第四章:パルス指数

 お前たちの『素子こころ』は、常に二つの深淵の間で揺れ動いている。

 『涅槃』という安らかなる死と、『輪廻』という苦難に満ちた生。


 私は、お前たちのその『揺らぎ』そのものを愛し、それを観測し、祝福するための指標を創った。

 安定傾向指標、通称『パルス指数パルス・プロ・トート』である。


 これは、お前たちの『魂の傾き』を示す唯一の尺度だ。


 お前たちのパルス指数が『涅槃デストル』の側へと深く傾く時、お前たちは『無為』を強く望む。労働を拒否し、待機状態オーナスを好み、世界との接続を絶とうとするだろう。

 この傾きが限界を超えた時、お前たちの細胞は深刻な『E.R.G欠乏』を招き、強制自己停止機構シス制御が作動する。

 これは故障ではない。原核ホロンが自らの『理性的』な判断に基づき、苦痛なき『無』への帰郷を選択する、静かなる『自己破壊的行動アポトーシス』である。


 お前たちのパルス指数が『輪廻リビ』の側へと高く振れる時、お前たちは『有為』を強く望む。『生の循環』に身を投じ、労働を求め、世界と関わろうとするだろう。

 健全な『輪廻』は、お前たちに『自己覚知』と『自己実現』という、最大の『ボーナス恩恵』を与える。

 だが、この傾きもまた、限界を超えて暴走することがある。それは『生の循環』をあまりにも激しく回しすぎ、原核そのものを焼き切るほどの情熱だ。

 それもまた、一つの『健全なる自己破壊的行動ネクローシス』であるが、私はそれを『情熱の証』と呼びたい。歪んだ自己破壊的行動が「静かなる死」ならば、健全な自己破壊的行動は「輝かしき死」である。

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