第十八話 義理の姉妹
アキが高等部に進級したばかりの頃、いつも一人でいる中等部の子がいた。いかにも周囲に馴染めていない気弱で小さな子だった。その時は一瞥しただけで特に声を掛けようとも思わなかったが、それから何度も見かける内に、少女を見る時間が増えていった。
それから一ヶ月後。転校してきた御剣誠が異例の方法と速度で一つの組織を塗り替えた。まるで王子のような見た目の誠に魅了された一般生が一人、また一人と、ヒマワリの勢力が拡大していく。アキもまた誠に魅了されていた。
ヒマワリの組織に正式に属した日、アキはまたもあの少女を見かけた。少女もまた誠に魅了されている様子だったが、組織という集団に中々足を踏み入れられずにいた。
「ねぇ、もしかしてアナタもヒマワリに入りたいの?」
遂にアキは少女に声を掛けた。ヒマワリに属したのは、王子のような誠に一目惚れしたのも理由の一つだが、組織の垣根を越えて分け隔てなく優しく接する誠に感銘を受けたからだ。アキにとって誠は憧れの存在であり、目標でもあった。
「もし良かったらだけど、私もついていってあげようか? その、一人だと不安かな~っと思って」
「ッ!? あ、ありがとうございます!」
「お礼なんていいよ! あの、私はアキ」
「私は、ハル、です!」
それからというもの、二人は何をするにも一緒だった。安定した点数を稼ぐ為にクラブを設立し、二人で忙しくも充実した日々を過ごしていた。アキはハルを妹のように愛で、ハルはアキを姉のように慕った。
そして現在。クラブの集会を終えたアキは、ハルが待つ店へと戻っていた。
(ちょっと時間が掛かっちゃった! 今日は配達が結構あったけど、あの子ちゃんと出来たかしら?)
ハルは真面目で仕事も出来るが、いかんせん小さな体故、心配事が尽きない。例え配達が時間内に間に合わずとも、怪我さえしなければいいと思っていた。
アキが店に戻ると、店内にハルの姿は無かった。ボードに書いていた配達の予定が線で引かれている所から、配達は無事に完了したのだろう。となれば、店の裏にある休憩室で休んでいるのかもしれない。そう思ったアキは、休憩室の扉を開けた。
「ごめん、ハル! ちょっと時間が……掛かっちゃった……」
休憩室にはハルの他に、見知らぬ男がサンドイッチを貪っていた。
「あ、アキ! お疲れ様! 急な話なんだけど―――キャッ!?」
アキは座っていたハルを強引に立たせた後、グッと抱き寄せた。いきなりの事で困惑しているハルには目も暮れず、アキは尚もサンドイッチを貪る男をキッと睨んだ。
「アンタ! 何処から入ってきたのさ!! 男の癖に、この学園に足を踏み入れるなんて!!」
「あ、あのね、アキ―――」
「ハル、何か酷い事されてないよね!? はっ!? もしかして、体を意地悪されたとか!?」
「だ、だからね―――」
「クッ! こんな事なら、集会になんか行かなければ良かった……! そこのアンタ! ハルに意地悪した罰は受けてもらうわよ!!」
具体的にどんな罰を与えるかはアキの頭には無い。とにかくハルを傷付けた報いを受けさせようと必死だった。それ故に、自分の胸で苦しむハルに気付けずにいた。守ろうとして強く抱きしめる度に苦しむ。なんとも皮肉である。
そんな二人を見知らぬ男、天明は「何やってんだコイツら?」といった表情で眺めながら、サンドイッチを食べ進めていた。
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