第19話 魂の共鳴

—————白の空間


「これは…何…?」


頭では解っていても、理解が追い付かなかった。

ディアナは私。

そして、ヨルは謎の暴走をし、それを止める為ヨルを封印し、私は殺された。

そこまでは解った。だけど、断片的過ぎて全体がまるで解らないのだ。

だからこそ、月影に、尋ねたというのに…


(…すまない…今は…)


私は、今「全て」が知りたかった。

そして、月影はきっと「全て」を知っている。「今は」という台詞がそれを証明している。

私は声を荒げた。


「ね、月影。どうしてなの?せめて、理由を教えて!」

(…すま、ない…次で、最後だ…頼む、ルナ…ヨルを、ヨルを助けて、やって、くれ—————…


命を削るかのような弱々しい月影の声に…怒りにも似た炎は消え去り、ヨルの小さな体をぎゅっと抱きしめた—————…




—————雪の大地


凍てつく風で雪が横殴りに吹き荒れる中、ヨルの瞼がゆっくりと開き、金色の瞳が現れた。


「ここは…?って寒っ!!火、火!!」


目覚めて早々飛び上がり、がおー!がおー!と口から火を噴き出す。

が、出るはずの火は出なかった。

「あれ、あれれ?ぼく…どうして力が…て、いうか、ぼくって誰だっけ?」

ヨルは瞳を閉じ耳をピンと立て、思考を巡らすように座禅を組む。だが…


「わっかんないよぉぉ!!」


と、天に叫ぶもすぐに両腕で自身の身体を抱き


「てか寒っ!うわ~ん、凍えるよおおおお!!」


その絶叫は吹き荒れる風と雪に掻き消され、誰の耳にも届く事はなかった—————


—————数週間後


「寒いよぉ…お腹空いたよぉ、寂しぃよぉ…」


ヨルはここに来てから何も食べれず彷徨い歩いていた。

途中巨大な狼の群れに出くわすも入れて貰えないどころか、追い掛け回され、体は傷だらけとなり

巨大な兎に出くわすも相手にして貰えず、それでもしつこく絡んでいたら後ろ足で蹴り飛ばされてしまったのだ。

「あれぇ…おかしいな…ぼく、こんなに弱かったっけ…?もっと、強く…なりたい…な…」

小さな身体は傷だらけの上、全身の毛は凍り付き、ガクガクと震えが止まらない。


—————そして


ごめんね…

ごしゅ…じん…


ヨルのその小さな身体が、雪に覆われていき、雪原に消えていった—————


「ごめんね」だった。最期の言葉は私への謝罪だったのだ。私が…安易な事を言ったばかりに

ヨルの気持ちを想うと、心が張り裂けそうになり


「月影!ヨルが死んじゃうよ!」


私は耐え切れず月影に食って掛かった。

だが、月影の言葉は無情だった。


(…これは過去の出来事だ)

「待って、おかしいよ!じゃ、私の胸の中のこのヨルは何!?」

ヨルは微動だにしない。それでも核心がある。まだ生きているのだと。

(…落ち着くんだ。ルナ。そのヨルも雪の中のヨルも同じで間違いはない。ただ、もうすぐ、もうすぐなのだ…あと少し、あと少しだけでいい、待ってくれ…)


「どうして!?早く出してあげて!!」

(…)


解らない。頭も心もぐちゃぐちゃで。いつものように冷静で居られない。私のせいで、どちらも私のせいで死にそうなヨルを想うと…


「お願い、もう待てないよ!月影!!」


ついに月影に掴みかかり、その肩を揺らしたその時だった。

ヨルが雪に埋もれたその場所が、僅かに輝き出し、脳内に月影の声が轟いた。


(今だ!頼む!ルナ、ヨルを!!)


今まで聴いた事の無い、強い口調だった。

それが私を冷静な私へと戻した。

灯火消えんとして光を増すかのような、その声で…


「…ごめんね、月影…私、自分勝手だったね…最期に、聴いてね…」


月影は…恐らく、もう…

張り裂けそうな気持、なんて言葉では言い表せない程の想いを、ただ込めた。


♪幾度倒れても、君はまた立ち上がる

胸に宿したその炎、燃え尽きようとも

不死鳥のように、蘇る

いつかの約束を信じて—————♪



ルナのその歌は唄と呼べる物ではなかった。

言葉を紡ぐはずの唇は震え、息が途切れるたびにしゃっくりで跳ね上がり、鼻水と涙は止まる事を知らず、声は掠れ、音程は崩れ、途中で途切れては嗚咽に変わる。

それは、言葉にならない悲鳴のような喘ぎ。


涙が顎から滴り、胸元を濡らす。 それでも、ルナは唄おうとする。

声は出ない。

出るのは、声にもならない、ただの息


しかし、月影のプレートと、動かぬヨルのネックレスが微かな輝きを放ち出す。

そのルナの魂と共鳴するかの様に—————

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