第19話「本物の吸血鬼」
「本物の吸血鬼?」
あまりに聞き馴染みの無いその言葉に、正也は思わず聞き返す。
「そうだ。私たちはそう呼んでいる」
「それに、昨日のって」
「順を追って話そう」
櫻はそう言い、腕を組んで窓枠に身体を預ける。
「まず彼らについてだが、彼らは誕生から現代まで数百年生き延び、吸血によって眷属を残すことが出来る」
「眷属を……そんなの、世界が滅茶苦茶になる」
「ああ、だが、殆どの眷属には知能の著しい低下が見られる。実際に見たことがあるが、奴らが現代社会に溶け込むのは不可能だろう」
櫻はそこで言葉を止め、考え込む仕草を見せ、「しかし」と続ける。
「一人例外がいるとされている。知能を保持した眷属を生み出せる存在が」
「それが、もしかして」
「そう、王だ」
櫻は眉間に皺を寄せ、腕を擦る。
「ここからは私の推測だが」
櫻はそこまで言い、途端に口を引き結んで押し黙る。
そして、まるで盗聴を警戒するように背後、窓の外に目をやった。
部活動に励む生徒たちの声が微かに聞こえてくる。
「私たち祓魔師が呼んでいた本物の吸血鬼とは、皆すべからく文字通り“王の眷属”なのではないか?」
外から生徒たちのハツラツとした声が小さく、そして空虚にこの部屋に響く。
「彼らが王の復活という一つの目標に向けて動き出したのだとすれば」
櫻は指で腕をトントンと叩きながら、片方の手で顔を覆う。
「昼を終わらせる。つまり、人類の終焉。これは絵空事なんかではないのでは?」
そのとき、廊下を誰かが駆け抜ける音がして、正也は神経質に音の方を振り向く。
しかし櫻に向き直ったとき、彼女は天井を仰いでいた。
「ま、きっと考えすぎだがな」
櫻はそう言い、僅かに俯いて、正也から敢えて目を逸らすような仕草を見せる。
そんな櫻の様子に一瞬呆気に取られた正也だったが、すぐに正気を取り戻す。
「考えすぎって、いやいや、それなりに筋通ってましたよ」
「だって、考えてもみろ。彼らがそうだとして、何故今になって動き出した? 歴史上チャンスは幾らでもあったはずだ」
「それは、確かに」
「昨日の彼は、王を信奉するカルト集団の一味だと考えるのが妥当だろう。決して珍しい話じゃない」
「いや、待って」
そのとき、正也の全身を駆け巡る、悪い予感。
同時に吐き気を催すような嫌悪感に襲われながらも、正しさに抗えずに口を開く。
「本物の吸血鬼、もとい王の眷属たちは、今までずっと、水面下で動いていたのでは?」
次の瞬間、櫻のギラついた目が正也に突き刺さる。
初めて自分に向けられる櫻の圧。
しかし正也は、真実を掴めそうな衝動に突き動かされて止まらない。
「きっと、何かを探していたんだ。ずっと」
正也は思考の海に潜り込んでいく。
深く暗い海の底、記憶の断片を拾い集め始める。
『なるほどそうですか。どうりで見つからなかったわけです』
もっと深く、もっと多く拾い集める。
『振るだけで良い』
「奴らは探してたんだ。だから先輩の、王と神殿の記憶を取りに来た」
『感動、しましたよ』
そして気付き、喉奥から湧き上がる吐き気を押し殺すように、震えた手で口を覆った。
「特殊な力を持っている王の血縁者を探していたんだ」
海から上がり、最初に目に飛び込んだのは櫻の表情。
「それは、俺だ」
嬉しさと期待が滲む櫻の微笑みが、正也を見つめていた。
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