第17話 邂逅

「よ…る?」


呼びかけるも…物音一つない静寂があるのみ。


「ヨル!」


重い身体を引き摺り、その小さな身体を抱き起こすと、手にぬるりと冷たい感触。

それからは、何の脈動も感じられなかった。


「ぃゃ…よる…お願い、返事をして…」

物言わぬその姿が月影と重なり…


「どうして…どうして…い…いやぁぁぁあああああぁぁぁ!!!」


心は限界だった。月影に続き、ヨルまでも…

突き刺し、溢れ出す心の感情を、顎が外れる程の大口で、叫んでいた。


「ヨル!!!月影!!!!!うあああああああああ!!!」


発狂し、折れた木の先端を目の当たりにし、頭を突き刺そうとしたその時


(…落ち着け…ルナ…)


それは、待ち望んだ声だった。

「月影!?」

だが、そこに居たのは、ヨルよりも遥かにぼろぼろの何かだった。首は取れかけ、身体も穴だらけ。…足は一本も無かった。


それでも、構わず縋りつき。


「月影!月影!!月影えぇぇ!!」


生き別れの母と再会した幼子の様に、抱き着き、泣きじゃくる。


(…大丈夫だ、もう…心配、い…らない…)


そのたどたどしいながら優しい声が、私を落ち着かせていく。

涙と泣きじゃっくりが止まっていき、決意が漲る。

信じるんだ、月影を


「うん、もう、大丈夫。どうすれば、いいの?」


まだ残る涙声を、絞り出す。


(…ヨルを…救いたいと…それだけを…ねが、え…)


今にも消え入りそうなその声に、胸を打たれるも、月影は続けた。


(…ルナ、…お前なら、出来る!)


そう言い放った強い声が、迷いを一瞬で溶かし、勇気が迸る!

「うん!わかったよ、月影!」

月影の身体を放し、物言わぬヨルを抱きしめる。冷たい血の感触が胸を刺す。

でも、もう迷わない。強く抱き締め、ヨルだけを想い、その想いを唄に換えた—————


♪傷付いた小さな勇者、ぼくの為に、命を燃やした小さな勇者—————♪


トクン


暖かな灯りが胸に燈る

感じる、その脈動を…約束を…


「ヨル、覚えてる? あの時私、言ったよね…」


ヨルに想いを馳せて唄う私の胸が僅かに白く輝き出す。

それはヨルに、そして月影にも宿り、呼応するかのように輝きを増していき

私達を包み込んだ—————


—————真っ白で、全てが止まったかのような空間。…まるで、あの時のような


…ルナ

月影…

ずたずたにされてしまった月影の身体が、ゆっくりと元に戻っていく

もう、大丈夫なの?月影

…ここでなら、な

いつものように、静かでゆっくりとした、そして、どこか悲し気な声

ここでなら、か

…今の状況を説明しよう

待って!

…どうした?

ここから、出ないとダメなの?

…どういうことだ?

惚けないでよ!

…ダメだ

どうして!?ここでなら、月影は生きていられるんでしょ!?

…すまない、始めるぞ、説明は後だ

待ってよ!勝手に決めないで—————


私の悲鳴に近い声は段々とか細くなり—————…





—————荒野の大地



乾いた風が吹く荒野になっていた。そこには、まるで場違いなほど美しい、ホワイトブロンドで碧眼、白いドレスの女性が独り花に水を上げていた。そこに山の様に巨大な黒いねこと大きな黒いとんがり帽子にマントを羽織った少女が近付く。あれは…きっとヨル。


「ご主人っ♪」


ヨルが、元気一杯に女性の胸へ飛び込んだ。

「え、こんにちは。貴方は?」

突然の事に、嫌な顔一つせず抱きとめ、碧眼の瞳を揺らし、微笑む女性

「ぼくはね、ヨルってゆうんだよ、よろしくね、ご主人っ♪」

ヨルは赤く巨大な瞳を輝かせ、無邪気な笑顔と白い牙を見せる。

「ヨル…良い名前だね。私はディアナ、宜しくね、ヨル」

ディアナと言う女性は巨大な舌でぺろぺろと舐められベタベタにされるも、まるで女神の様な笑みを浮かべる。

黒い少女が、それをもじもじと見つめていると

「あら…」

ディアナはヨルから視線を外し、少女を見て。

「初めまして、私はディアナ。貴方は?」

ヨルに押し倒される形のまま、ディアナが微笑むと、もじもじと恥ずかしそうに俯き、その小さな口が開かれた。


「…ゃ…ゃみ…」


囁くような声で、顔を耳まで真っ赤し、金色の瞳を伏せるヤミ。

その頭を優しく撫でて

「ヤミも、可愛い名前だね♪—————…



その情景が粒子となって散っていき、元の真っ白な空間へと戻っていく。



「これは…ヨルの記憶?」

思案し、目の前でおりこうさん座りをしている月影に尋ねる。

(…そうとも言えるが、少し違う。これは、お前の記憶だ)

やはり、とでも言うべきだろうか。私の中で疑惑は確信に変わった。

「あのディアナって人が、私って事?」

(…流石だな。その通りだ、続けるぞ)

いつもと変わらぬ口調で、淡々と答える月影に少しだけ苛立ってしまうも、私はそれを口に出す事が出来なかった—————…




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