。


 衝撃で競り上がった息と共に血を吐き出す。


 ぐったりとして、自由の利かない体で、それでも手は床を這って剣を探し、重い頭を必死で持ち上げた。


 霞む視界で魔族の姿を求める。


「ディアス!」


 ジニアの悲鳴が耳朶を掠めた。


 一方のアーグは、既にディアスからは興味を失って、身を寄せ合う幼い姉弟を見る。


 一歩、足を進めると、はっとしてカルロスが立ち塞がった。


 小さな両手を懸命に広げてジニアを庇い、恐怖に怯えながらも真っ直ぐにアーグを睨み付ける。


 アーグは小さく苦笑した。


「ご自分の命より姉姫様の方が大切ですか?そこにそうして居ては怪我をするだけでは済みませんよ?」


「姉上に、手出しはさせない!」


 震えて、怯えて裏返った、甲高い少年の声と同時に空気が動いた。


―――――――


ご覧いただきありがとうございます。


冒頭から不穏な始まりとなりましたが、いかがでしたでしょうか。


【本日の投稿スケジュールについて】


本日は、この後も約45分間隔で第1章 第4話までを連続投稿いたします。物語の全貌がわかるまで、ぜひ続けてお読みいただけると幸いです。


【今後の連載スケジュールについて】


明日以降は、毎日21時に1話ずつ更新予定です。


【お願い】


「面白い」「続きが気になる」と感じていただけたら、★(星)や応援コメント、フォローをしていただけると、作者の大きな励みとなります。


【本作は第1部まで執筆完了済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「小説家になろう」にも投稿しております。】

――――――

ノリト&ミコト

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