第11話 大惨事

「ただいまー。」

玄関のドアを開ける。

いつもなら、普通なら、返事はない。

しかし、

「おお、帰ったか、アタルよ。」

部屋から出てきた、小さな宇宙人が、僕を迎えてくれた。


「外に出たの?」

見ると、服が変わっていた。

パジャマではなく、外出用の服。


「うむ。腹が減ったのでのお、外に出て、そこら辺の草を食べとったんじゃ。」

「ああ。なるほ……草!?」

草って、雑草のことか?

「安心せえ。ちゃんと毒がないものを選んで食べたぞ。」

重要なのはそこじゃないと思うが、どうやら本当に食べたらしい。


「それは、ごめん。」

「なんでお主が謝るんじゃ?」

当の本人は気にしていないようだが、これは僕の落ち度だ。

学食の弁当を食べている時には気づいていた。

ベルの昼食を用意していなかったこと。

でも、ベルが一日三食食べるのか分からなかったし、お金も家にあったから、この問題を見て見ぬふりをすることにした。

結果がこれだ。

いくら味覚のないベルとはいえ、雑草を食わせるのは気が引ける。

こんなことになるなら早退すればよかった。


「次からはちゃんと昼食を用意してから学校に行くよ。」

「その必要はないぞ。」

「え?ま、まさか毎日雑草を食べて過ごすつもり?駄目だよそんなの!」

「違う違う。違うのじゃ。」

なんだ、と、胸をなでおろす。

しかしそれは、瞬間の安息だった。


「ワシも、高校に行くのじゃ。」

「………………え?」

「む、聞こえなかったかのお?もう一度言うぞ。ワシも高校に行く。ワシはじぇーけーというものになるのじゃ!」

「………………マジか。」

「マジじゃ。調べたぞ、高等学校とやらを。お主の学校を。楽しそうなところではないか。ワシも行きたいのじゃ。行くのじゃ。もう決めたのじゃ。決定事項なのじゃ。」

「………………。」


宇宙人が自分の学校に転校してくる。

これも、よくある、ありきたりな展開で、面白そうなイベントである。

醍醐味と言っていい。

しかし、現実はそうはいかない。

転入試験、については大丈夫そうだが、問題は、それ以前にある。


「ベル。お前、日本国籍とかないだろ。」

「ああ。じゃから作っておいたぞ。」

「え?」

物凄い、ありえない事をすんなりと言われ、思わず間抜けな声が出る。


「そ、そんな簡単に作れたっけ?審査とかあるんじゃ。」

「ああ。色々めんどくさそうじゃったから直接改ざんしといたわい。」

「は?」

物凄い、ありえない事をすんなりと言われ、思わず間抜けな声が出る。

二回目。


「か、改ざんって……。」

最悪の可能性が脳裏をよぎる。

だが、自分でも察しはついていた。

それは可能性ではなく、事実だということに。


「戸籍情報にアクセスして

「うわああああああああああああ!!!!!」

不正アクセス。

おまけに改ざん。

まごうことなき、犯罪。


「終わりだ、終わりだよ。」

昨日今日で叫んでばかりだが、今回ばかりは仕方がないだろう。

ああ、なんてことだ。


「何も終わっとらんし、むしろここからなんじゃが。なにをそんなに絶望しておるのじゃ。」

「僕言ったよね!色々調べる前にこの国のルールについて調べてくれって!」

「言ったな。」

「じゃあやっちゃダメなことくらいわかるだろう?犯罪だよそれは!」

「うむ。確かにこの星の、この国のルール、法律というモノに違反しとる行為じゃったのお。」


「分かって、ああああ!」

生涯最大のピンチ。

本当に、マズいことになっている。


「じゃが、わしらが咎められる事はないぞ。」

「………………はい?」

「アタルよ。この国の法律には、一つ抜け穴がある。」

「まさ

「バレなければよいのじゃ。」


「………………。」

絶句する。

「ワシの改ざんは完璧じゃ。誰も感知できた者はおるまい。安心せい。ははは。」

もはや反論する元気すら、僕には残っていなかった。


「他にも並行して準備を進めておる。勿論、バレないように、じゃ。滞りなく進めば、二週間程度でワシも高校に…。」

バタン、と倒れたのは、僕だ。

体に力が入らない。


「おい!大丈夫か!」

ベルが駆け寄ってくる。

しかし、声は遠のいていった。

不安。

絶望。

罪悪感。

感情が体を縛る。

僕は、しばらくそこから動けなかった。

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