沈んだ王国で、君と誇りを拾う

白瀬 柊

プロローグ

建国記念日の夜、宮廷の灯りは遠く揺れていた。

人々が祝賀の宴に夢中になっている間、僕――第2王子エリオス――と君――公爵令嬢セリナ――は影に紛れ、庭園の暗がりを走った。

逃げ道は限られていた。迷いながら進むたび、追手の足音が冷たく石畳に響く。政敵の影が、すぐ後ろに迫っていた。


思い返せば、初めて君に出会ったのも建国記念日だった。

幼い僕は7歳、君は5歳。離宮で迷子になった君は、偶然僕の部屋に足を踏み入れた。

そのときも宮廷の警備は手薄で、二人だけの時間がほんの少しだけ許されていた――あの日、僕たちは初めて互いを意識したのだ。


今夜は違った。

追手が迫り、逃げることも許されず、庭園の影に身を伏せながらも、

僕は君――婚約者であり、大切な存在――の手を握った。

冷たく震える指先。希望はわずかで、逃走の道は閉ざされていた。


そして、すべてが終わった。

あの日、確かに僕たちは終わった。

追い詰められ、逃げることも許されず、希望は音もなく消えた。

もし次があるのなら、君の涙を二度と流させないと誓った。

けれど、次に目を開けた時、君はまだ、泣いていた。

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