「うしろむき」のメイちゃんという不思議な設定を用いながら、人の心の中で起こるリアルで普遍的な葛藤が描かれています。
「自分自身の価値観」と「他者からの承認/調和」の間で揺れ動く人間の脆さ、そして、他者を気にするあまり大切な誰かの「ありのまま」を裏切ってしまう罪の意識が、静かで痛ましい文体で綴られています。読後、暗く沈むような重い余韻が残りますが、これこそが、私たちが人生で犯しがちな過ちを忘れてはいけないと訴えかけてくるようでした。
誰かを大切にできなかった記憶、あるいは、誰かのために自分を偽った記憶をもつ人にとって、痛みを伴うとともに、これからの人生で何を大切にすべきかを気づかせてくれる貴重な物語だと思います。
ありがとうございました。