第29話 第4章エピローグ「星の下、闇の中」

「――筧(かけい)リン、聞こえるか」

「はい、聞こえます」


 微かに光る天の川の下、白い和傘を差し、フードを目深に被った少女が右耳のイヤホンを抑える。


「状況は?」


 深い藪の中、僅かな隙間から目を凝らした少女は、純白の戦闘服が汚れるのもいとわず身体を乗り出した。


「器が勝ちました」


「なにっ⁉」


 少女、筧リンはさらに目を開く。次の瞬間、右目の前に小さなレンズが展開され、正也と櫻の様子を捉えた。


 抱き合う二人。それを、無表情で見つめる。


「力に呑まれたか」


「いいえ、どうやら彼は進化を果たしたようです」


「進化、だと?」


 高性能カメラのようにさらにズームし、正也の後ろ姿を捉える。


「ええ、王の意識をコントロール下に置くことに成功し、はっきりとした理性を残しています」


「なら、今。今叩けるか⁉」


「隊長、お言葉ですが、それは不可能です。相応の舞台を整えないと」


 そのとき、遠くから微かに笑い声。


 リンが声の方に視線を送ると、正也が櫻をおんぶしていた。


「進化を手伝ったあの祓魔師。私は、彼女のことを知っています」


 リンの鋭い視線が、正也に耳打ちをし、楽しそうに笑う櫻に集中する。


 そしてリンは、くっと目を細めた。


「今回の任務、私に任せていただけませんか」


 二人の楽しそうな笑い声が、リンの耳の奥でしつこく反響する。


「規律と秩序が全てだということを、思い知らせてやります」


 リンはフードを取り、黒い短髪を髪に靡かせながら、そう呟いた。




第4章「契約と現実、愛の行方」完


 第4章、読んでいただきありがとうございます。この章は特に熱量が高くなって、文量がかなり多くなってしまいました。申し訳ありません。第5章はもう少し抑えめに、といきたいところですが、とうとう筧リンが出てきます。一番好きなキャラクターかもしれません。切なくて可愛いんです。

 彼女は特に社会人の読者の方に共感していただけると思います。第5章、二人とリンの物語も期待していてください。


 毎日21時更新です。

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