読者の諸君は「白金の城のムネきゅん☆岸田京子~渋谷激闘編~」と言う作品をご存じだろうか 【第二報】

先ずは諸君に謝らねばならない。第一報から大きく時間が空いてしまった。


いつの間にか12月も半ばに差し掛かろうとしている。ここまで心の支えにしてきた「架空アニメ Advent Calendar 2025」も気が付けば10日目に突入していた。ざうらく氏の「第七特区の烙印(スティグマ)使い」の解説で当時の胸の高鳴りを思い出した。


さて、現在は木下へのインタビューから一週間ほど経った頃である。木下は1983年から1984年にかけて放送されたTVアニメ「白金の城のムネきゅん☆岸田京子~渋谷激闘編~」の監督の一人である。本作品の概要は12月5日の第一報を参照してほしい。


その木下へのインタビューの結果があまりにも衝撃的であったため、しばらくは外出もせず息を殺して生活をしていた。ようやく気持ちの整理が付いたので筆を進めようと思う。


まずは、読者諸君に改めて「白金の城のムネきゅん☆岸田京子~渋谷激闘編~」の製作ルールを共有しておく。各話の製作工程は大きく2ステップから成る。


【第一ステップ】


第一ステップでは各話の前半(Aパート)を作成する。第一ステップに於いて担当の監督に提供される情報は以下である。


(A)前話までに登場したキャラクターの名前

(B)前話のラスト5秒に相当するアフレコ台本


(A)の登場キャラクターの情報は話の変わり目で登場人物が突如消えるなどの致命的な不具合を回避するためのものである。(B)の「前話のラスト5秒のアフレコ台本」こそがこの作品の肝となる。


これが第一ステップである。


【第二ステップ】


続く第二ステップでは後半(Bパート)を作成する。第二ステップでは以下の情報が提供される。


(C)前話のアフレコ台本


ここで初めて監督は自分のストーリーと前話とのギャップに気づく。そのため後半のBパートでそのギャップを埋めつつ次の担当者へうまくバトンを繋ぐ必要が生じる。これは、物語の整合性を過度に崩壊させることなくシリーズを展開するための仕掛けである。


ここでお気づきの読者もいると思うが、監督間でビジュアルの情報は一切共有されない。各監督は自分の裁量でキャラクターのビジュアルを定義することになる。当然キャラクターの見た目が各話で変わる事態になるため、視聴者の混乱を避けるため「Aパートの冒頭でなるべくキャラクターの名前を呼ぶ」と言う紳士協定的な緩いルールも存在したと言うことだ。


さて、ルールが整理できたところで、本編を解説していく。


序盤は主人公のキャシーとスワロウテイル(本名:田中清美)を中心に物語が展開していくが、この時点でこの作品の特徴が色濃く表れる。特に第一話「あこがれ」と第二話「ムネきゅん☆カレー大作戦」のギャップが激しく、お嬢様学校の生徒であったキャシーやスワロウテイルが二話ではいきなり三頭身の獣人キャラクターになると言う混沌ぶりである。


第二話を担当した木下はこう語る。


「二話目にしてこの企画の難しさを痛感した。我々は取り返しのつかないことを始めてしまったのではないかと深く後悔した。他の監督に相談しようと思ったが生真面目な二人はルールを守り、俺からの電話と分かるとガチャリと受話器を置いた。Bパートを作るときに、近藤がオオワシとスワロウテイルのキャラを俺がミスリードするように仕向けていたと知った。もう誰も信じられなくなった。とにかく腹が立ったので第三話の尚子に俺と同じ苦しみを味あわせようと思ってあのラストにした。」


当時を思い起こして渋い表情を浮かべる木下から「監督間のコミュニケーションが取れない」という縛りが相当なストレスであったことが見て取れた。


そんな中、Bパートで物語を上手く立て直す様々なテクニックが繰り出されたのも本作である。特に近藤監督は暴れ馬のような物語の軸を実に巧みに制御していたと思う。例えば第四話「モンキチとぼく」は、キャラクターの容姿のブレを逆手に取ったストーリーが秀逸であった。筆者が一番好きな回である。さらに、相沢監督の「ご都合主義」を活用した物語の立て直しも、少年向けアニメを得意としていた彼女らしさが出ており本作品の見どころとなっている。


こうして物語は右へ左へ蛇行しながらも一定の安定感をもって進行していくのだが、続く第五話で急激に物語が崩壊に向かう。その問題の第五話を製作したのが木下である。


「第四話のラストを見たとき『ふざけるな!』と思わず声が出た。第三話の流れで第四話がアライグマのキャシーで終わるわけがない。これは近藤の俺への当てつけだと確信した。それにあいつ。尚子だよ。その頃たまたま大アニの廊下で出会ったときに食事に誘ったんだが、物凄い顔をして断られた。もうあの(編注:コンプライアンス上の問題により削除)を徹底的に困らせてやろうと思った。」


第五話は主人公「キャシー」の死と言う衝撃的な形で幕を閉じ、後に「岸田京子編」と呼ばれる後半戦が幕を開けるのだが、その内容はもはや意味不明と言って差し支えないものだった。


当時の我々にはその理由を窺い知ることはできなかったが、これは砂上の塔のごとき監督たちの関係性が限界を迎えた結果だったのだ。


「今でもわかんないんだけどさ。あの時の俺の気持ちは尚子や近藤に対する才能への嫉妬だったのか、それとも昔からずっとあいつらが嫌いだったのか、もしくは好きだったのか。なんにせよ俺は完全に壊れていた。大アニには顔パスだったから総務に忍び込んで尚子の住所をメモしてさ、それからレンタカーを借りて千葉の尚子の部屋まで行った。インターフォンをなんども押していると尚子が出てきて露骨に嫌な顔をしたんだよ。そこでぷつんと記憶がなくなってさ。気づいたら自分の部屋にいたんだ。そこに尚子もいた。尚子は押入れの下の段で手足と口をガムテープでグルグル巻きにされててさ。はじめはギョッとしたんだけど、じきに「まぁいいや」と思った。念のためにガムテープをありったけ巻いてやってから仕事に行った。完パケを確認して俺は旅に出た。とにかく寒かったのを覚えている。長かったよ。いろいろ。今はあんな企画を持ち込んだこと自体を後悔しているし、二人には叶うならば謝りたい。」


酩酊した木下から発せられた言葉に危険と恐怖を感じた筆者は、ここでインタビューを切り上げ逃げるように店を出た。


物語の中でも段違いに病的な描写の多い第八話はこの時期に木下が製作したものである。「白金の城のムネきゅん☆岸田京子~渋谷激闘編~」において木下の担当話はいずれも異彩を放っていたため筆者は木下のことを「奇才」と評価していたのだが、その裏側ではこんな重篤な感情が渦巻いていたのだ。


今でも木下の話と虚ろな目を思い出すと手が震えるが、本記事を中途半端にするわけにもいかないので最後まで執筆を続けようと思う。


第九話、十一話、十二話は「突如失踪した」相沢監督と木下に代わり、太田一郎が監督を務めた。


物語の世界観は一変し、新キャラクターの岸田京子がメタルヒーロー「ガガガール」となって、仲間のモンキチ(本名:門倉吉利)と共に怪人を倒すという低年齢層向けのストーリーとなった。ガガガールのデザインは当時サンセット社のクレジットでシリーズ化されていた「ガガリアン」の造形に酷似しており、大アニから太田へ「手段を問わないテコ入れ」が依頼されていたものと推測する。

なお、ガガガールは2022年公開の映画「劇場版 歴代ガガリアン大決戦 -Shibuya ReWars-」にて、敵の「ガガリクローン」の一体として登場しているので特撮ファンの諸君は探してみるのもいいかもしれない。


ここまでが諸君への報告になる。


作品内外とも混迷を極めた本作はVHS等の映像パッケージ展開は為されなかったが、今年10月に名日テレビで再放送時のテープが見つかったことを受け現在BD化のクラウドファンディングが進行中である。


興味のある諸君は一口出資してみてはどうだろうか。


※2025年12月11日追記


その後の調査で「木下洋平監督」こと本名「大倉田太彦」は第八話放送の半年後に広島で監禁罪で逮捕され、懲役7年の実刑判決を受けていたことが分かった。そして1991年7月に刑期を終え出所していたことも明らかになった。

そもそも相沢監督は現在でもご活躍中であることから、この事件は最悪の事態には至っていなかったと言うことだ。そして彼の「けじめ」も既についていると言うことである。


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読者の諸君は「白金の城のムネきゅん☆岸田京子~渋谷激闘編~」と言う作品をご存じだろうか もぐの @moguno

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