第15話 蠅

図書館の窓辺で勉強をしていたら、蝿が硝子がらすにぶつかり飛沫しぶきをまき散らして潰れた。


「汚いな」


 死骸からしたたる体液は、あっという間に硝子を黒く染めあげた。


 不安にかられて振り返ると、さっきまで館内にいた利用者がどこにもいない。


 怖くなり、出口へ駆けだしたが、本棚が逃げ道を塞ぐように入り組んだ迷路の中を彷徨った。


「助けてー! 誰かいませんかー!」


 大声をあげると、くじらの胃の中のように薄暗い館内からくぐもった声が聞こえてきた。


 声は群れをなし、大きくなって近づいてくる。


 姿は見えず、声だけの存在に囲まれた僕は目を回して倒れた。


 その日から、持病の発作が始まるようになった。

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