気の置けない友達
休日の都会で、怜は待ち合わせをしていた。
時間になっても相手が来ず、電話をしようか逡巡していると、駅の方面から走ってくる人影が見えた。
「すまん!普通に寝坊した」
いきなりの平身低頭で現れた、それなりに均整の取れた顔立ちの若者は、怜と同じクラスの
怜はこれ見よがしにため息をつくと、呆れた顔で春陽を見やった。
「これで何回目だよほんと。責めるに責められないレベルの遅刻やめろって」
「おれは時間のボーダーラインを見定められる男だからな」
「それは俺が舐められてるってことでいいよな?」
時間を守れない彼は、時間以外の面でもいい加減で、学校でも注意力がないと評価されている。
一歩間違えれば周囲に人が寄りつかなくなりそうな性格だが、彼のまわりにはいつも人がいる。その理由は大きく二つあるが、やはり第一に挙げられるのは彼のルックスだろう。
「てか、今日はあいついねえんだな。ニコイチじゃなかったのか」
「怜は分かってるよな?七瀬とはただ小学校から一緒だっただけだって」
七瀬、とは怜の隣のクラスに所属している
春陽と麻美は俗に言う幼馴染であり、麻美が頻繁に春陽に話しかけ行くので二人はほぼほぼの時間を共に過ごしている。
そしてこの麻美こそが、春陽が孤立しないもう一つの理由である。
麻美の春陽への感情は誰が見ても恋慕であり、周りの人間は春陽に近づこうと努力する麻美をほのぼのと見守っているのだ。
ちなみに春陽はその想いには一セントも気付いてはいない。
「はいはいそうですね。そんなことより、なんで俺は急に呼び出されたんですかね」
「お前が七瀬の話題を出したんだけどなあ……。まあいいや、今日はずっと応援してた漫画家さんの個展が開かれるらしいから、一緒に行こうと思って」
こいつは二次元の、とりわけ絵や漫画の虜なのだ。クラス委員長もしているような春陽と怜がこうして関わるようになったのも、怜の読んでいたライトノベルに春陽が興味を示したからである。
「あー、あの人のか。普通に楽しみだな」
「怜が好きそうなストーリーだよな。裏話とかも乗ってるらしいから二人とも楽しめるかと思って」
「よくわかってんなあ」
「そりゃあ、親友ですから」
「親友だったのか」
春陽は無言で怜を殴ってきた。もう少し手加減を覚えてほしいくらいには痛い。
そして春陽は、何事もなかったかのように笑いかけてきた。
「じゃあ行くか」
「ほーい」
■■■
「てか、気になってたんだけど」
「何が?」
個個展を見終えてその辺りをぶらついていると、春陽がふと思い出したように口を開いた。
「しばらく喫茶店来ないでってやつ。あれ何で?」
春陽は怜がアルバイトをしていることを知っており、喫茶店に良く足を運んでいる。
琴音の一度目の来店をした後、春陽から『喫茶店言ってもいい?』と連絡が来た。
その時は琴音がもう一度来店しようとしているような発言を聞いていたので、念のため春陽には来ないように言っておいたのだ。
琴音の学校での印象のためというのはあるが、それなりに琴音と接点のある春陽が琴音と会ってしまうと怜にとっても面倒なことになるというのが理由だ。怜が春陽と親交があるというのもあまり知られてはいない。
「あー、いや。店がちょっと忙しい時期だったから、お前の対応めんどくて」
「なかなか酷いこと言う。傷つくって」
わざとらしい泣き真似をしてくるので、「七瀬さんに慰めて貰えば?」というと黙った。麻美を恋愛と絡ませることはできないながらも人並みに恥ずかしがるなど器用なことをするものだ。
「でも前繁忙期過ぎたって言ってた気が」
「うるせーな納得しとけ」
「はいはい」
春陽に隠していることはそれなりにあるので、はぐらかすのもお手のものである。
その時、春陽の携帯から着信音が聞こえてきた。
「悪い、電話出るわ」
「はいよ」
道の真ん中だったので端に寄ってから、彼は電話に出た。
「 もしもし。七瀬? どした急に」
麻美のアタックは休日であっても続いているようだ。電話までかけてくるとは予想していなかったが、春陽も怜以外の者と一緒にいる際には応答しないだろう。
春陽は春陽はこれでズバッと言うところは言う性格なので、お互いにリスペクトをもって接しているのだろう。
「怜と遊んでるけど。……え?お嬢と?仲良かったのか。それで?……うん、うん……うん。それでいい。ありがと」
春陽は電話を切り、こちらを向いてきた。
「そんな重要じゃなかった。晩御飯そっちで食べるから献立聞いてくれただけ」
「恋愛通り越して結婚してる?」
「してない。お互いに一気に作った方が食費が浮くって言うだけだから。親も忙しいし」
「熱愛報道も納得だな」
ここの二人の関係性はそんなに詳しく知らないが、普通の幼馴染はそんなことをしないと言うことだけは理解できる。
「てかお嬢って?」
「ああ、古谷さんだよ。今日一緒に遊んでたらしい」
「……へえ」
「お前ほんと興味ないのな。親交あったの結構驚かなかった?」
「いやそんなに」
驚きよりも先に疑問が浮かんだ。麻美と接している琴音は、いったいどちらの側面を見せているのだろうか。
「流石に女子にまで嫉妬するのは違うだろ」
「だから嫉妬じゃないって言ってるだろ!」
「はいはいそうですか」
麻美の思いが伝わる日が、いつか来るのだろうか。少なくとも今の春陽を見ていると、まだまだ先は遠そうである。
次の更新予定
2025年12月9日 21:00
オタクに優しいギャルと目の保養に良いオタク ふつれ @future7
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