ポンコツデータメガネの大阪・関西万博記

藍上イオタ

第1話  チケット購入編



「万博・・・・・・か。経験しておかなければな」


 思い立ったら吉日。

 今日は6月1日。

 メガネをクイと持ち上げ、PCを起動させる。


「遊びなら本気だ。入場は朝一、一択!!」


 まずはホテル探しである。

 そう・・・・・・私は空港も新幹線の駅もないさとの民。新幹線や飛行機に乗るためには、二時間ほどかかる。

 朝一から入場するのは前泊しかないのだ。


「7月まで週末はスケジュールがいっぱいでいける日がない。だがしかし! 8月は暑い上に夏休みで激混みのはず! そして10月は駆け込み万博で混むに違いない。だとすれば、狙うは9月。しかも、稲刈りと台風を避けて月末! ふむ、完璧な計画だっ!」


 高笑いした数分後――。

 私は絶望のただなかにいた。


「ホテル・・・・・・高くないか!?」


 インバウンドの影響か、はたまた万博需要なのか。

 宿泊力金が軒並み高く、茫然自失である。

 新幹線代だけで往復三万かかるのに、宿泊代二泊となると正直まぁ厳しいしんどい。

 

「しかも、ホテルから電車の経路がわからない・・・・・・」


 大阪の地理に疎い。

 私の大阪上陸は、学生時代に大阪城ホールへ行ったのみだ。


「万博会場は海だったはず。ならば大阪駅からは遠いのか? タクシーで行けるのか?」


 もうなにもかもがわからない。


「面倒だな・・・・・・。もう、いいか・・・・・・」


 心の情熱が消えかけた瞬間、データ魂が叫ぶ。

 

「考えろ。なにか策があるはずだ。このまま、大阪・関西万博を知らずに死んでいいのか?」 


 私は閃いた。


「そうだ! 夜行バスがあるじゃないか!!」


 新幹線のない郷でも夜行バスはあるのである。


「夜行バスで京都まで行ったことがある私ならいける! まずは運行時間を調べるか」


 運行時間を調べ、早朝に大阪に着くことを確認。

 万博シャトルバスの停留所と夜行バスの停留所を照合。


「あった! しかも、万博行きのシャトルバス停留所の近くだとぉおっ!」


 みなぎるやる気。


「これで宿泊代と交通費節約できるっ!!」


 ターン!!と押された万博チケット。


 【9/27(土) 西ゲート、9時入場】


 このころはまったく予約に困らなかった。


「これで私の勝率100%っ!」


 さあ、準備の開始である。



 夜行バスの予約は利用日の一ヶ月前からである。

 とりあえずスケジュールにリマインドを入れ、メガネをクイとあげた。

 このときの私は、まだ万博を舐めていたのである。


「シャトルバスは夜行バスの予約がとれてから予約だな。万が一夜行バスがとれないようなことがあっては困る」


 この判断が、のちに色々狂わせていくとも知らずに――。


「さて、次にやらねばならないのは【二ヶ月前抽選申し込み】か。次に【七日前抽選】、そして【三日前先着】で【当日予約】と。合計四カ所は入れるということだな」


 この時点で私の住む郷では万博の熱は全くなかった。

 盛り上がっているのはTwitterだけのように見えていたのだ。


 これまで、私はあまり抽選が外れたことがない。

 データー理論(ポンコツ)で当たりやすいところを狙うからだ。

 外れたのは『フィギュアスケート・エキシビジョン』や某アイドル、『お○あさんといっしょ』くらいである。

 東京オリンピックだって当たっていた(入場できなかったいけなかったけど!!)

 なお、当たってほしくない悪い抽選も当たる。(なんか、教室のカーテン洗う当番とか…)

 そのため、相当な人気がない限り当たるものだと思っていたのだ。

 (ちなみに先着順はメタクソ弱い)


「ふんっ! どうせ、奇特なTwitter民の祭りだろう。きちんとプランさえ組めば余裕に違いない」


 そして、【二ヶ月前抽選申し込み】をする。


「そう! 狙うは『モンスターハンターブリッジ』!!」


 抽選は「指定した時間」+「後ろ1時間」で当選する可能性がある。

 となれば


「1時間ずつずらして、すべて『モンスターハンターブリッジ』!! 完璧な作戦だ!!」


 ターン! とエンターキーを叩く私。

 チーン! という効果音とともに受信した落選結果。

 サーッ! と血の気が引く私。


「馬鹿な! この私の理論が通じないとは! もしや、万博、思った以上に人気なのでは!?」


 今頃気がつくとはとんだポンコツなのである。


 ジワジワと焦りを感じだす。


「よもや、シャトルバスの予約ができないことはないだろうな?」


 すぐさまアプリをシャトルバス予約ダウンロード。

 しかし、行きのシャトルバスはすでに9時前到着便が全滅。

 他の停留所から出発のシャトルバスも壊滅。


「くそ! くそ! くそ! 9:10発が最速だとぉ?」


 しかたがないので9時入場なのに9:10発の便を予約する。

 帰りの便は希望の時間に予約をとれ、とりあえず一息つく。


「遊びは本気なのに、9時に入場できないのは屈辱的すぎるっ! そうだ、都会にはタクシーアプリなるものがあったはず!」


 まずはタクシーアプリをダウンロード。

 初めてのタクシーアプリを開いてみると、そこに広がる無情な言葉。


【お使いの地域ではご利用になれません】


 ・・・・・・そうここは、タクシーアプリも使えない郷なのである・・・・・・。

 頭の中で流れる有名ソング。


「ハァ! 新幹線もねぇ! 飛行機もねぇ! タクシーアプリも使えねぇ!!」


 そんな歌を歌いながらアプリをポチポチしてみる。


「なにか方法があるはずだ。なにか・・・・・・!」


 出発地点を都会に変えたらどうやら使えることが判明。

 予約は3日前だと知る。


「3日前か・・・・・・。これで予約できなかった場合は完全に詰む。シャトルバスの予約は取ったままにしておくべきだな」


 とりあえずホッと胸を撫で下ろす。



 そうして迎えた8月13日――。

 そう、万博閉じ込め事件である。

 体力に自信がない&人混みが苦手な私にとっては、地獄、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図・・・・・・。


「やばい、やばいぞ。これは帰宅ルートを複数確保する必要があるっ!」


 シャトルバスの予約、電車での移動ルートを再確認する。


「あと、座って休憩できるよう、予約できる食事処を探しておこう!」


 このあたりがポンコツの真骨頂だ。もうすでに遅い。予約はすべていっぱいである。


「しかたがない・・・・・・。食事は持参。飢えだけは避けなければならない」


 このポンコツはお腹が減ると、戦闘力がマイナスになるのである。



 そうして、8月下旬、夜行バスチケットの予約日がやってきた。

 この頃にはTwitterで万博が異様な盛り上がりを見せ始めていた。


「これは、争奪戦が起こるっ! 予約開放時間に待機しなければっ!」


 サイトに張り付いて、チケットを無事確保。

 拍子抜けするほどのあっさり具合、リアルとTwitterの温度差に困惑し風邪を引きそうであった。


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