デアフライシュ 魔弾の皇女
火猫
第1話 近衛騎士は見た
「其方との婚約は解消する!我には運命の伴侶がおるのでな!顔もまともに見せられぬ者など論外だ!」
「…」
金髪碧眼の見かけだけは綺麗な男が声を張る。
対する銀髪金眼の少女はその声が聞こえているのかどうか分からないような、ずっと床に視線を落としていた。
「…懇談会と言う名の国同士の腹の探り合いは、ホスト側の王太子からの声で無かった事になりそうだな…」
会場の端にあるビュッフェのすぐそばに居た俺は、そんな感想を我慢できずにポロリと呟く。
「おい、誰から聞かれてるか分からないぞ」
隣のヤツには聞こえていたようだ。
「聞いていたってかまわねぇよ。それよりお前ンとこの王太子がやらかしてるぞ」
「王太子のとこ、馬鹿ってルビ入ってない?それと、僕にアレ止める肩書きは無いからね」
「アホが。テメェ宰相の息子で側使いだろが。諫言してこいや」
「いやー、無理だなー。それよりも皇女殿下の近衛の君が嗜めたりは……睨むなよ。分かった、分かったよ」
分かったと言い両手を上げて降参のポーズは、止める気は無いようだ。
軽口を言い合えるの仲なのは有り難いな、と思いながらも今後をどうするかと悩む。
コソコソと話し合っているのは王国のアルシントと皇国の語り部たる俺、ロマリオ。いや俺、ただの近衛騎士だったわ。
俺たちは皇国の貴族学院で切磋琢磨した間柄だ。
ちなみに王太子は自国の貴族学園の卒業生である…入学から卒業まで、ほぼコネだったようだが。
てか、男爵の庶子に入れ上げているのはリサーチ済みだし、そのせいで外務を第二王子に任せている事も…ね。
今夜のこの場は隣国であるロークズ王国で婚約式を行う事前の懇談会として場が持たれた。
要するにワンクッション置いて婚約式の心算を確認しようぜ、って感じだった。
なんせお互いが初顔合わせであり、書面と釣書のみでの接触しかしなかったのだ。
ちなみに我がイデカ皇国からは3番目の皇女が輿入れされる。
第3皇女であるヴィレ皇女は、奥ゆかしくも毅然たる態度を取る淑女であり、我が国のしきたりである婚前は前髪で顔を隠すと言う約束事をしっかり守る常識人であった…建前は。
そのしきたりは王国側にだって伝わっているし、なんなら過去にも婚姻はあったのだ。
ふと俺は思考を外し、顔を上げた。
「どうした?あまりの驚愕に言葉も出ないか」
いや、出ないのでは無くて言葉を失ったのだ。
「そもそも前髪を垂れ流し、あまつさえ顔を隠すような醜女を娶る謂れは無い!」
あ、醜女って言っちゃったよ馬鹿王太子。
その割に胸のあたりだけはチラチラ見てるな。
マトモに顔を見もしないで言い切るとは…馬鹿を天元突破してんな。
ちなみに皇国では皇女殿下は絶世の美女であり、スタイルも抜群で皇国のミューズと呼ばれるほどである。
だから王太子も期待したのだろうが…前髪で隠された顔が釣書と違うからだと踏んだようだ。
「皇国の皇女よ、我に殺されたくなければ立ち去るが良い」
は?何故に殺すとか言っちゃうの?マジあり得ないんですけど。
その直後に異変が発生した…ヴィレ皇女に。
「あ“あ“?殺すだと?」
…あれ?なんかドスの効いた声が聞こえたなー、皇女のあたりで。
「な、なんだ?どこから」
まさか皇女からとは思わずにキョロキョロしだす王太子。落ち着かないなぁ。
皇女は顔を上げ、真紅の唇を綺麗に歪めた。
あー、始まっちまったな。
「オメェが言ったんだろがよ、小僧」
…うん、間違いなく俺の知ってるヴィレ皇女殿下だな。
その声は間違いないし、周囲には他に居ないしね。
「オレを殺すだぁ?テメェ、正気か?」
うん、マジでドス効いてるね。マジギレだな。
…まあ、仕方ないよね。
「な、な、な、な」
あー、王太子マジで混乱してんな?わかる、わかるよ?理解出来ないよな。
俺も最初は理解出来なかったからな。
「ちっ。仕方ねぇな…《召喚》バレット」
何が仕方ないか分からないが、皇女殿下から響く声は《召喚》従者、と発音したように聞こえた。
直後に彼女の両手に銃が現れた…アニメで見たことあるようなオートマグだった。
そのステンレスのボディは妖しく光り、王太子の目を釘付けにした。
何故にこの魔法と剣の世界に銃が?と疑問に思う暇も無く。
カシュンッッッカシュンッッッ
軽い音が響くと王太子が膝を折った。
「クソがッッッ。魔弾じゃ迫力が足りねぇ」
直後。
「ぎゃぁァァァァァァァ?!いだいっ、いだいっっっっ!」
皇女の残念そうな呟きと同時に、その場で転がり膝を抱えて叫ぶ。
当たりどころのせいか、大した血は流れていないが…ボコリと膝の皿は陥没していた。あれ?貫通してね?
「うるせぇな、黙れ」
王太子の頭を蹴り上げて意識を刈る皇女殿下…絵面が酷いな。
これどーすんのさ。
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