りぷれいす・うぃず! ~キスから始まるバズ・リプレイス~

富良原 清美

0↑ バズ魔法はキスの味

 ちゅっ


 間抜けなリップ音が、放課後の教室に響く。


 目を閉じる猶予ゆうよも与えられないまま起こってしまった事故の相手は、「天才JKノベリスト」梨木茂木なしき もぎだった。


 夕陽に照らされた彼女の顔は、それでも誤魔化せないほど真っ赤。


 沸騰しそうなほど茹だってる僕の顔も、きっと――。


「わあぁ、ごめんなさいっ!」


 梨木さんは裏返った声で僕を押しのけ、BPM190で呼吸する。


「ぼ、僕こそ、その」


 慌てて口元を拭えば、彼女のつけていたリップクリームが微かに香る。


 その甘い香りに、僕の純情は際限なく揺さぶられた。


「うにゃ! とにかく、これで魔法は大成功。二人の才能が入れ替わったのにゃ♪」

「ノベル!」


 ワケが分からない!


 「僕の飼い猫が学校まで着いてきたあげく喋り出し、魔法を発動させてクラスメイトと事故チューするきっかけを作ってしまいました」なんて、設定を盛りすぎたファンタジーだ。


「ま~ま~。スマホをチェックしてみるのにゃ、ご主人!」


 言うが早いか、机に置いていたスマホに通知が届く。


 慌ててロックを解除すると、目に入ったのは小説投稿サイトのマイページだ。


『急上昇ランキング一位のお知らせ』


「ぼ、僕のヘタクソ小説が、一位!?」


 僕の叫びと同時に、梨木さんも驚愕の悲鳴を上げる。


「うそ……。私の動画が、急に伸びだしてる!」


 「大人気配信者・Gyokan」と呼び声の高い僕、行田章馬ぎょうだ しょうま

 「天才JKノベリスト・多嘉良たからすがり」の名をほしいままにする彼女、梨木茂木。


 スマホを握りしめたまま、二人の声がリンクする。

 

「僕らの才能が」

「私達のバズが」


「「入れ替わった!?」」


「その通りにゃ♪」


 キスから始まるバズ魔法で、僕たちの青春が動き出そうとしていた。

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