第2話 帰宅
「ただいまー。」
普段より遅れて僕は家に帰ってきた。
当然、返事は無い。
「さあ、上がって。」
僕はベルを家に招く。
「ここがお主の寝床か。うむ、失礼する。」
それに乗ってベルは家に入ろうとする、寸前で僕は、
「あ、ちょっと待って!」
一旦止めた。
「ん?どうしたのじゃ。」
「えーっとね…。」
ベルの足元を確認する。
靴を履いていなかった。
「よし!」
僕は急いで洗面所に行き、洗い桶に水を入れ、それを持ったまま玄関に戻る。
「これで足を洗って!」
「おお、すまんの。」
ベルは言われるがまま足を洗い桶に入れる。
意図は伝わったようだ。
まあ流石に宇宙人でも身体を洗いはするか。
見た目も人間そっくりだし、案外、こっちの文化と変わらない星から来たのかもしれない。
所謂、頭と目が大きくてツルツルで灰色の宇宙人、タコみたいな宇宙人、とは違う。
意思疎通、会話もできる。
「アタルよ。」
などと色々考えていた時に、ベルが話しかけてきた。
「なんだい?」
「もう粗方汚れを落とし終わったのじゃが、何か乾かすものはないかの?」
「ああ、ちょっと待ってね。」
俺はもう一度洗面所に行きタオルを取って戻り、ベルに渡す。
「はいこれ。」
「なんじゃこれは?」
「え?」
「ん?」
「なにって、タオルだけど。知らないの?」
「知らぬ。が、なるほど、これで水分を吸収するのかの?」
「え、あ、うん。そう、です。」
「なるほどな。では。」
そう言ってベルはタオルを床に置いて、その上に濡れた素足で乗る。
その後玄関に足が汚れないよう腰掛け、丁寧に水を拭き取る。
…驚いたな。
タオルを知らないこと。
そして何より、使い方を直ぐに理解したこと。
耳についている変な機械といい、ベルのいた星は地球よりも高度な文明をもっているのか?
そうに違いない。
よく考えてみれば、言語が違うはずなのに、話せているのもおかしいことだ。
では、そんな高度な文明をもつ宇宙人が、どうしてこんな所に?
「ほい。返すぞ。アタル。」
「…ん。ありがとう。」
気になるところは沢山ある。
が、まあ、そんな細かいことは、後からゆっくり考えるか、質問するかしよう。
今は、
「じゃあ、家を案内するよ。」
新入居者へ、色々教えてあげよう。
こっちに来たばっかりで、知らないことが沢山あるはずだ。
それを教えるのも、一つの、所謂、宇宙人が地球に来た時のイベントだろう。
なんだかテンションが上がる。
「あーそうじゃの。」
しかし、僕とは対照的にベルは気が乗らないようだ。
「一つ一つ教えてもらうのも悪いからのぉ。お主の負担も増えることじゃし。」
「え、いやいや、全然そんなことないよ。」
むしろ是非教えたいのだけれども。
「いや、よい。ちょっと待っとれ。」
そう言うと、直ぐにベルは右手を地面に付け、しゃがみ、目を閉じる。
『解析を開始します』
ベルから声が聞こえた。
先刻も聞いた、機械のような、ベルではない、声。
『解析が完了しました』
数秒後、また同じ声がした。
「よし。」
今度はベル本人の声が聞こえ、そのまま彼女は立ち上がる。
驚いて、呆然と立ち尽くしていた僕は、そのベルの声で正気に戻る。
「だいたい理解したのじゃ。」
「……え?」
今なんと?
「そうじゃのお。まずはフロに入るとしよう。二階にお前さんが小さい時につこうていたフクがあるじゃろ?あれを貸してくれんかの?」
「あ、え、う、うん、いい、けど…。」
「ん、ありがとうなのじゃ。すまんのぉ。先刻も申したが、何も持ってきてなくてじゃな、しばらくはお主の力を借りることになる。」
それは、別にいいんですけど。
「じゃが、できるだけお主に負担はかけないよう心がける。フクもワシが取りに行くとしよう。」
そう言ってベルは目の前にある階段に移動し、上り始める。
「って、場所分かるの?」
「解析したから問題はないぞ。他の家のモノも、使い方も含めて全て、把握したのじゃ。」
衝撃的な事を発しながら、ベルは二階に消えていった。
「………。」
醍醐味が。
宇宙人に地球の事を教えるというイベントが…。
地球の物に驚く表情を見る楽しみが。
全部、おじゃんだ。
「はぁ、」
ため息をつく。
考えてみれば、地球より技術が発展してそうな星から来ているんだ。
こうなることは、必然だったのかもしれない。
にしても、
「解析、か。」
どのような原理なのかは不明だ。
しかし、いやだからこそ、心動かされる。
耳の機械が、やはり関係しているのだろうか。
なんてスペースファンタジーっぽくて、便利な能力なのだろう。
だが、そのせいで醍醐味を一つ失ったというのは悔しい。
ここは対抗してやろう。
そうだな、アレがいい。
ベルは使い方を含め全てを把握したと言っていたが、これは対象外だろう。
「よし!」
背伸びをして、気合いを入れる。
風呂上がりのベルに、日本の食事というのを味わわせてやるか。
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