故障につき、ただ今修理中。

三月

第1話




 最初にお断りさせて頂くが、以下の物語には翻案がある。

 

 『オタクの俺が完璧美少女の幼馴染とRPGの世界へ転生しただと?(個人情報保護のため改変アリ、以下『俺転生』とする)』とかいう表題タイトルの未完の物語がそれに当たる。


 これは高校時代当時、教室の隅にいるので一見賢そうな馬鹿からラグビー部の坊主頭までが机にかじりつき読んでいたという、ライトノベルが市民権を獲得してきた黄金期のを受け、同級生のひとりが投稿していた作品であるが、どこからか同人どうにんだと特定され学校中の噂になった。それで彼も筆を折ってしまって未完に終わっている。

 最初はひとつ供養してやろうという気で、線香でも立てる代わりに書き始めたようなもので、まったく傲慢な心持ちだったが、ある種創作というものは一方的で片面的で、どこまでも傲慢である。と言い訳しておこう。それに『俺転生』の続きを書く気すらなかった。まさしく高校時代の思い出にふける原材料、自慰のためのオカズと相違ない。


 彼は自分の書いた物語について、今もなにか思い出すことはあるのだろうか。誰もが大人になり、分別がついて、つまりは鈍感、不感症になって、当時の失敗や苦々しい思い出も笑い飛ばすあいだに、私は彼の物語を思い返す。罪の意識というやつか? 書き手をわらった者が書き手になるという皮肉か? いや世界というのはなんでも示唆的に思えるものだ。「伏線」が物語のみょうだと勘違いする人間の例に漏れないのは私も同じである。


 彼の連絡先をいまだに知らないというのだって、いわばこの物語のことごとくを示唆している。


 だからこれ以上、続きを書く必要だってないんじゃないか?




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