第1話 問題児

 冒険者。

 魔物を生み出す迷宮を攻略し、人々を危険から守る者達。

 英雄視をされる一方で、畏怖や嫌悪もされる特異な職業。

 そんな彼らが時折『野蛮』と言われるのは、彼らの日常に争いが付きものだから。


「―――ちょっと待て『カルタ』!報酬は均等きんとうに山分けって言ったよな⁈」

「どうして?魔物を全て倒したのは私。アナタ達は後ろから付いて来ただけでしょ?」


 彼らの集まるギルドでは、それこそ毎日のように喧嘩けんかが起こる。

 今日もまた、とあるパーティが報酬を原因にめていた。


「―――それはっ!お前が勝手に迷宮を進んじまうからだろ!なんでそんなにチームワークが取れないんだ‼」

「チームワークが取れない?どうして私が、アナタ達に合わせなきゃいけないの?置いて行かれるのは実力が足りていないからでしょ。人のせいにしないで欲しいのだけど」

「―――なんだとぉ⁈」

「納得がいかないなら試合でもする?私に勝てたら報酬は山分けで良いよ」

「―――ぐっぅ、それは……」


 カルタと呼ばれたのは、背の高い女の戦士。

 彼女とめていた冒険者は、試合の申し出を受ける事はしなかった。


 カルタは強い。

 どれだけ彼女を嫌悪しても、その事実は認めざるを得ない。

 それだけの強さを彼女は持っていた。


「報酬は総取そうどりで良さそうね。気が向いたら声をかけて頂戴ちょうだい、また一緒に仕事をしましょ」

「―――誰が二度と組むものか……」


 その声は小さく、負け惜しみにも聞こえなかった。


 彼らの世界では戦いが日常だ。

 強いものがえらく、弱い者が弱い事が悪い。


 『冒険者』は実力主義のだ。

 だが社会だからこそ、守るべき秩序ちつじょとルールがある。

 その型を破る者は『問題児』と呼ばれ、悩みの種となる。

 そんな悩みが辿たどり着く場所は、勿論もちろん『相談所』だ。


 今日、店主は客の相談を受けてギルドに来ていた。


[先ほどめていた方が例の?]

「はい。最近現れた問題児のカルタさんです。前まではあんな子じゃ無かったんですが……」


 喧嘩の一部始終を、店主は依頼者であるギルドの受付嬢と見守っていた。


[最近ですか……。彼女にも何かあったのでしょうか]

「分かりません。だから店主くん、彼女の事、頼めますか?」

[やれる事をやってみましょう]

「良かった。それを聞けてお姉さんは安心です。それじゃお願いしますね。店主くん」

[はい。相談の件、任されました]


 店主は受付嬢と別れ、この場を去ろうとするカルタを追う。

 問題児と呼ばれた彼女は、報酬の入った袋を持ち、ギルドを出て行った。

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