「いつ発症していつ死ぬか分からない病」が当たり前になった世界で、それでも歌うことを選ぶ主人公の姿が、胸に残りました。恐怖が消えたわけではなく、それでも一瞬一瞬を自分のものにしていこうとする感覚が、淡々とした語りの中ににじんでいます。ごくささやかな「生きていたい」という想いが、駅前の歌声と一緒にそっと響いてくるような掌編でした。