第4話 失踪
食器を洗い、風呂に入る。
その後着替えて、風呂とトイレのを掃除する。
家事にも慣れたモノだ。
しかし、
「どうするかなこれ。」
洗濯。
自分の服はいつも通り洗えばいいが、問題はベルの服だ。
いや、服と言っていいのかこれは。
堅い、が、伸びる。
ほんのりと温度を感じる。
あと何か光ってる。
「んー。」
しかし、洗わないという選択肢はないだろう。
ここはベル本人に訊いてみることにしよう。
洗濯機も解析してあるはずだから、ベルの服をそこに入れていいか分かるはずだ。
僕はリビングに向かった。
最後にベルを見たのはそこのソファーだ。
さて、何をしているのやら。
いない。
どこかに移動したのだろうか。
一階を探し回る。
いない。
二階に上がり探し回る。
いない。
「おーい。ベルー?どこにいるんだー?」
声を出しながら再度一階を探し回る。
いない。
「おーい。」
庭に出て探し回る。
いない。
「どこに行ったんだ?」
探せども探せども、ベルは見つからない。
まさか、街に出たのか?
いや、それならいい、いや、よくないよくない。
でも、最悪なのは、また、何か、宇宙的な、だから、その、
あれ、でも、なんで、どうして、しかし、あああああ、
パチン。
「……。」
僕は自分の頬を叩いた。
そして、
「…ふう。」
深く深呼吸をする。
「少しは落ち着いたな。」
俯瞰して考えるんだ。
事実だけを受け入れるんだ。
学校の帰り道、僕はベルと名乗る宇宙人と出会い、家に招き入れ、一緒にご飯も食べた。
これは確かな事実だ、うん。
証拠に彼女の服がある。
幻ではない、はずだ。
幻覚ではない、はずだ。
「………。」
ではない。
だからなんだというのだ。
今、大事なのは、ベルがこの場にいないことだ。
これもまた事実であるのだ。
いつ消えた?
風呂に入ってるときだろうか?
何故?
分からない。
突然、まるで最初からいなかったかのように、消えたのだ。
クラッ、とめまいがして、リビングのソファーに寝転がる。
喪失感が、僕を襲った。
「どこに行ったんだよ…。」
弱々しく言葉を漏らす。
脱力したまま右腕を目に被せ、息を浅く吸って、吐いてを、何度も、何度も繰り返す。
そして、
パチン。
「…ってえ。」
今日三回目の頬たたき。
一日の最高記録更新だ。
「絶対肌に悪いよなあ。」
とは言えども、これ以外の気持ちの切り替え方を知らない。
所謂、クセになってしまっている。
「動くか。」
しかし、今回に関しては、この手法をもってしても、気持ちの整理ができなかった。
倦怠感を煩ったまま、立ち上がる。
「勉強、するぞ。」
発言して、決意を固める。
そう、僕は勉強をしなくてはならない。
なんとしてもだ。
使命感に近いそれは、ありがたいことに、今の不安定な状態の僕を動かしてくれた。
二階に上がり、自分の部屋に入る。
一旦、ベルのことは忘れよう。
動いたからか。
勉強のことを考えるようになったからか。
どちらにせよ、数分前の自分から、離れることが出来たようだ。
僕は慣れた手つきでバッグから勉強道具を取り出し机に座る。
そして、始める。
まずは今日の復習と宿題からだ。
背伸びして進学校に入ったものだから、たくさん勉強しないとついていけなくなる。
それはダメだ、と、自分に言い聞かせながらどんどん進める。
四十分くらい経っただろうか。
一区切り着いたので、伸びをする。
少し歩いて、お茶を飲んで、座って、さあ、再開しよう。
ガチャリ。
音が聞こえたのは、そう決意した時だった。
瞬間、僕は椅子から飛び出す。
ドアを勢いよく開け、飛びながら階段を下り、騒音と共に玄関に向かう。
「む。お迎えご苦労。帰ったのじゃ。」
透き通ったエメラルドグリーンの瞳。
柔らかそうな肌とほっぺた。
耳の辺りに謎の機械。
そして、高くて可愛らしい声。
まさしく、正真正銘の、
「ベルーーーーーーーー!!!!!!!」
飛びつく。
抱きつく。
もう離さないと力を込める。
「ぎぃゃああああああああああああああ!!」
ああ、ベルもそんなに叫んで、喜んでくれているみたいだ!
「どこ行ったんだよお!心配したじゃないか!」
「何をする!離せバカ、バカ者!」
ん?
なんて?
離せって?
「離すわけないじゃないか!もう逃がさないからね!」
「いや、じゃから、ちょ、気持ち悪、と言うか死…ぐえ。」
おや。
なんだかベルの力が抜けたような。
「大丈夫かい?」
抱きつくのをやめて、ベルの顔を伺う。
悪そうに見える。
どうしたのだろうか。
「っ!」
刹那、視界が歪んだ。
次に痛みが俺の顔を襲う。
そのまま僕は床に叩きつけられた。
「???」
混乱する。
僕は何をされたんだ?
答えは、直ぐに回復した視力によって判明した。
右手に拳を作っていたベルがそこにいた。
「な、何をしとるんじゃあ、お主は!」
少し頬を赤らめながらベルは叫ぶ。
「初めて会った時もそうじゃが何故ワシに抱きついて来おる!気色悪い!吐き気がするのじゃ!」
「…これはね、文化だよ。地球の文化。ハグさ。」
「嘘じゃ!それは嘘じゃ!ワシは信じんぞ!嘘つきの顔をしておる!」
「酷いなあ、本当のことだよ。」
まあ、僕だけが抱きつく、一方的なハグだけど。
「…やれやれじゃ。」
怒りが収まったのか、ベルは拳を握るのを止め、僕に近づく。
「よく分からんヤツじゃのう、お主。」
「解析してみるかい?」
「思考を覗いたりはできんよ。」
「ふうん。」
しかし、急に出て行ったり。
かと思えば、急に何事もなく帰ってきたり。
僕にとっては、ベルこそ、
「よく分からないヤツだな。」
満面の笑みで、そう言った。
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