いつ死ぬか分からん不治の病

@merennge

いつ死ぬか分からん、不治の病

 世界に、いつ発症していつ死ぬか分からない病気が流行して三年が経った。

感染経路は空気感染・接触感染・水――あらゆるものを介して広がる。

生活していれば、感染は避けられなかった。


この病気が発表された当初、世界中は大混乱となった。

感染しやすい上に、発症すれば致死率100%。

この病気の厄介なところは、潜伏期間が人によって異なり、いつ発症するか分からない点だ。


発症すれば、死ぬ。


三年が経ち、世界は様変わりした。

新興宗教は乱立し、一部の権力者は感染対策にやっきになった。

だが、みんな薄々気づいている。


――この病気は避けられないのだ。


 そして罹ったところで、発症しなければ普段の生活に支障はない。

ただ、以前より「死を意識する感覚」が強くなっただけだ。

多分、それもいつか慣れて、薄くなる。


 最初は怖くてたまらなかった。

もうこの病気に感染していて、明日死んでしまうのではないかと怯えた。

逃避するために、「死ぬまでにやりたいことリスト」を作っていろいろやった。


でも、この恐怖からは逃げられない。


そして寝る前に思った。

どうせ死ぬのなら――と。


思い立ったが吉日、次の日、下手くそな曲を駅前で下手くそに歌う。


誰も見もしない。

でもいいんだ。


この瞬間だけは、死の恐怖から逃げられる。


……いや、多分違う。

死ぬのは相変わらず怖くてたまらない。


多分、生きてるってことに意味があるように感じられて、

その感覚が、死の恐怖を少しだけ和らげてくれる。


そして今日も、僕は――

いつ死ぬか分からない病気が流行る世界で、歌を歌う。

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