第3話 ユリネはお世話係

《5年前 フォルティス王国 王宮秘密庭園》


「『火球ファイアボール』……どうですか? ラファエルお師匠様?」


「殿下に教え始めて約10年。よわい13にして到達するとはね………よもやここまで逸材に成長されるとは驚いたわ」

《魔道薬師 ラファエル・ソロモン》


「お師匠様? 僕の『火球ファイアボール』そんなに駄目でしたか?」


「いや逆よ。リース、驚いているのよ。魔法、剣術、学術、果ては私の魔道薬師の職業ジョブまで覚えてちゃうなんてね……これが王族に知れたら国政に利用されるだけ利用され暗殺されるわね……殿下身を隠しなさい。そうしないと貴方は不幸になるわ。私も王都の隠れ家に隠れて……」


 ふと昔の事を思い出しました。楽しかったラファエルお師匠との楽しかった王都での日々を……


《ティアの街 フリークの店》


「くちゅんっ!……鼻水でた」


「それじゃあ。そのまま、お湯に流して下さい。エルフちゃん」


「エルフちゃんじゃない。私はエリシアちゃん」


「そうなんですね。それじゃあ、お湯にその鼻から垂れている鼻水を流して下さいね。エリシアちゃん」


「うん。鼻水嗅はなみずかぐ……(ズビイィィ!!)」


「そうそう……てっ! なんで私の服の袖で鼻水嗅いでいるんです? 汚れるでしょう? リースさん! このエルフの娘どこで拾って来たんですか? まさか誘拐したんじゃないですよね?」


「いえいえ。僕はそんな事できるわけありませんよ。ユリネさん、僕は無力の雑用薬師ですからね」


「……嘘ばっかり。本当にリースさんはいつもいつも偽りばっかりの人なんだから」

「ユリネ。怒ってる?」

「えぇ、怒ってますよ。リースさんに対してですけどね!」

「ユリネがカンカンしてる」


 現在、エリシアは店の奥の洗い場でユリネさんに体を洗ってもらってます。


 流石に男の子の僕が、女の子であるエリシアの体を体を洗うのは不味いと判断しました。


 あの後、ティア草原でエリシアの強さを確認させてもらった後、僕達は一端ティアの街へと戻って来ました。


 なんで勇者パーティーが居る街に戻って来たかですか? それはエリシアが僕から荷物を強奪したからですよ。


(君は戦闘力も皆無なので、弟子とかも無理です。僕との旅は諦めて下さい。途中までは同行しますので……あの僕の荷物を背負ってどこに行く気ですか? エリシア)

(お師匠様の荷物持ち……これで、お師匠様はエリシアに荷物を物質ものじちに取られた。旅……スタート)

(スタートって……エリシア、あのですね……てっ! なんでティアの街に逆走してるんですか? エリシア、待って下さい! 僕の荷物を返しなさい!!)


 あの娘、逃げ足だけは凄く速かったです……こうなったら仕方ありませんね。旅の途中で心の優しいエルフさんでも出会ったら、引き取ってもらう事にしましょう。


 そして、その旅の準備の為に、情報屋のフリーク店にやって来たのです。いや、エリシアに無理やり連れて来られたと言った方が正しいでしょうか……


 現在は、ティアの街の端にある情報屋のフリーク店へと入店し、勇者パーティーメンバーから身を隠すしています。


「何? あの馬鹿勇者パーティー、魔法薬師のお前さんをパーティーから追放したじゃと? 全く相変わらず馬鹿連中じゃな! 全く!」


 この髭もじゃで怒っているお爺さんは、こに情報屋のオーナーであるフリーク亭主です。なんでも昔は凄腕の冒険者だったとか。


「ええ、まぁ……フリークオーナー……エリシア用に服と……エルフ族が好む木の実も貰っていきますよ。フリークさん」


「ん? おぉ! 好きに持っていけ。どうせ売れん商品じゃからな。高値では売るがのう。ガハハハ!」


「高値では売りつけるんですか……」


「それよりも、リースよ。勇者パーティーから追放されて、今度はエルフの娘と旅でもするのか? 相変わらず気持ちの切り替えが早い奴で感心するわい。ガハハハ!」


 豪快に笑う、フリークさん。この人は本当にいつも元気ですね。


「いえ、それがですね……エリシアとは途中までの旅をする予定で……」


「お師匠~! 身体綺麗にしてもらった~!」

「コラ~! 待ちなさい! エリシアちゃん! 髪の毛まだ拭けてませんよ! 拭かせなさい~!」


 僕がフリークオーナーに説明しようとしたタイミングで、 エリシアがお風呂から上がって来てしまいましたね。まるでタイミングを計られたみたいです……


「元気なエルっ娘じゃな。リースよ、楽しい旅にすると良い。あのお荷物勇者パーティーが居ない方が、リース本来の力も出せるじゃろうしのう。ガハハハ!!」


「うん。お師匠は凄い人。私弟子にしてもらった」

「な? ちょっと! エリシア。何を勝手な事を言っているんですか?」


「ほう! リースに弟子とな? それはめでたいのう」

「エリシアちゃんが……リースさんの?」


「そう。私はリースお師匠様の一番弟子。えっへん!」


 あぁ!! なんて事を言ってくれたんですか。エリシアは! これじゃあ本当に正式な弟子にしないといけなくなってしまいます。


「……こんな可愛いエルフの娘とリースさんが、師弟関係で一緒に旅ですか?……私、凄く心配なんですけど。それにど天然なリースさんが、ちゃんと女の子の私生活を理解してるとは到底思えませんが……大丈夫なんですか?」

「いや……それ…は…」


 フリークオーナーの孫娘。ユリネさんが、僕に詰めよって来ました。色々と、ご迷惑をかけたせいで怒らせてしまったでしょうか。


「そ、そんなに心配でしたら、ユリネさんも僕達の旅に……フォルティス王国の旅に同行して下さいよ。僕をサポートしてくれたら凄く助かりますので」


 なんて事を僕が口を速くして言うと……


「良いですよ。リースさんだったら喜んで付いて行きます。お爺ちゃん、エリシアちゃんのお世話係として、私もリースさんの旅に付いてって良いかな~? 丁度、王都にも用事あるしさ~」


「おお! 良いぞ良いぞ。店の手伝いは他の孫娘達に頼むからのう。楽しい旅にしてこい。ガハハハ!」


「本当に?! やったー、ありがとう~! お爺ちゃん」


「……はい?」

「おぉ! ユリネが旅の仲間になった~! 旅、凄く楽しみ~!」


「とういうわけで。私もフォルティス王国への旅に同行しますので、宜しくお願いしますな。リースさん」


「……はい?」

「エリシアのお世話係確保~!」


 こうして、僕の一人旅にまた1人同行者が加わる事になったのでした。



《ティアのスラム街》


 一方その頃―――


「リースをどこに隠したのかしら? 白状しなさい。拐い屋」


ドスッ!ドスッ!ドスッ!


「もう勘弁してくれ! 人攫いなんて、もうしねえよ!! ぎゃああ!」

「何が、付与師だ。この女はただの拳闘士じゃねえか! ごばぁ?!」

「……例の勇者パーティーから追放された雑用薬師なら、ティア草原で薄汚いエルフの子供と一緒に居るのを見たって仲間の1人が言ってたぜ。な、なぁ、これで俺だけでも許して……オンギャアア!!」


「エルフの子供?……ティア草原ね。行ってみましょう! 待ってなさい。リース!」


 勇者パーティーの付与師シェリルは、スラム街を拠点としていた人攫い屋を壊滅させていた。




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