第四話 無力感
あの日から、私は“人間”が怖くなった。
何をしでかすか分からない、理屈の通じない生き物。
それが“人間”なんだと思った。
学校の机に触るのが怖かった。
自分のノートや教科書を家で使うのもためらった。
『もし、あの机に唾を吐かれてたら』
『もし、あの机がトイレ帰りの靴で踏まれてたら』
考え出すと止まらなかった。
逃げ場なんて、どこにもなかった。
◇
その後も、リエさんへの嫌がらせは続いた。
通りすがりに蹴られたり、髪を引っ張られたり。
椅子から引きずり落とされることもあった。
教室には四十五人いた。
でも、誰も止めなかった。
――私も。
私はただ、見ていることしかできなかった。
怖くて、声が出なかった。
“あのとき”が焼き付いて、何もできなかった。
――私は、どうすればよかったんだろう。
昭和の中学校――教師は生徒のいざこざにほとんど介入しなかった。
「生徒同士で解決しろ」――それが当たり前の時代だった。
私は、初めて"外の世界"で“無力感”を知った。
あの時の感覚は、今も鮮明に残っている。
◇
……秋の風が吹くたび、あの日の昇降口を思い出す。
あの時の私はただの傍観者だった。
けれど、あの光景を見た私の中では、確かに何かが壊れた。
そして、それは今も直らない。
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