第5話 姉ちゃん公認です。(茉由さんには内緒)

 「あ、朱音…」


 「座って座って。碧斗が入れたコーヒー美味しいよ」


 朱音に誘導されるまま、朱音の前の席に腰かけた。


 「で、どうだった?」


 熱いかなーっと様子を見ながら飲もうとしたコーヒーを、吹き出す寸前!


 びっくりしてぱくぱくと声にならない口の動作で朱音を見ると、平然とした態度で私を見ていた。

 

 この余裕はなんだ!わたしはとても動揺しているのに!


「大丈夫(?)だよ。やってないって。寝てる茉由に手を出すほど、腐った人間じゃないって」


「え、あ、…そうなんだ」


 「途中までしたから、朝の状態だったみたいだけど」


 悪戯そうに笑う顔を見ると、碧斗くんがぱっと浮かぶ。

 

 (2人は姉弟なんだなー…)

 今までは朱音しか知らなかったけど、今は、朱音を通して碧斗くんが見えてくる。


「碧斗が茉由を運んでくれるっていうから任せたのに、朝きたら、客間に茉由はいないし。碧斗の部屋にいったら、あの光景で。同意だったらいいのだけど、茉由の様子から同意じゃないって思ったから…」


「あ、あの、同意かどうかの、あれ?」


「まあ、これから同棲するし、仲が深まってくれるならそれで嬉しいよ」


 にっこり笑う朱音は、なにかを企んでいる?ごり押し?のような雰囲気を感じるのだけれど…、碧斗くんとあの状態になっていることに対して、怒っていないし、同居の話も継続のまま?だから、いいの、かな?

 

「あ、ありがとう…」


「茉由が同意しない限り、最後まではさせないって約束させたから」


「ちょちょちょちょちょ、最後までってなに?その手前は同意なしOKなの?」


「そこまで細かく、弟の恋愛事情に口出せないよー。大人同士なんだから、そこらへんはうまくやってね。お姉ちゃんは可愛い弟くんの味方だから」


「でっけー拳骨2回食らわせてるけどな」


「わっ!!!」


 背後の上から声が聞こえてびっくりしてると、碧斗くんが隣の椅子を引いて、腰かけた。


「あんたが下手くそだからでしょ?あの状態で誤解するのは当然だから」


「全然ご無沙汰だから、ゴムだってありませんよー」


 朝から姉弟がする会話じゃないと思うんだけど…。


 碧斗くんを信頼して、同居を決めたこと、間違いだったかなー…って、頭を抱える私を見て、フォローを入れるわけでもなく、さらに頭が痛くなることを、悪い顔してささやいた。


「俺、普通サイズじゃ入んないから。ネットで買っておくね」


 いらん情報です!!!!!


「このあと、どうする?引っ越しするまでの間、茉由をあの部屋に帰すのは嫌なんだけど…」


「俺の部屋で仮同居する?」


「碧斗くんのここって、どのあたりになる?」


 住所を聞くと、私のマンションからより、職場に近い場所だった。


「通える!ここから会社通えるし、近くなるし、助かる!」


「今後の引っ越しは考えているよ。部屋数あっても、同居ならもう少しプライバシー守れる間取りが必要だと思うし…」


「2人がカップルになったら、この部屋でも十分の間取りになるけどね」


 朱音がつぶやいた声は、私たちに届くことがなく、私はなにも知らないまま、碧斗くんとの同居の流れに進んでいた。


「引っ越しが連続になると大変だから、簡単に荷物をまとめて、まずはここでの生活に慣れるようにしようか。週明けから月始めだし、今月末までに荷物と家具の移動を整理して。流れ良ければ、そっちの部屋は解約手続き進めよう。解約するまで、こっちにかかる費用はとらないから」


「え、え…いいの?」


「いいよ。姉ちゃんのいうように、稼いでるから」


 碧斗くんの可愛い笑顔は、私を安心させるために見せてくれるものなのかもしれない。


 悪戯っぽく、ときには意地悪に、純粋さ100%です!の可愛い笑顔も、全部が私の中に浸透していく。


 やばいな…、碧斗くんの優しさに触れるたびに、好きになっていく感覚がくる。


 顔が良くて、スタイル良くて、身長高くて、中身までパーフェクトとか、女性がおかしくなって当然だよ。

 

 違う意味で、同居を後悔する日が、来るかもしれない…。


 無意識に碧斗くんを見つめてしまっていたのに気付いたのは、顔パックを丁寧にはがされたとき。


 碧斗くんが用意していた乳液を、大きくて長い指で、優しく大切なものに触れるように塗ってくれる顔を見て、(ああ…もう、だめ、好き。)


 私は完全に、碧斗くんに堕ちました。


「昼間のうちに荷物取りにいっちゃうか。自分のものが手元にないと、不便でしょ

?姉ちゃんいるし、俺が荷物運ぶから、茉由さんとまとめてもらって」


 「うん。私がいたら、茉由が一人になることないもんね。琉生るいにも手伝ってもらおっか。男手が近くにいて、離れないでいてくれる方が安心するし」


「琉生さんに頼んでくれる?」


「大丈夫!すぐ電話してくる!」


 朱音が席を立ち、リビングから離れたところに移動する。


 朱音と碧斗くんのテンポが良くて、お礼を言うタイミグを逃してしまう。


「茉由さん、髪も乾かそう?」


 ドライヤーまで用意してきてくれた碧斗くんに、コンセントがさせるリビングのラグの方に誘導され、ソファーに座った碧斗くんに、髪の毛を乾かしてもらうことになった。

 

 ロングヘアーで、乾かすのが大変だと思うのに、碧斗くんは、上手に、不安にならない手つきで、根本から毛先にかけて、丁寧に手のブラッシングを入れながら、乾かしていく。


 こんな完璧沼男と、どうやって同居していけばいいの…!


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