第5話 お騒がせ

「それで、どこに行っていたんだい?」

汚れていたので再度風呂に入ってもらったベルに質問をする。

「ああ。そういえば忘れておった。」

ベルはズボンのポケットからそれを取り出す。

「ほれ、お主のじゃろ。」


川に落としていたはずの、僕のスマホだった。

「えっ、ど、どうやって?どこでこれを見つけたの?」

当然、動揺する。

見つからないと諦めいていたモノ。

と言うか、さっきまで存在すら忘れていたモノ。

何故、今、ここにある?


「お主が色々やっとる間に、この辺り一帯を解析しておったのじゃ。したらお主のスマホというモノを見つけてのお。せっかくじゃから解析を進めつつ取りに行ったわけじゃ。」


理解した。

同時に、驚いた。

「僕の為に?」

「うむ。ワシはこれから色々とお主に世話になる立場じゃからな。恩は返さねばなら…」


「ありがとおおおおおおおおお!!!」

「同じ手は食らわんぞ!」

バタン、と、ベルに飛びかかった僕は床に衝突する。

避けられた。


「まったく、懲りないヤツじゃのお。」

「…ベル。」

僕はゆっくり立ち上がる。


「さっき、恩は返さないといけないとか言ってたよね。」

「言ったの。」

「じゃあ、そうしないとね。」

「うむ。ほれ。」

ベルの方を向く。

スマホを持った右手を、僕の方に伸ばしていた。


「違うんだ、ベル。」

「ん?」

「確かにスマホを取ってきてくれたのは嬉しい。本当に感謝している。でも、それだけじゃ足りないんだよ。」

「な、なんじゃ、お主、顔が、怖いぞ…。」

「だから、抱きしめさせてくれえええええええええええええ!!!!!!!!!」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

二人の絶叫が、夜の街に響く。

そして、


「あだっ!」

ベルがぶん投げたスマホが顔面に直撃した僕は、足がふらつき、そのまま倒れてしまった。

空かさず、ベルが蹴りをいれる。

「ぐえっ。」

いい一撃だ。

「このっ、このっ、愚か者がっ!」

勢いのまま何回も踏みつけられる。

「先程やったであろうこのくだりは!しかも今日三回目じゃ!学ばん、かい!」

蹴り飛ばされる。

流石に痛い。


「はあ、はあ、」

しかし、ベルも疲れてきているようだ。

僕はもう一度、ゆっくり立ち上がる。


「まだ、やる気かのお?」

正直、ここで諦めてもよかった。

でも、

「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

「なんのおおおおおおおおおおおおおお!!!」

続行。

負けたくないという思いが勝ったのだ。


そんな意地と意地の不毛なぶつかり合いは、数分後に僕が少しだけ抱きつけたことにより終わりを迎えた。

結果、僕は、人生で初めて一日に二回、風呂に入ることになった。

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