乙女奮闘~もし君と付き合えたなら~

シン01

乙女奮闘~もし君と付き合えたなら~

「あたし、好きな人が出来たんだ」


 夕暮れ時の放課後の教室、熱くも寒くもない5月の風は涼しくて心地良い。

 そんな教室であたし、菊池ましろは親友の黒瀬ゆりに好きな人が出来たとカミングアウトした。

 ゆりは黒髪のボブヘアーで、整った顔立ちの美少女、あたしの可愛い自慢の親友。

 そのゆりはあたしのカミングアウトに驚いた顔をしている。


「好きな人が出来たって、どんな人なわけ?」

「同じクラスの柊くん……」


 私の想い人は同じクラスの柊 紅治ひいらぎ こうじだ。

 柊くんは、真っ黒な髪にちょっとのくせ毛、眼鏡を掛けた落ち着いた雰囲気だが、どこか頼りないという印象の青年だ。

 正直、クラスでの印象はいまいちパッとしない。

 ゆりも同じ印象なのか怪訝な表情をしている。


「ふーん、柊くんねぇ。彼のどこを好きになったわけ?」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました! 柊くんはクラスでこそパッとしない印象だけど、部活中はすごく格好良いんだよ!」

「惚れててもクラスでの印象はやっぱりパッとしない、なんだ。でも、柊くんがカッコいい、ねぇ……」


 あたしの柊くんへのクラスでの印象を聞いて苦笑いを浮かべるゆり。

 そんなゆりは柊くんが格好良いという事に対して半信半疑の様だ。

 百聞は一見に如かず! 微妙な表情をしているゆりを連れてあたしは柊くんがいる武道館に向かう。

 あの柊くんを見たらゆりも印象が変わるはず。

 まあ、ゆりが柊くんに惚れる可能性も無くは無いけど、ゆりは他人の好きな人を横取りするような娘じゃないから、見せても大丈夫だろう。

 ゆりを信用しているから、あたしも部活モードの柊くんを見せるわけだし。


 あたし達は校内の武道館に着いた。

 武道館は二階建てであり、1階がたたみ、2階がフローリングになっており、1階では柔道部や空手部が、2階では剣道部や居合道部が活動している。

 あたし達の目的は2階の居合道部、柊くんのいる部活だ。


「ほら、あそこ」

「へぇ、確かにキリっとしてて教室での印象と全然違うね」


 部活動中の柊くんは袴姿で眼鏡を外しており、凛とした雰囲気をまとい、鋭い目つきで巻き藁を見据え、刀を振るっていた。


「ね? 良い男でしょ!」

「まあ、悪くないかな」


 部活中の柊くんを確認したあたし達は教室に戻って来た。

 教室に置いていた荷物を回収して、あとは帰るだけだ。


「格好良かったでしょ!」

「それは認めるけど、あれだともう彼女いるんじゃないの?」

「うぐっ……、その可能性は否定できない……」

「負け戦になるかもだから、今のうちに諦めた方が傷は浅いよ?」

「まだ私は柊くんの彼女を観測していない。観測していないという事はいるかもしれないし、いないかもしれない。シュレディンガーの彼女なのだ」

「何言ってんのさ……」


 でも、確かにゆりの言う通り、柊くんにはもう彼女がいるかもしれない。

 うぅ、そういわれると弱気になってしまう。


「それでも、あたしは諦めたくないんだ……!」

「本気、なんだね」

「うん。それで、ゆりにも手伝って欲しいなー、なんて」

「そういわれても、私だって付き合った事ないんだから手伝うなんて無理だよ……」

「そこを何とか~」


 あたしは手を合わせて頭を下げて頼み込む。


「……しょうがないなぁ。でも、あんまり期待しないでよ」

「ありがとー!」


 ゆりは渋々だが協力してくれる事になった。やったわ。

 そういえばと、あたしは気になった事をゆりに聞く。


「そういえば、ゆりって、好きな人いるの?」

「うぇっ!? いきなり何さ!?」


 ゆりは顔を赤くして動揺している。これはいるな。


「あー、その反応、いるんだね~」

「うぅ、まあ、そうだよ……」

「意外~、どんな人?」

「まあ、同じクラスの明るくて、笑顔が素敵でよく喋る人、かな」

「同じクラスで明るくて笑顔が素敵? う~ん、つまり誰?」

「言わない。これ以上聞くなら手伝わないよ!」

「ああー、それはダメだよ」


 ゆりの好きな人は気になるけど、これ以上追及して怒らせたくないし、親しき中にも礼儀有りってやつ? まあ、この話はここまでにしておこう。


 あたし達は学校を出て帰り道を歩く。

 あたしとゆりは小学校の頃からの付き合いであり、お互いに家も近いから、登下校はいつも一緒だ。


「それでさ、どうやったら柊くんと付き合えると思う?」

「いや、わかんないよ」

「う~ん、敵を知り己を知る。まずは現状の整理からしてみるか」


 あたし達は高校2年で、柊くんとは1年の時は違うクラスで接点が無かった。

 そして、2年になって同じクラスになり、3日ほど前にたまたま部活中の柊くんを見て惚れた。


「ていうか、なんで部活中の柊くんに会ったわけ?」


 ぶつぶつと現状整理をしていると、ゆりからのツッコみが入った。

 あたしと柊くんとの出会いか。

 3日ほど前の放課後、あたしは職員室を訪ねた。目的は欠席していた時のプリント類を貰うためだ。

 休んでいた時のノートはゆりに写させて貰ったが、プリント類は先生から貰う必要があった。

 という事で職員室を訪れ、休んでいた時のプリント類を先生達から貰って回っていた。

 最後に古典のプリントを貰おうとしたが、古典の先生が職員室におらず、他の先生に聞くと、居合道部の顧問だから今の時間だと武道館にいるだろうと聞き、武道館に先生を探しに行き、そして、部活動中の柊くんと出会った訳だ。

 そのあと、古典の先生に事情を話して、職員室でプリントを貰った。


「という出会いだったのさ」

「なるほどね。言われてみれば2~3日前に食べ過ぎでおなか痛いって休んでたね」


 話が逸れたけど、現状確認の続きだ。

 2年に進級して柊くんと同じクラスになったが、柊くんが眠れる獅子? 磨く前のダイヤモンド? まあ、とにかく隠れイケメンだと知らなかったので、4月から今までの1か月間、何一つ交流していない。

 接点は一つも無く、会話どころか挨拶すらしたことがない。そんな関係が現状である。


「詰んでない?」

「ゆり~、そんなこと言わないでよ~」


 こんな状態からでも付き合える方法があるんですか!? という画期的な方法があるならぜひ教えてほしいものだ。

 あたしは傾国の美女とか魔性の女とかそういう男を虜にするテクニックを持った美女ではないし、割とどこにでもいる普通の女子だと思う。

 そんなあたしがどうすれば柊くんと付き合えるか……。


「一気にお近づきになろうとしても引かれるかもしれないし、毎日挨拶とかして堅実に距離を縮めていくしかないかな」

「話した事も無いのに、いきなり挨拶すると向こうは身構えるんじゃない?」

「それはそうなんだけど、他に案は浮かばないし……。やるだけやってみるよ。単純接触効果だっけ? 毎日会っていると好きになるとかいうアレ狙いで」

「そっか。まあ、頑張って」

「うん!」


****


 次の日、あたし達は学校に登校する。

 昨日の帰り道で考えた毎日挨拶作戦を決行するべく、緊張しながら教室に入る。

 柊くんはまだ来ていなかった。

 心の準備をする猶予時間が増えたと思う反面、相手がいつ来るか分からないという緊張の二つの感情があたしの中でせめぎ合う。


「顔色悪いよ、そんなに緊張するならやめた方がよくない?」

「ありがと。ホントに無理ならそうする」


 ゆりと話していると柊くんが教室に入って来た。


「来たよ、行けそう?」

「うん、行ってくる」


 あたしは席を立って柊くんの元へと向かう。

 緊張で上手く話せるかな、という不安もあるが、考え過ぎると不安に押し潰されそうになる。

 たかが挨拶するだけ、気楽に行こう。そう自分に言い聞かせる。


「お、おはよー、柊くん」

「え? ああ、おはよう、菊池さん」


 柊くんは少し驚いていたが、挨拶を返してくれた。

 挨拶という任務を終え、あたしはゆりの下へと帰還を果たす。


「やって来たよ!」

「お疲れ様」

「柊くんも挨拶してくれたし、これは脈アリだよね!」

「そんなわけないでしょ、落ち着いて」


 緊張で心臓が口から出るかと思ったけど、何とかやり遂げた。

 これを毎日やると考えると、楽しみな気持ちもあるが、ちょっと大変そうだと思う気持ちもある。

 千里の道も一歩から、早くこれになれろ、あたし!


****


 午前の授業が終わり、昼食の時間になる。

 あたしはゆりは中庭のベンチでお昼のお弁当を広げる。

 教室で食べるよりも、中庭で食べた方がちょっとしたピクニック気分で楽しいので、いつも二人でここで昼食を食べている。

 人が少ないので、席取り合戦が無いのも利点だ。


「はぁ~、ランチタイムに柊くんを誘えたなら……」

「今の状態で誘っても、断られるか、気まずいランチタイムになるだけでしょ」

「まあ、そうなんだけどさ。なんというか、こう、他の手段も欲しいよね。仲良くなるための」

「とはいっても、挨拶を続けるくらいしかないでしょ」

「う~ん。あ、そうだ! 一緒に帰ろうって誘ってみよう!」

「柊くんは部活してるじゃん。部活って終わるの18時でしょ? 18時まで待つ気?」

「うっ……、15時に下校で、そのあと3時間も待つのは、確かに長すぎるかも……」


 我ながら妙案だと思ったんだけどなぁ。この案はダメか。

 ん? 待てよ……。


「そうか!」

「何か閃いた?」

「うん」

「あたしが勉強すれば良いんだ!」

「は?」


 あたしの思いついた作戦はこうだ。

 まず、一般生徒の下校時間である15時から18時前まで図書室で勉強する。

 そして18時に昇降口で柊くんを待ち、一緒に帰る。

 そして、勉強して賢くなったあたしがテスト前に柊くんに勉強を教えて距離を縮める。

 柊くんとお近づきになれて、あたしのテストの点数も上がる。一石二鳥じゃん。ヤバ、あたしって天才?


「その3時間の勉強って、私も付き合う前提?」

「……ダメ、かな?」

「はぁ、まあいいよ。家でするか学校でするかの違いだし」

「ありがとう心の友よ!」


****


 今日は週の真ん中、水曜日。早速、今日から二人での勉強会を始める。

 柊くんの居合道部は月水金が活動日だ。

 なら、空いている火木に一緒に帰ろうと誘えば良いと思うが、火木の柊くんは友達と一緒に帰っている。

 男子グループの中に入って一緒に帰ろうという勇気はあたしには無い。

 という事で、柊くんが一人で帰る月水金を狙っているわけだ。


 で、あたし達は今、図書室で勉強の真っ最中だ。

 ゆりはテストの点が良く、クラスでも上位の平均点を取っている剛の者だ。

 対して、あたしは平均点が60~70点と言ったところ。まあ、悪くはないよね。

 とはいえ、あたしは勉強が好きな方では無い。いきなり3時間の勉強会はキツ過ぎる。

 ゆりもそう思っているようで、初回という事で休憩を多めに取りながら、あたし達は勉強していた。


 勉強して、休憩して、おしゃべりして、としているうちに時刻は17時45分となった。


「そろそろ片付けてスタンバイしないと」

「そうだね」


 あたし達は勉強道具を片付けて昇降口へと向かう。

 時刻は17時50分。日が傾いて少し暗くなり始めていた。

 ゆりと今日の勉強は疲れたなどと話していると柊くんがやって来た。


「あ、柊くん。今帰るところ? その、良かったら一緒に帰らない?」

「え? あ、うん、いいよ」


 あたしは偶然を装って柊くんに声を掛ける。

 一緒に帰ろうと誘うと、柊くんは一瞬驚いたが、すぐに笑顔になって了承してくれた。

 というわけで、あたしとゆりと柊くんの3人で一緒に帰る事になった。やったぜ。


「菊池さんと黒瀬さんていつも一緒だよね。仲が良いんだ」

「うん、私とましろは小学校から一緒だからね」

「そうなんだ」


 緊張して喋れないあたしの代わりに、ゆりが柊くんと喋っていた。

 あたしも何とか頑張って会話に参加する。


「俺はこっちなんだ」

「あたし達はこっちだから」

「そっか。じゃ、また明日」


 駅に着いたあたし達は帰る方向が逆なので、駅で柊くんと別れた。

 あたしはゆりと二人で電車に乗って帰る。

 

「男女が制服で一緒に歩くって、これもう制服デートだよね! くぅ~、あたし、柊くんと制服デートしちゃった!」

「そんなわけないでしょ」

「ていうか、別れ際の言葉聞いた!? また明日だって! これは脈アリですわ!」

「悪い印象は無いみたいだけど、ちょっと落ち着きなさい」


 帰りの電車で舞い上がるあたしはゆりに軽くチョップされた。

 地味に痛い……。


****


 次の日、あたし達が教室に入ると、柊くんは既に教室に居たので、デイリーミッションとして挨拶しに行く。


「柊くん、おはよー」

「おはよう、菊池さん」



 毎日柊くんに挨拶し、月水金はゆりと勉強して柊くんと一緒に帰る、これを続けてしばらく経った今では柊くんの方から挨拶してくれたり、話しかけてくれたりすることもあり、柊くんと結構仲良くなれたと思う。

 そうしている間に中間テストの時期へと突入した。

 この時のためにあたしは週3で3時間も勉強してたんだ。

 というわけで、柊くんに一緒にテスト勉強をしようと誘いに行く。


「ねーねー柊くん、一緒にテスト勉強しない?」

「いいけど、黒瀬さんも一緒かい?」

「え? うん、ゆりもいるけど、なんで?」

「クラス上位の黒瀬さんに勉強を教えてもらえたらテストも怖くないからね」

「あはは……。あたしも結構頑張ったんだけどね」


 こうして、柊くんと一緒に図書室でテスト勉強をできる事になった。

 ここであたしが柊くんに勉強を教えて好感度を上げるんだー、そのために苦行を乗り越えて来たんだからね。


「う~ん」

「どしたの?」

「ああ、ここの問題に行き詰ってね」

「あー、これね。ここはこの公式を使うんだよ。ほら、ここに当てはめて」

「なるほど、そうやって解くんだな。というか、菊池さんって教えるの上手いね」

「ま、日頃の成果ってやつ?」


 まあ、今柊くんに教えたやり方は全部ゆりの受け売りなんだけど。

 それがバレたようで、ゆりがジト目でこっちを見ていた。

 ちょっとぐらい調子に乗らせてよ~。


「よし、これなら今回は補習を受けなくて済みそうだ」

「え? 柊くんって補習受けてたの?」

「ああ、まあ、部活の方を優先してて学業がね……」

「ま、まあ、部活やってるんだから仕方ないよ!」


****


 中間テストが終わり、採点されて答案用紙が帰ってくる。

 ゆりはいつも平均点が90点前後で、今回もそれくらいの点数だった。

 あたしは平均点80点を叩き出し、頑張ったなと先生に褒められた。

 柊くんはと言うと、平均点が70点ぐらいで赤点なし。

 今回は補習受けなくて済んだと感謝された。これは好感度上がったな。

 中間テストで一緒に勉強会をしたのもあって、中間テストが終わった今、あたしは柊くんに一緒にお昼を食べようと誘ってみた。


「いいよ、一緒に食べようか」


 という事で、あたし達は一緒に中庭でお弁当を食べる事になった。

 もちろん、ゆりも一緒にいる。柊くんと二人だけでお昼はまだハードルが高いからね。

 お弁当を食べながら、あたし達は好きな漫画の話とか授業の事とかの世間話をしていたが、あたしは勝負に出る。


「柊くんって、彼女いるの?」

「俺? いないんだな、残念ながら」

「そうなんだ。モテそうなのに」

「居合道部は人数が少ない上に男しか居ないから女子と話す事も無いし。菊池さん達くらいだよ、俺と話してくれるのは」

「そうなんだ」


 平静を装いながら、あたしは内心でガッツポーズする。

 柊くんと仲の良い女子はあたし達しかいないという事は、競合はいないと思って良いだろう。

 この戦い、勝てるぞ!


****


 もうすぐ期末テストの時期。あたしはある決意をする。


「夏休みに入る前に告白しようと思うんだ」

「ついにやるんだね」

「うん。成功すると思う?」

「どうだろう。仲良くなったとは思うけど、向こうに恋愛感情があるか分からないからね。」

「ぐぬぬ……、確かに柊くんって、誰にでもあんな感じだし……」

「ま、フラれたら慰めるくらいはするから、やるだけやってみなよ」

「そうだね。やるだけやってみるよ、当たって砕けろ!」


 期末テストのテスト勉強期間、あたしは中間テストの時と同じように柊くんを勉強に誘った。

 ただ、中間テストの時と違う事がある。


「あれ、今日は黒瀬さんはいないんだ」

「うん、ゆりは別の友達に頼まれて、そっちと勉強するって」

「そっか」


 本当はあたしがゆりに頼んで、柊くんと二人っきりになれるようにしてもらったんだけどね。

 友達として仲を深めるのもこれが最後。次は恋人同士として二人っきりになりたいな。



 そして、期末テストが終わった。

 あたしとゆりと柊くんの3人は問題無く合格点を取り、テストを突破した。

 そして、修了式の日。


「い、行ってくりゅ!」

「頑張ってね」


 修了式の全校集会は終わり、あとは帰るだけの状態だが、あたしは柊くんを校舎裏に呼び出した。

 そして、ゆりに見送られ、今から柊くんの所に向かう。


「ひ、柊くん!」

「あ、菊池さん。何か用事があるんだって?」

「ずっと前から好きでした! あたしと付き合ってください!」

「え!?」

「……だ、だめ?」

「いや、ちょっとびっくりしただけ。その、俺で良ければ」

「や、やった!」


 あたしと柊くんは晴れて恋人同士になれた。

 2か月の頑張りが報われたよ!

 

 あたし達はお互いに帰る準備をするために教室に戻る。

 教室に戻って、ゆりに報告しないと。


「ゆり、ただいま!」

「お帰り、どうだった?」

「うん、成功したよ!」

「そっか……」


 あたしが柊くんと付き合うようになったと報告すると、ゆりの目から涙が溢れ出る。


「ど、どしたのゆり? 大丈夫?」

「ごめんね。ましろの頑張りが報われたかと思うと、ちょっと感動しちゃって……」

「ゆり……」


 ゆりの言葉を聞いて、挨拶作戦や一緒に下校作戦など、いろいろやった事を思い出し、あたしも目頭が熱くなる。


「ゆりが居てくれたからだよ」

「ふふ、ましろに彼氏が出来ても、私達は親友だよ」

「もちろん!」


 あたし達は感動の涙を流しながら抱き合い、お互いの友情を確かめ合った。




◆◆◆◆



 ~とある少女の独白~


 私には好きな人がいたが、その人には恋人が出来た。

 私は失恋したのだ。


 始まりは5月のある日だった。

 好きな人から、好きな人が出来たと言われた。

 その好きな人が私でない事はすぐに分かった。


 話を聞いていくと、その好きな人とは、同じクラスの男子だった。

 いまいちパッとしないという印象の男子で、この娘は一体あの男子のどこを好きになったんだろうかと思っていたら、表情から伝わったのか、部活中は格好いいからと武道館へ連れていかれた。

 そこには普段の頼りない雰囲気とは違い、キリっとした雰囲気を発しており、確かに悪くはないなと思わされた。


 そして私の想い人は、私に彼と付き合えるように手伝って欲しいと頼んできた。

 なかなか酷な事を言う。

 私が好きなのは君なのに、君が他の男と付き合うのを手伝えなんて……。


 私は、彼にはすでに恋人がいるかもしれないと言ってみたが、そのくらいでは君は諦めなかった。

 恋愛経験の無い私では力になれないとも言ってみた。

 こんな事を頼めるのは私しかいない、と言った君に嫌われたくなかった私は君の恋を手伝う事にした。正直、気は進まなかったが……。


 何を思ったのか、君は私に好きな人はいるのかと聞いてきた。

 突然の質問に私は動揺した。

 好きな人はいるのか、——いるよ、目の前に。

 そうは答えられなかった。

 いるとだけ答えた私に、どんな人かと君は聞いてきた。

 同じクラスで、明るくて、笑顔が素敵でよく喋る人と答えた。まあ、君の事なんだけどね。

 具体的に誰なのかと聞かれると答えに困る。

 これ以上聞くようなら手伝わないという君は引き下がった。


 君は彼と付き合うための作戦会議と言うが、私の頭の中では、どうすれば君が彼から離れるかを考えていた。君に嫌われたくないから実行はしないけどね。

 あと、普通に君と彼が付き合える方法を考えても思いつかなかった。

 だって君と彼、同じクラスなだけで接点ないじゃん。


 そんな状態から、毎日挨拶したり、部活が終わる時間まで待って一緒に帰ったり、テスト期間に勉強を教えたりして、君は彼との距離を縮めていった。


 凄い行動力だ。私には真似できない。

 そんなところに憧れて、好きになったんだけど。


 中間テストが終わって、君と彼は一緒にお昼を食べるになった。

 君は彼に彼女かいるのか質問し、彼は彼女は居ないと答えた。

 彼に彼女がいたなら、どれほど喜んだことか。


 もうすぐ期末テストという時期に告白しようと思うと君は言った。

 とうとうこの時が来たのかと思った。

 不安な君は告白が成功するか私に尋ねたね。

 私的には失敗してほしいけど、そんな事は言えない。

 仲良くはなったけど、彼に君への好意があるから分からないから、告白が成功するか分からない、と私は悪あがきする。


 分かっている、十中八九、告白は成功するだろう。

 だって、嫌いな相手と一緒に帰ったり、お昼を食べたりしないだろうから。

 私はフラれたら慰めてあげると言ったけど、これは本心。

 君は最後の一押しに期末テストの勉強は彼と二人でやるといった。

 そこまでしなくても良いと思うけど、やる気満々な君を止めるのは水を差すようで悪いと思ったので止めなかった。


 期末テストが終わり、修了式の日。君は決意に満ちた瞳で告白してくると向かっていった。

 本当は行かないで欲しかったが、臆病な私に止める事など出来なかった。


 君が帰って来た。告白が成功したと言った。

 ずっと君の事が好きなのに、今の関係性が壊れるかもしれないのが怖くて、未だに想いを伝えられない臆病な私と違って、何も出来なかった私と違って、君は成就させたんだね。


 ずっと前から覚悟していた。私の恋は実らないと。

 だから、君を笑顔で祝福するつもりだった。

 でも、私の想いとは裏腹に涙が溢れ出した。

 私はこの想いを伝える事も出来ずに失恋したのだ。


 私はやっと君の恋が成就したんだね、と感動で泣いているように見せかけた。

 君もやっと恋が叶ったと涙を流した。頑張ってたもんね。


 でも、私と君の涙の理由は違うんだ。

 私は失恋した。君の恋人にはなれなかった。


 でも、せめて、君の親友として、傍に居させてね。




ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

面白いと思っていただけたら、ブックマーク・評価・感想で応援してもらえると励みになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

乙女奮闘~もし君と付き合えたなら~ シン01 @Shin-01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ