第3話 碧斗くんはモテるのです。

「最初は、私が碧斗あおとに同居を持ちかけられてたの」


「え?朱音あかねと?」


 びっくりの連続で、え?しか出てこない。


 飲み物が届き、手際よく私と朱音あかねの前から空グラスをどけて、新しいグラスを置いてくれる。


 自分のお酒を飲みながら、私たちの様子を再び見守った。


 お行儀いいし、手際もいい。

 飲んでる姿は、ウサギみたいで可愛いし、これは何度も感じる、(碧斗あおとくん、モテる!!!)


「この通りイケメンでしょ?」


 頷くしかできません、その通りでございます。


「モテるわけよ、とてつもなく」


 そうでしょう、そうだと思います。


「で、あまりにモテすぎて、面倒になっちゃったわけ、女性が。碧斗あおとの年齢が、結婚適齢期に入っているし、こんな優良高物件あったら、女性が来るでしょ?じゃんじゃかと」


「うんうん」


「で、色々あって、嫌気がさした碧斗あおとが、姉ちゃん!家賃3分の2出すから、同居してくれ!お願い!女避け!って言ってきたの」


「ほーほー…」


 朱音あかねの隣で飲み食いを続けてる碧斗あおとくんに、変化ゼロ。

 お姉ちゃんの真似にも、モテるエピソードにも、動じてません。


「いくら姉弟だからって、アラサーになってまで弟と同居なんて邪魔だし、琉生るいがいるから、いや!って断ったの」


 琉生るいくんと朱音あかねも年齢的に結婚考える?なんて言ってたから、ここで碧斗あおとくんとの同居は考えちゃうよね…。


 琉生るいくんは結婚したいけど、朱音あかねがまだやだって渋ってる感じだっただけたし、琉生るいくんが頑張って誘導してるところかな?


「で、茉由まゆのことで、碧斗あおとがちょうどいいじゃん!って、お金持ってるし!」


「わっッッッるい姉ちゃんだ!!!!」


「そんなことないですよ。こんな綺麗な人との同居、提案してくれたし」


 私と朱音あかね碧斗あおとくんの温度差に、差があります。


碧斗あおとくん、口がうまいのは、女性避けがほしいからでしょ」


「そんなことないですよ、本心です」


 ピュア風な装いでお酒を飲んでても、騙されないぞ!と警戒心が湧いてくる。


「ただ、女性には困ってないんで、茉由まゆさんに手を出すことはしないです。ストーカー被害が怖いんですよね?俺、身長もあるし、意外と筋肉質なんで、用心棒にはなりますよ」


 そういってちらっとめくった服から見えた腹筋は、綺麗なシックスパックのよう。


「俺も参ってて。髪下ろすと幼く見えるらしいから、外出歩くときはこうしてるけど、ちゃんとするときは、ちゃんとするんで。安心して過ごせるようにしますよ」


 まっすぐ目を見る碧斗あおとくんの言葉に嘘は感じず、頼もしさがあった。


「…碧斗あおとくんが私に望むことは?」


「え?」


「引っ越し費用も払ってくれて、家賃まで3分の2払ってくれるんだよね?私ばっかり好条件で、…」


「将来的には結婚したいとは思ってるんですよ。でも、今の状態で恋愛したいって思えないんで…。女性嫌いになる前に、姉の信頼する人と同棲っぽいことしておきたいなって。断るときの彼女的役割もしてくれたら、助かります。」


「…うん、全然する。碧斗くんなら、信用できる気がする」


 朱音あかねの弟だもん、大丈夫だよね。


 私が差し出した手を、碧斗あおとくんの大きな大きな手が、つぶれないように、優しく包むように握り返してくれた。


 わたしと碧斗あおとくんとのやりとりを見守ってくれてた朱音あかねは、話がまとまった様子を見て「飲むぞーーー!!!」と、お酒スイッチを入れる。


 酔いが覚めたときに、後悔をするかもしれない。


 意外…じゃないぐらい大きな決断。


 でも、朱音あかねの弟なら、碧斗あおとくんなら、なんとかなる気がする。


 そう思ってたんだよ…。







「あ、やべ、…しちゃったね」



 こんな男の顔して笑うなんて、…。


 暗闇のリビングの中、倒れ込む私を支えてくれたはずの碧斗あおとくんは、慣れた手つきでキスをした。


 きっとこの反応は、無意識の慣れの行動。


碧斗あおとくん、…遊び人なんて、聞いてない」


「ごめん。けっこー遊んでるかも」


 楽しそうな顔して、ちょっとかすれた低い声。


 あ、男だった…、そんな思考の先は、碧斗あおとくんの2回目以降のキスで途切れる。


 碧斗あおとくんの口は解けるように柔らかく、触れる感覚が気持ちいい。


 お酒のせいで、ふわふわしているからかな。

 

 それとも、碧斗あおとくんから香る匂い、色気?


 ふあっと空いた口の隙間から、すっと碧斗あおとくんの舌が入り込み、無防備な私の舌を捕まえる。


 どこまでも優しい碧斗あおとくんのキスに、私の思考は本当に解けてしまった。




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