甘くて苦い告白のレシピ

ともね

第1話 バレンタインの嘘

「これ、義理だからね」


 その言葉を、僕は10回目の「好きです」と同じくらい覚えている。

 毎年同じように笑って、同じようにチョコを渡してくる君。

 包装紙の模様も、指先の震えも、ぜんぶ、見慣れた光景になっていた。


 僕は笑って「ありがとう」と言うけれど、

 その瞬間、心のどこかが少しずつ削られていくようだった。


 教室の空気は、二月特有のざわめきで満ちていた。

 誰が本命を渡すか、誰がフラれたか。

 噂の渦の中で、僕の恋は何度も沈んでは、浮かび上がっていた。


 最初の告白は中学一年のときだった。

 放課後の部活帰り、夕陽の下で。

 君は少しだけ俯いて、

 「ごめん、友達でいよう?」って。


 その瞬間、僕の世界が少しだけ静かになった気がした。


 でも諦めきれなかった。

 君の笑い方が好きだった。

 ノートに小さく書く文字が好きだった。

 他の誰かと話すときの柔らかい声が、なぜか胸を刺した。


 だから、フラれてもまた言ってしまう。

 言わなきゃ苦しくて、黙っていられなかった。


 ――もう10回目の「好きです」。


 分かってた。答えなんて、もうとっくに。

 でも、言葉にしないと消えてしまいそうだった。

 それくらい、僕の中で“君”がすべてになっていたんだ。

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