第5話:混沌の季節とチーズの独占

 震えながら目が覚めた。


 寒い。とても寒い。


 目を開けると、最初に目に入ったのは白だった。一面の白。


 雪だ。


 雪が降っている。俺たちの部屋の中に。いつも閉まりの悪い窓から吹き込んで、部屋の隅に積もり、床を氷の層で覆っている。


「え……なんだこれ?」体を起こすと、吐く息が白く凍りついた。


 フユネは俺にぴったりとくっついたまま、いつものように平和そうに眠っていた。俺たちが吹雪の真っ只中にいるという事実など、まるで気にしていない様子で。


 ユミヅキは腕立て伏せをしていた。雪の中で。鎧を着たまま。まるで普通の火曜日かのように。


「おはよう」立ち止まることなく彼女が言った。「百二十。百二十一」


「なんで雪が降ってるんだよ! 昨日は暑かっただろ!」


「冬だからだ」


「昨日は夏だったんだぞ!」


「もう違う」「百三十。百三十一」「今は冬だ」


 俺は立ち上がり、その拍子にフユネを揺さぶった。


「んー、あと五分ー」


「フユネ! 部屋の中に雪が降ってるんだぞ!」


「んー、普通だよー」


「普通なわけあるか!?」


 ようやく目を開けた彼女は、あくびをして、雪を世界で一番ありふれたものを見るかのように眺めた。


「あ、そっか。冬だもんね。たまにあるよ」


「『たまに』? 『たまに』ってどういうことだよ?」


「えっとねー」だらしなく伸びをしながら彼女が言った。「たまに気候が急に変わるの。別におかしくないよー」


 俺は部屋から飛び出して通りに向かった。


 村全体が雪に覆われていた。昨日寝た時には絶対になかった雪だ。


 人々は何事もないかのように通りを歩き、玄関を掃除し、屋根から雪を下ろしていた。まるでこれが日常茶飯事であるかのように。


 革職人(当然だが)が陽気に挨拶してきた。


「おはよう! いい冬だねぇ!」


「昨日は夏だったんだぞ!」


「ああ、そうだね。時が経つのは早いもんだ」自分のジョークに笑っていた。


 俺は部屋に戻った。指先と一緒に正気が凍りついていくのを感じながら。


「説明しろ。今すぐだ」


 フユネはまたあくびをして、毛布にくるまったまま座った。


「簡単だよー。年に何回か、季節が急に変わるの。一週間冬で、それから春、それから秋、それから夏。周期的なんだー」


「それは……季節ってそういう仕組みじゃないだろ」


「違うの?」首を傾げた。「でもここではこうなんだよ」


「で、お前らの体は勝手に適応するのか?」


「もちろん! 私たちの体は慣れてるから。世界も慣れてる。自然なことだよ」


 *自然。*


 これのどこが自然なんだ。


 多分、俺が草稿を書いた時に「スタート地点の村は全ての季節がある」とか曖昧に書いて、物理法則や時間について考えなかったんだろう。そして世界はそれを文字通りに解釈した。全ての季節。同時に。毎週ローテーションで。


「最高だな」平坦な声で言った。「完璧に問題ないな」


 ---


 **第一週:冬**


 フユネが雪を「手伝う」ことにした。


「見てて! 風魔法で制御されたブリザードを作って、村中の雪を吹き飛ばすから!」


「フユネ、それはちょっと――」


「ノーザンブリザード!」


 彼女が作り出した雪の竜巻は……効果的だった。効果的すぎた。


 道を掃除した。藁葺き屋根も何軒か吹き飛ばした。三人を空中に放り投げた。そして革職人の屋台を完全に破壊した。


 それから雪の中に倒れ込み、ぐったりした。


「お手伝いしたよー」弱々しく呟いた。


「ああ。すごく手伝ったな」吹き飛ばされた持ち物を取り戻そうとする村人たちを避けながら、俺は彼女を家まで運んだ。


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 **第二週:春**


 鳥のさえずりと、いたるところで瞬時に芽吹く花の音で目が覚めた。


 雪は完全に消えていた。代わりに、鮮やかな緑の芝生、ありえない色の花々、そして文字通り一晩で成長した木々があった。


「ほらね?」フユネが明るく言った。「春だよー」


「木は一晩では育たないだろ」


「これは育つよ」


「それは……」


「ダイキさん?」本気で心配そうに俺を見つめた。「大丈夫? 最近変なこと言ってるよ」


 *俺が変なことを言ってる。そうか。*


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 **第三週:秋**


 葉が落ちた。全部。同時に。誰かが「秋起動」ボタンを押したかのように。


 村はオレンジと赤の葉の層に埋もれた。


 フユネは、当然のことながら、また手伝おうとした。


「オータムウィンド!」


 葉が舞い上がった。何匹かの猫も一緒に。干してあった洗濯物も。ギルドの看板も。


「お手伝いしたよー」地面から弱々しく言った。


「頼むから手伝うのやめてくれ」彼女を(また)抱えながら懇願した。


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 **第四週:夏**


 汗まみれで目が覚めた。


 暑さが耐えられなかった。オーブンの中にいるような感じだ。空気が濃密で湿っていて、息をするのが熱いスープを飲んでいるような感覚だった。


 そしてフユネ、この呪われたフユネが、俺の上で寝ていた。平和に。汗一つかかずに。


「フユネ」絞り出すような声で言った。「暑い。すごく。暑いんだ」


「んー、暖かいー」さらに近づいてきた。


「フユネ、お前俺を殺す気か」


「気持ちいいー」


「頼む。お願いだから」


「あと五分ー」


 ユミヅキは隅でスクワットをしていた。フル装備の鎧を着て。汗もかかずに。


「どうやって……」どうにか言葉を絞り出した。「どうして暑さで死んでないんだ?」


「慣れてるから」スクワットを続けながら答えた。「一緒にやる?」


「死にたい」


「それは前向きじゃないよ、ダイキさん」


 ---


 **第五週:冬に戻る**


 そしてサイクルが再び始まった。


 四週間で四つの季節を経験した後、何かが引っかかっていた。


 ある午後、フユネが外で魔法の練習をしている間(破壊できる重要なものから遠く離れた場所で)、俺は気づいたことを口にした。


「なあ、ユミヅキ」


「何?」


「他の村も全部、この……気候の問題があるのか?」


 彼女は剣を磨くのをやめて、困惑した顔で俺を見た。


「問題?」


「季節のことだよ。毎週変わるやつ」


「あぁ。いや、この村だけだよ」


 俺は凍りついた。


「この村だけ?」


「そう。ここは特別なの。だから『四季の村』って呼ばれてる。かなり有名だよ、実は」


「で……他の村は?」


「普通の季節だよ。ほら、何ヶ月も続くやつ」


「本来。そう。あるべき。姿だよな」


「その通り」剣を磨き始めた。「ここは特別な場所なんだ」


 *特別。*


 もちろんだ。


 多分俺は「四季のあるスタート地点の村」って書いて、絵になって変化に富んでると思ったんだろう。でもこの村にだけそう設定した。そして世界はそれを文字通りに解釈した。この村は四季がある。ローテーションで。毎週。永遠に。


 そして世界の他の場所は普通に機能している。


 ここだけ。俺が住むことにしたこのクソ村だけ。


 俺は地面に座り込んで、ヒステリックに笑った。


「ダイキさん?」フユネが心配そうに近づいてきた。「大丈夫?」


「完璧だよ。全部完璧だ。この村は毎週季節が回って、世界でこの問題を抱えてる唯一の場所なんだろ? もちろん。当然そうだよな」


「そうだよ! すごいでしょ!」輝くような笑顔で言った。「天気に飽きることがないんだよ!」


「最高だな。ああ。最高だ」


 ユミヅキが立ち上がるのを手伝おうと手を差し出した。


「そんなに気になるなら、引っ越せばいいよ」


「無理だ。まだこの部屋借りてるし。チーズとハムを見つけて、多分何か馬鹿げた問題を抱えてる豪邸を買わないといけないんだ」


「あ、チーズのことなんだけど……」フユネが俺の隣に座った。「話しておかないといけないことがあるの」


 ---


 フユネの話は……予想外だった。


 彼女は金持ちの家の出身だった。「裕福」とか「恵まれてる」じゃない。*金持ち*だ。父親は北の街の下級貴族だった。屋敷も使用人も、全部揃っていた。


「それで冒険者になることにした……理由は?」本気で混乱しながら訊いた。


「だってワクワクするじゃん!」目を輝かせた。「家では何もかも退屈だったの。堅苦しいパーティーとか、礼儀作法の授業とか、うっとうしい求婚者とか。冒険がしたかったの。魔法! 爆発! アクション!」


「でも……ここより良い部屋くらい借りられるだろ。家でも。毎週季節が回るこのボロ部屋以外の文字通り何でも」


「どうして?」俺が頭のおかしいことを言ってるかのような顔で見てきた。「ここは完璧だよ。チームと一緒にいられるし。クエストもあるし。楽しいよ」


 ユミヅキが頷いた。


「同感だ。これで十分」


 二人を見た。楽しさのために貧乏暮らしを選んだ金持ち魔法使い。明らかな理由もなく常に鍛錬する剣士。そして俺、自分の酷い草稿に囚われた売れない作家。


「お前ら頭おかしいぞ」


「ありがとう!」フユネはそれを褒め言葉として受け取った。


「そういう意味じゃ……」ため息をついた。「まあいい。チーズがどこで手に入るか知ってる奴いるか?」


 ユミヅキが教室の生徒みたいに手を挙げた。


「知ってる」


「マジで? どこに?」


「王都。あそこにチーズがある」


「本当に!?」勢いよく立ち上がった。「完璧じゃないか! どれくらいかかる?」


「三週間くらいの旅程かな」


「……もちろんそうだよな」


「でも問題がある」


「いつも問題があるな」


「チーズは直接売ってない」


「何?」


「ピザしか売ってないの。チーズ入りピザ。でもチーズだけを買うのは違法なんだ」


 俺は彼女を見つめた。冗談だと期待して。


 冗談じゃなかった。


「説明しろ。今すぐだ」


 ユミヅキは長い話をする準備のように、楽な姿勢になった。


「チーズは一箇所でしか生産されてない。『東の大チーズ製造所』。王都から一ヶ月離れた白山脈にある」


「一ヶ月。完璧だな。続けて」


「ピザ屋の店主だけが、そこへ行ってチーズを買う法的許可を持ってる。それ以外は誰も行けない。行こうとしたら逮捕される」


「チーズの独占があるってことか?」


「そう。チーズは金のように扱われてる。実際、金より価値がある」


「金より価値がある!?」


「うん。世界にはチーズより金の方が多いから」


 俺の脳はこの情報を処理しようとして、見事に失敗した。


「待て。待て待て。王都に行けばチーズ入りのピザが買えるってことか……?」


「そう」


「でもチーズだけは買えない?」


「その通り」


「ピザに文字通りチーズが入ってるのに?」


「その通り」


「チーズが欲しければ、白山脈まで一ヶ月旅しないといけないのか?」


「いや。行けない。ピザ職人しか行けない。武装した護衛付きで。チーズを守るために」


「チーズを。守るために」


「そう。チーズは極めて貴重だから」


「で、チーズがそんなに守られてるのに、ピザ職人はどうやってチーズを手に入れるんだ?」


「王国から特別なライセンスを持ってる。その特権のために莫大な税金を払う。そして年に二回、護衛付きのキャラバンで旅をして、補充しないといけない」


「つまり……整理させてくれ」こめかみを揉んだ。「ここから三週間離れた王都では、ピザが大量に売られてる。チーズ入りピザ。でもチーズは一ヶ月離れた場所からしか手に入らない。ピザ職人しかそこに行けない。護衛付きで。そしてチーズを別売りするのは違法」


「その通り」ユミヅキは、明快な説明ができたことを誇らしげに微笑んだ。


「で、これ全部……お前には理にかなってるのか?」


「もちろん。なんでおかしいの?」


 フユネが勢いよく頷いた。


「ピザ産業を保護するためだよ! こういう規制がなかったら、誰でもチーズを持てちゃうじゃん!」


「それが目的だろ! 誰でもチーズを持てるべきなんだよ!」


「でもそしたらピザが特別じゃなくなるよ」フユネが論理ではない論理で説明した。


「ピザは……特別である必要はない……チーズはただの材料で……」


「ダイキさん、今日本当に変なこと言ってるよ」フユネが俺の額に手を当てた。「熱ある?」


 俺は床に倒れ込み、混沌とした季節を持つ村のボロ部屋の天井を見つめた。


 *ピザ。*


 *金のように扱われるチーズ。*


 *乳製品の政府独占。*


 *チーズを護衛する武装警備員。*


 *王都で大量のピザがあるのに手に入らないチーズ。*


 もちろんだ。もちろんこれが俺の世界の経済システムだ。


 多分「チーズは貴重」とか「王都にピザ屋がある」とか曖昧に書いて、両方の概念を繋げなかったんだろう。そして世界は……これを作った。あらゆる経済論理を無視した馬鹿げた独占を。


「わかった」ついに言った、虚ろな声で。「王都に行く。ピザを買う。どうにかして誰かからチーズをもらう。白山脈に潜入するか。必要なことは何でもする」


「その意気だよ!」フユネが拍手した。「冒険になるね!」


「何かにはなるだろうな」呟いた。


 ユミヅキはもう装備の準備をしていた。どうやら彼女にとってこれは合理的な計画に聞こえるらしい。


 ---


 その夜、布団に横になりながら(フユネが俺の上に乗っかって、また春の週に入るから気温が激しく変動している中)、次の一手について考えた。


 王都まで三週間。


 何の意味もないピザの経済システム。


 濃縮ウランでも守るかのようにチーズを警護する衛兵たち。


 そしてどういうわけか、これはまだ最初の材料に過ぎない。まだハムが必要なんだ。


 *ハムで一体どんな悪夢を作ってしまったんだろう?*


 まだ考えない方がいいと思った。


 不可能な問題は一つずつだ。


「ダイキさん?」フユネが半分眠りながら呟いた。


「ん?」


「諦めないでくれてありがとう。何も意味を成さない時でも」


「選択肢なんてないよ。ここに囚われてるんだから」


「それでも。ありがとう」


 俺は目を閉じた。胸の上に乗る魔法使いの馴染んだ重みを感じながら、隅でユミヅキが夜間トレーニングをする音を聞きながら。


 ---


 翌朝、俺たちはキャラバンの集合場所に向かった。


 責任者の男――重力を無視した髭を持つ、がっしりした体格の男――がリストを確認した。


「王都まで三人。三週間の旅程。料金は……」指で計算した。「パン一切れ」


「丸々一切れか?」俺は嘆きながら、特別な袋に大切に包まれたパンを取り出した。この袋は、もっと長く新鮮さを保つはずのものだった。


「長旅だからな、若いの。御者や護衛、食料にも金がかかるんだ……」


 パンの一切れを渡し、財産が減っていくのを感じた。残りは二切れ。保護袋に入れた貴重な二切れ。


 *経済的に破綻した世界で生き延びるためのパン二切れ。*


 完璧だ。


 キャラバンに乗る前に、最後にギルドに立ち寄って、受けられる直前のクエストがないか確認することにした。


 扉を押し開けた。


 空っぽだった。


 完全に空っぽ。


 豪華な大理石のロビーは無人だった。冒険者もいない。受付もいない。クエストボードも消えていた。装飾的な噴水には水もない。


 シャワーだけが残っていた。廊下から流れる水の音が聞こえた――二年分の料金を払った人たちのために、まだ機能しているようだ。


「誰かいるか?」俺の声が空間に響いた。


 何もない。


 ユミヅキが後ろから入ってきた。


「行っちゃったんだ」


「誰が?」


「みんな。ギルドが」


「なんで?」


「君が行くから」


 俺はゆっくりと振り返って彼女を見た。


「何だって?」


「ギルドは転生勇者についていく。勇者が移動すれば、ギルドも移動する。そういうものなんだ」


「それは……意味がわからないだろ」


「そう?」首を傾げた。「ずっとそうだよ」


 *世界は主人公についていく。*


 パズルのもう一つのピースがはまった。多分「ギルドは勇者が必要とする場所にある」とか、物流的な意味を考えずに書いたんだろう。だから世界は、ギルドが文字通り主人公についていくと解釈したんだ。見えない移動する建物のように。


「じゃあ……次の村にもギルドがあるのか?」


「多分。君が必要とすれば」


「前の村の人たちは?」


「もう必要ないんだよ。君が出て行ったから」


 空っぽの建物を見つめ、恐怖と魅惑が混ざった感覚に襲われた。


「これは不気味だ」


「便利だよ」ユミヅキが訂正した。


「不気味だ」俺は主張した。


 幽霊ギルドを出て、キャラバンに乗り込んだ。


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 **旅程2時間目:**


「もう着いた?」


「いや、フユネ」


「本当に?」


「本当に」


「でもあとどれくらい?」


「三週間マイナス二時間」


「それって長いの?」


「長い」


「そっか」五秒の間。「で、もう着いた?」


 ユミヅキは、キャラバンで俺たちの向かいに座って、指立て伏せをしていた。鎧を着たまま。当然のように。


 とても、とても長い旅になりそうだ。


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 **三日目:**


 物資補給のため、ある村で立ち寄らなければならなかった。


「簡単なクエストだ」キャラバンのリーダーが言った。「近くの森にスライムがいる。退治してくれたら、食料代をパン半切れ分値引きしてやる」


「やる」即答した。


 失った財産を少しでも取り戻すためなら何でもする。


 スライムは……期待外れだった。


 小さくて、ゼリー状で、予想通りの半透明な緑色。俺たちに向かって、攻撃的な意図があると思われる動きで跳ねてきた。


 そして「攻撃」する時は、ただ……触るだけ。


 ぬめりを残す。それだけだ。


 火傷もしない。毒もない。ダメージもない。


 服にベトベトした物質を残すだけ。


「これって危険なの?」フユネが訊いた。無害に脚に跳ね返るスライムを見ながら。


「そうは見えないな」ユミヅキが軽く蹴った。スライムは数メートル転がって動かなくなった。


「もう死んだの?」


「わからない」もう一度蹴った。「まだ動かない」


 スライムを観察した。五回目のタッチ――攻撃じゃない、タッチ――の後、ただ反応しなくなった。


 そして爆発した。


 勢いはない。ただ……緑色のぬめりの水たまりに崩れただけ。


「勝手に爆発したのか?」信じられないという顔で訊いた。


「そうみたい」ユミヅキが剣で水たまりを突きながら観察した。


 別のやつで試してみた。五回タッチ。動かなくなる。爆発する。


 全てのスライムが同じパターンだった。


 多分「スライムは倒されると爆発する」とか書いたけど、何が倒すのかは明記しなかったんだろう。だから世界が決めた。五回タッチ=自動的に倒される=爆発。


 今まで見た中で最も情けない敵だ。


 そして俺たちは、二十匹のスライムをそれぞれ五回タッチして、勝手に爆発するのを待つことで「倒した」。


 クエスト完了。


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 **五日目:**


 道路がかなり良くなっていた。


 踏み固められた土の道から始まったものが、今では幅の広い道になり、よく通る場所には平らな石が敷かれていた。木々は耕作地に変わり――ついに、人々が実際に土地を耕しているように見える本物の畑だ。


 標識が現れ始めた。


 **「ヴァロリア市 - 5km」**


 次の標識:


 **「ようこそ - 人口:12,000人」**


「本物の街だ」フユネが興奮して、キャラバンの窓にぴったりと顔を押し付けた。「村じゃない! 街だよー!」


「私の家族がここに住んでる」ユミヅキが何気なく言った。


 俺は彼女の方を振り向いた。


「何?」


「ヴァロリア。私が育った場所。両親はまだここに住んでる」


 *また重要な情報をさらっと明かされた。*


「それを今まで言わなかったのは……?」


「聞かれなかったから」


 もちろんだ。当然だ。


 街が地平線に現れ、驚いたことに……比較的普通に見えた。


 高さ約五メートルの石の城壁。二階建てと三階建ての家々。基本的な格子状に整理されているように見える通り。目的を持って歩く人々。


 浮遊する建物はない。生きている彫像もない。一見して「物理的に不可能」と叫ぶものは何もない。


「これは……いい感じだな」慎重に言った。いつ何かおかしなことが起きてもおかしくないと思いながら。


 護衛が簡単に荷物を確認した後、門をくぐった。


 街の中は予想以上に普通だった。


 整然とした露店のある市場。自分で動かない噴水のある中央広場。基本的な建築ルールに従っているように見える建物。通りは不規則だが機能的な石で舗装されている。


 人々は普通の中世風の服を着ている。動物の耳や役に立たない翼を持つ人は誰もいない。


 ほとんど……安心できた。


「なんでこんなに……まともなんだ?」周りを見回しながら訊いた。


「商業都市だから」ユミヅキが説明した。「村々と王都の間のいくつかのルートを繋いでる。繁栄してて、よく組織化されてる」


 *ああ。*


 多分この場所を設計した時、中世の商業都市についてどこかのサイトから情報をコピペしたんだろう。あるいは一般的な説明でAI生成ツールを使ったか。何をしたにせよ、実際に街として機能するものになった。


 感じた安堵は計り知れなかった。


 通りを歩いた。完全に普通の方法で熱い金属を叩いている鍛冶屋の前を通り過ぎた。従来の方法でパンを焼いているパン屋。「清潔なベッドとまともな食事」を約束する、馬鹿げた特徴のない宿屋。


「これはすごいな」呟いた。


「何が?」フユネが訊いた。


「いや。ただ……普通さを味わってる」


 でもその時、何かおかしなことに気づいた。


「すみません」野菜を売っている商人に訊いた。「これは全部どこから来たんですか?」


「野菜か? もちろん農場からだ」


「農場はどこにあるんですか?」


「街の周り。二、三キロ先。なんで訊くんだ?」


「単純な好奇心です。小麦も? 農場から?」


「当たり前だ。小麦、トウモロコシ、野菜を栽培してる。うちは農業地域だからな」


「あなたたちが栽培してるんですか? 物理的に? 畑で?」


 世界で最も当たり前の質問をしたかのような顔で俺を見た。


「ああ……他にどうやってやるんだ?」


「いや、何でもないです。ありがとうございます」


 離れながら、馬鹿げたほど安心した。


 食べ物は本物の畑から来ている。本物の人々によって栽培されている。本物の農業で。


 何も魔法のように倉庫に現れたりしない。


 *進歩だ。*


「来て」ユミヅキが言った。「両親に会わせるよ」


 ユミヅキについて通りを進み、街のより洗練された地区に着いた。


 ここの家々はより大きく、よく手入れされていた。手入れの行き届いた庭園。装飾的な柵。


 三階建ての屋敷の前で立ち止まった。村で買おうとした屋敷ほど派手ではないが、明らかに重要な人物の家だ。


 そして庭にある彫像を見た。


 パンの彫像。


 巨大なパン。翼のあるパン。王冠をかぶったパン。古典芸術のように台座に乗ったパン。


「弓月」僕はゆっくりと言った。「なんで君の実家の庭にパンの像があるんだ?」


「ああ、それは私の家がパンで有名だからです」


「パンで有名?」


「はい。三世代にわたってパン競技大会のチャンピオンです」


「パン……競技大会?」


「競技です。パン投げ、パンキャッチ、パン早食い。私の家族は全種目で記録を持っています」


 僕はパンの像を見つめながら、この情報を処理しようとした。


 *もちろんそうだよな*


 おそらく弓月の両親を作った時、「何か変わったことの達人」にしたら面白いだろうと思って、競技について曖昧なことを書いたんだ。そして世界が決めた――パンだと。すべてがパンなんだ。


「それで……このパン競技大会って重要なの?」


「とても重要です!」冬音が力強くうなずいた。「毎年首都で開催されるんです。何千人もの人が見に来ます。参加できるのは大変な名誉なんですよ」


「何千人もの人がパン競技を見るために移動するのか」


「そうです!」


「そして君の家族は」僕は弓月に言った。「このスポーツの伝説なんだな」


「はい。だから屋敷があるんです」


 もう一度邸宅を見た。パン競技の勝利金で買った豪邸。


 *この世界は*


 中に入った。弓月の両親が玄関ホールで迎えてくれた。


 そこで僕は何かに気づいて立ち止まった。


 両親がものすごく……似ているのだ。


 黒髪。赤い瞳。同じ肌の色。ほぼ同じ身長。顔立ちも目立つほど似ている。


 全く同じではないが、不気味なほど似ている。


「ようこそ」父親が言った。軍人のような姿勢の背の高い男性だ。「娘の仲間を我が家に迎えられて光栄です」


「転生した勇者様まで」母親が頭を下げながら加えた。「我が家をどうぞご自由にお使いください」


「ありがとうございます」僕は答えた。彼らの不気味な類似性をあまり凝視しないように努めながら。


 おそらく両親の基本設定をコピペして気づかなかったんだろう。あるいは世界が単純に「貴族の両親」は標準デザインを二回適用することだと決めたのか。


 深く考えない方がいい。


 弓月は滅多に見せない心からの愛情で両親を抱きしめた。


「会いたかったです」


「私たちもだよ、娘よ」父親が言った。「でも君の手紙で冒険のことは把握しているよ」


「手紙?」僕は尋ねた。


 弓月が少し顔を赤らめた。彼女が恥ずかしそうな様子を見せるのは初めてだった。


「毎週書いています」


 *強迫的に鍛錬し、単調な話し方で、両親に毎週手紙を書く剣士*


 なぜかその詳細が彼女をより人間らしく感じさせた。


 広々とした応接室に案内され、お茶を出された。壁にはトロフィーがずらりと並んでいて、すべてパン関連だ。


 **「パン投げチャンピオン - 1205年」**


 **「全国記録:10分間で47個のパン」**


 **「金メダル - 騎馬パンキャッチ」**


「騎馬パンキャッチ」僕は思わず声に出して繰り返した。


「ああ、はい」弓月の父親が誇らしげに言った。「それが私の個人的に一番好きな実績なんだ。全速力で馬を走らせながら、投げ手が投げるパンを網でキャッチするんだ。聞こえるより難しいんだよ」


「確かに……難しそうですね」


「そうなんだ! 必要な協調性、タイミング、正確性……」彼の目が情熱で輝いた。「芸術なんだよ、本当に」


 冬音は絶対的な興味を持って聞き入り、技術や戦略について質問していた。


 弓月は戦闘戦術を説明するかのように、各競技の詳細を丁寧に説明していた。


 そして僕はそこに座っていた。パン競技のお金で買った豪邸で、お茶を飲みながら、自分の人生がどうしてこうなったのか疑問に思いながら。


「それで」僕は話題を変えた。脳が溶ける前に。「僕たちはチーズについての情報を求めてこの街に来ました」


 雰囲気が即座に変わった。


 弓月の両親が目配せをした。父親が慎重にお茶のカップを置いた。


「チーズ?」彼が尋ねた。声が急に真剣になった。


「はい。チーズを手に入れる必要があるんです。ある……プロジェクトのために」


「チーズは微妙な問題だ」母親が言った。「規制について何か知っていますか?」


「少しだけ。白い山脈からしか来ないこと。ピザ職人が独占していること。保護されていることは知っています」


「それよりもっと複雑なんだ」父親が立ち上がり、応接室のドアを閉めた。「商人ギルドがすべてのチーズ取引を支配している。ピザ職人への許可証だけじゃない。価格、流通、誰がどの地域でピザを売れるかもだ」


「完全に腐敗したシステムです」母親が小声で付け加えた。「乳製品を王国で最も管理された商品に変えてしまったんです」


「なぜですか?」僕は尋ねた。「なぜチーズにそこまでの管理が?」


「税金だ」父親が簡潔に答えた。「王国はチーズの税金で莫大な財産を得ている。そして商人ギルドはすべての取引から手数料を受け取る。みんなグルなんだ」


「でも違法にチーズを手に入れようとする人はいますよね?」


「もちろんだ。密輸業者。売人。でも罰則は厳しい。何年もの懲役。財産没収。王国はチーズの独占に関しては本気だ」


 僕は椅子にもたれかかり、この情報を処理した。


 政府による乳製品の独占が厳格な法律で支えられている。法外な税金。すべてを支配する腐敗したギルド。


 そしてそのすべては、おそらく僕が「チーズは珍しくて貴重」みたいなことを書いて、世界がそのシンプルな前提を中心に構築した不可能な経済の結果なんだ。


「チーズを合法的に手に入れる方法はありますか?」弓月が尋ねた。「ピザ職人じゃない人が」


 彼女の両親がまた目配せをした。


「技術的には……はい」母親がゆっくりと言った。「商人ギルドに特別許可を申請できます。でも高いです。とても高い」


「どのくらい?」


「パン10個分です。丸々」


 僕はお茶でむせた。


「パン10個!?」


「申請許可だけです。それから、承認されたら――それも稀ですが――チーズ自体にさらに20個のパンがかかります。最低でも」


「合計30個のパン」僕は計算し、希望が消えていくのを感じた。「チーズ一切れのために」


「その通りです」


 僕は鞄の中の残り2個のパンを見た。僕の全財産だ。


「もう一つの選択肢がある」弓月の父親が言った。「よりリスクは高いが、可能だ」


「何ですか?」


「首都には闇市場がある。非公式だが、存在する。チーズを……交渉可能な価格で売る密輸業者たちがいる」


「チーズの闇市場?」


「危険だ。街の警備隊が常に摘発している。でも正しい人間を知っていれば、どこを探せばいいか分かれば……」


「完全に破産せずにチーズを手に入れられる」


「その通り。ただし」彼は真剣に僕を見た。「捕まったら、結果は深刻だ」


 僕は選択肢について考えた。


 選択肢A:持ってもいない30個のパンを使って、おそらく拒否されるであろう合法的なプロセスに費やす。


 選択肢B:首都のチーズ闇市場に潜入して、刑務所行きのリスクを冒す。


 選択肢C:なんとかして白い山脈まで旅して、武装した警備員を通過し、直接源泉からチーズを盗む。


 すべての選択肢が最悪だ。


「考えさせてください」僕はついに言った。


「もちろん」弓月の母親が答えた。「その間、ここにいてください。客室があります。休んで、次の一手を計画してください」


「ありがとうございます。とても寛大です」


「とんでもない。娘の友人はいつでも歓迎です」


 客室に案内された。二階の部屋で、窓からパンの像の庭が見えた。


 そしてベッドは……


 ベッドが不可能だった。


 中世的じゃない。現代のベッドだ。低反発マットレス付き。高品質の柔らかいシーツ。頭の形に合わせて調整される枕。


 ナイトテーブルにはリモコンまであった。


 試しに押してみた。


 ベッドが調整された。上部がわずかに上がった。現代の病院のベッドのように。


「もちろん」僕はつぶやいた。「もちろん中世の豪邸に電動ベッドがあるんだな」


 おそらく弓月の両親の家をデザインした時、「豪華な邸宅」と考えて、僕の21世紀の脳が自動的に中世の文脈を考慮せずに現代の快適さを含めたんだろう。


 でも正直なところ、何週間も季節がめちゃくちゃな村の薄い布団で寝た後では、文句は言わない。


 ベッドに倒れ込んだ。雲の上に横たわっているようだった。


 日記を取り出した――前の村でパン1/16個分で買った新しいやつ――そして書き始めた。


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 **日記 - 旅5日目:**


 *ヴァロリアに到着。実在する都市、実在する農業、実在する経済。四季の村の混沌の後では、ほとんど安心できる。*


 *弓月の両親はパン競技のチャンピオン。庭にパンの像がある。騎馬パンキャッチは立派なスポーツらしい。この世界は僕を驚かせ続ける。*


 *チーズ情報:政府による腐敗した独占。すべてを支配する商人ギルド。合法的に手に入れるには30個のパン。闇市場は存在するが危険。*


 *5回触ると爆発するスライム。理由なし。普通のこととして受け入れた。*


 *僕たちが去ると村からギルドが消えた。どうやら僕を追っているらしい。弓月は当然のように説明する。何も当然じゃない。*


 *中世の豪邸で現代の電動ベッドで寝ている。もう矛盾すら気にならない。*


 *チーズを手に入れる選択肢:*

 *A) 持っていない財産を使う*

 *B) 首都の闇市場*

 *C) 白い山脈から直接盗む*


 *すべて最悪。おそらく時が来たら最も最悪でないものを選ぶ。*


 *冬音は今までの旅で「まだ着かないの?」を63回聞いた。数え続けている。*


 *弓月は毎日6〜8時間鍛錬する。両親に毎週手紙を書く。奇妙な意味で可愛らしい。*


 *この後、まだハムが必要だ。ハムのためにどんなバカげたシステムを作ったのか聞くのが怖い。*


 *明日首都へ向けて出発。あと2週間の旅。*


 *僕の人生は世界構築の失敗のコメディだ。*


 *署名*

 *カイト(今はダイキ)*

 *不可能な経済の偶然の設計者*


 ---


 日記を閉じ、明らかに存在するはずのない現代のスイッチで照明を消した。


 横になり、ベッドが完璧に体にフィットするのを感じた。


 外では、冬音がパン投げの技術について興奮して弓月と話しているのが聞こえた。


 弓月は戦闘について話すのと同じ真剣なトーンで答えていた。


 そして僕はここにいる。21世紀のベッドで、14歳の時に作った世界で、チーズの闇市場に潜入する方法を計画している。


 *どうしてこうなった?*


 ああ、そうだ。死んだんだ。原稿を棺に入れた。そして宇宙は僕の罰はその中で生きることだと決めたんだ。


 目を閉じた。


 明日はまた不条理、矛盾、そして壊れた経済論理の日になるだろう。


 でも少なくとも今夜は、まともなベッドと曖昧な計画がある。


 小さな勝利だ。


 ---


 **6日目:**


 鍛錬の音で目が覚めた。


 当然だ。


 部屋のドアを開けると、弓月が廊下で腕立て伏せをしていた。完全武装で。


「おはようございます」彼女は止まらずに言った。「230回。231回」


「部屋はないのか?」


「あります。でも廊下の方がスペースがいいんです」


「そうか。もちろん」


 朝食に降りた。弓月の両親が盛大な食事を用意していた。


 パン(当然)。卵。ベーコン。果物。フレッシュジュース。


 すべて普通、すべて本物、すべて美味しい。


「ご予定は?」食事中、弓月の父親が尋ねた。


「首都へ向かいます。チーズの闇市場を調査します。刑務所に入らないよう努めます」


「堅実な計画だ」彼は承認するようにうなずいた。「首都で連絡先が必要なら、何人か知っている。合法的な商人だが……つながりがある人たちだ」


「チーズの闇市場の連絡先を提供してくれるんですか?」


「有用な情報を提供しているだけだ。それをどう使うかは君たちの判断だ」


 彼は名前と場所が書かれた紙切れをくれた。慎重にしまった。


「ありがとうございます。本当に」


「娘を守ってやってくれ」母親が言った。「そして状況が危険になったら、ここに戻ってきなさい。いつでも安全な場所がある」


 弓月は両親を再び抱きしめた。普段は無表情な顔に本物の感情が一瞬見えた。


 *彼女には愛してくれる家族がいる。帰れる家がある*


 なぜかその考えが、この混沌とした世界について少し気分を良くさせた。


 ---


 別れを告げて馬車に戻った。


 リーダーが不可能な口ひげで僕たちを迎えた。


「さらに2週間の旅の準備はできたか?」


「できる限りは」僕は答えた。


「完璧だ。10分で出発する」


 馬車に乗り込んだ。冬音はすぐに僕にもたれかかって居眠りを始めた。


 弓月は本を取り出した――上級剣術技術についての本――そして読み始めた。


 そして僕は窓から外を見ながら、ヴァロリアの街が遠ざかっていくのを見ていた。


 普通の街。普通の経済。互いを愛する普通の家族。


 この世界のすべてが不条理なわけではないというリマインダー。


 ただ大部分がそうなだけだ。


「まだ着かないの?」冬音がつぶやいた。


「まだだよ、冬音」


「んー、わかった〜」


 目を閉じた。さらに2週間の旅、最終的なチーズの闇市場との遭遇、そしてこの世界が用意しているであろう他の狂気に心の準備をしながら。


 首都が僕たちを待っている。


 そしてそれとともに、おそらくもっと矛盾、もっと不条理、そして僕のひどい世界構築の結果が待っているんだろう。


 でも今、僕には連絡先がある。曖昧な計画がある。そして思いもよらず友達のようになった2人の仲間がいる。

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