こんなのが英雄って嘘でしょ?
星宮 祈
最悪の魔術師
第1話 初めまして、そしておやすみなさい
──ハァッハァッハァッハァッ
呼吸の乱れた二人組が夜の森を駆ける。
1人は大人の女性、もう1人は少女。女性の方は、いたって普通の強いて言えば幸の薄そうな顔の
後方から飛来した矢が女性に刺さる。
「うぐぁッ!!」
「お母さん!」
少女は倒れた母親に駆け寄ろうとするが、後方から迫り来る追手の姿に足が竦んだ。その様子を見た母親は必死の形相で叫ぶ。
「ミフォス、逃げなさい!!」
「で、でも……」
「いいから行きなさい!!」
ミフォスと呼ばれた少女は、今まで母親に何度も叱られた、だがここまで鬼気迫る様子で叫ばれたことなど無かった。母のその有無を言わさぬ態度に涙目になりながら背を向け走り出す。
(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい)
母への謝罪か、それとも他の誰かへの謝罪か、それら含めた全ての者への謝罪か、それはミフォスにもわからない。ただ、産まれてきたこと、今まで生きてきたこと、それを後悔していることだけは確かだった。
「あぅぁ……」
母と別れた場所からずっと走り続け、ようやく森を抜けたところで心身の疲労が限界を迎え、足がもつれ倒れ込んでしまった。
彼女の種族は肉体的に人類種より優れているとされている。がしかし、ミフォスはまだ子供で、今まで質素な食生活を送ってきた上に只人とのハーフだ、成体になったとしても只人と大差ない可能性すらあった。
「誰か……」
体力の尽きたミフォスは手を握り、何かに祈る。それは母から教えてもらった祈り方だったが、三柱居るとされる女神は彼女の種族を祝福しない。
ミフォスの頭の中には女神への祈りの言葉などはなく、ただ1人の魔術師の名前だけがあった、魔術師でありながら魔法使いを超えた者。
それは母がよく読み聞かせてくれた英雄譚、2人の勇者と1人の魔術師のお話。
自分の境遇に屈せず、魔族と戦い続け、迷える勇者達を導いたとされるその魔術師の名は。
(私の事も導いてほしかったな……アシュニ様……)
──…続。…典。救…の…。
不思議な感覚が身体を駆け巡る中、ミフォスの意識は急速に遠のいていった。
彼女を追ってきた黒装束達が、続々と姿を現す。そして地べたで丸まり、何かに祈るように両手を握ったまま気絶した少女に手を伸ばそうとしたところで──
「おいおい、よってたかってイジメか?」
「!?」
それは突然現れた、身長は170センチ程度、細身ながらよく鍛えられた身体、艶やかな黒髪に黄金に輝く瞳を持つ男。
なぜ鍛えられていることが分かったのか、それはその男が全裸だったからだ。その傷だらけの肌を惜しみなく曝け出した全裸の男は、堂々とした態度でゆっくり手を挙げ、指を鳴らした。
──パチンッ
その瞬間、黒装束が取り囲んでいたはずの少女が男の傍に移動していた。
それを見た黒装束達は動揺する。当然だ、転移の魔術や魔法は既に失伝しており、現代で転移を扱える者は1人もいないことを彼らが知っていたからだ。
「ん?そんなに動揺するか?あ、俺が裸だからびっくりしたのか。大丈夫だ、俺もそれなりに驚いてる」
的外れな考察をしている男に、黒装束の1人がナイフを投擲した。小手調べのつもりだっただろう投擲は、当然のように掴まれ、消えた。
ほんの少しの間を置いて「ぐっ」というくぐもった声を投擲した黒装束が発し、膝をついた。他の黒装束がその仲間の様子に目を向ければ、肩にナイフが刺さっている。
「あんまり只人を殺したくは無いんだよね、引いてくれない?」
「……貴殿こそ、その少女から手を引くべきだ。その少女の姿を見れば魔族であることなど一目瞭然だろう」
「まあ、そうだな。でもお前達だって常にやりたい仕事が出来るってわけじゃ無いだろ?今の俺がそうさ、面倒だがコイツを守らにゃならんらしい」
その物言いに少し違和感を感じた黒装束の1人は考えを巡らせる。
「黒髪に黄金の瞳、それに転移魔術……まさか!」
──パチンッ
再び男が指を鳴らした音を最後に、黒装束達はその場に倒れ伏してしまった。
「ハァ、にしても何処だよここ、しかも俺だいぶ…いや、かなり若返ってね?なんか、このガキと繋がりを感じるし、あぁ〜めんどくせぇことに巻き込まれてそうだなぁ」
そう言いながら黒装束達の服を剥ぎ、荷物を漁る男、黒装束達は息こそしているが、触られても起きる気配などなく、中にはいびきをかいてある者までいた。
「んっ……」
「おう、起きたか」
「ふぇ…?」
これは全裸で黒装束を漁る変質者に目を丸くする魔族の少女と変質し…大魔術師のお話。
☆☆☆あとがき☆☆☆
初投稿です、稚拙な文章ですがよろしくお願いします。
とりあえず5話まで投稿し、それから一章が終わるまで毎日投稿したいと思います。よろしければお付き合いいただければ幸いです。
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