第34話 内情
「誰か、闇的な何かを感じ取れる者はいるか?」
まだ遠くではあるがエーデ国の領土に入り、遠くから城を眺めるが、アルクが言う所の闇の渦がイルには感じ取れない。他の皆も同じだった。
「朝だから大分落ち着いたな」
唯一闇の渦を確認出来たのはアルクだった。
「…何故、お前がここにいる!?」
危なく大声を出すところだったのを必死で小声にして問いかけた。
「竜の守りならマイルが残ってるから問題ない」
此処まで来てしまえば今更戻せない事を知って、しんがりを務めるはずだったマイルを置いて此処にやってきたな、と思いつつ、今はそれに従う他なかった。
「俺には闇の渦とやらは分からないが、明らかにランが嫌がってるな」
アルクを竜で攻撃した時のように暴れたりはしないが、あまり行きたくはないし、すぐにでも帰りたいのだろう。今まで見せた事のない素振りを見せていた。
「…誰か、エーデ国の関係者に知り合いがいる者はいるか?」
もしも城内で内乱が起きているのなら、無駄に攻撃したくはない。
今は魔物使いと、別人であるのならば王子に成り代わっている人間と、闇の渦の発生源が重要なだけで無用な戦いは避けたかった。
「自分が何回かこちらに来た時に対応してくれた騎士団長なら私の顔を覚えているかと」
イルが襲撃されたと聞いた時、エーデ国には立派な騎士団長がいて、そんな事あり得るのかと驚いたが、騎士団長たるもの王から命令されれば従わないわけにはいかなかったのだろう。
だが、彼ならば竜を連れて来ずに自国を訪れたイルを襲うような事態を快く思っているはずがないので、その罪悪感から多少は話を聞いてくれる可能性はあるかと思われた。
「無用な戦いを避ける為にも、今エーデ国で起きている内情が知りたい。騒ぎにならず、騎士団長と話を出来る術はないだろうか」
騎士団長という位であれば、内情を知らないはずがないから丁度良い。
問題は騒ぎにならないようにどうやってコンタクトをとるかだった。
「!見張りなのか、休憩中か、西の見張り台には騎士団長がいます。すぐ近くには他の兵士もいないようです」
望遠で見れば、他の方角の見張り台には兵士達が数名いるが、西の見張り台には騎士団長一人だけだった。
「なら、手紙を書け。俺が弓であいつに射って届けてやる」
物騒なコンタクト方法だが、騎士団長自らが見張りの任についているとは思えず、いつ立ち去ってしまうかも分からず、まして他の兵士達が来るかもしれない状況ではそれに賭けるしかない。
「間違っても、騎士団長を傷つけるような真似はするなよ」
念を押してから手紙を渡したがこの男は、人の話をきちんと聞いてくれているか分からない。
アルク本人曰く、軽めに弓を引いた。
「!」
アルクの射った弓は正確に騎士団長に放たれ、それを騎士団長は手で止めた。
周りを警戒しながらも、弓に手紙がついている事にも気付いてくれたようだ。
「普通、こういう事は相手の近くに射るものだろ!」
思わず副団長も大声を出してしまいそうな所を頑張って小声にしながら、アルクを叱りつけた。
アルク本人曰く、騎士団長やっている位なら刺さる前に躱すなり出来るだろうという見込みだったそうだ。
「騎士団長が何か指示を…」
しかし、手紙を読んでくれた事で周囲を見渡している騎士団長の視界にだけ入るように副団長だけが少し近付くと、騎士団長は“東の谷で待て”そう言葉には発しなかったが、口の動きで伝えてくれているようだった。
副団長は”了解”と手を少しだけあげて、イル達が待機している場所まで戻った。
「騎士団長が東の谷で待てとの事です」
東の谷には魔物が多く出るからと、王達の要望で少しだけ竜を連れて魔物討伐を手伝った事があった。あそこなら魔物がいる可能性はあるが、竜達を休めたり姿を隠したりする事が出来そうだ。
皆は副団長の案内に従い、東の谷と呼ばれている場所で騎士団長が来るのを待った。
此処に大群で押しかけてくる可能性もあるので、アルクだけは黒竜を飛ばして見張りを続けた。
「来たぞ、先程の男だ。見える範囲では一人で来たようだ」
そうアルクが教えてくれたので、副団長だけが竜で飛び上がりアルクと見張りを交代して騎士団長に見えるような位置に移動した。
「止むを得ない事情があったとはいえ、誠意を尽くし来て頂いた貴方達を襲った事…誠に申し訳ありませんでした」
副団長と合流すると、騎士団長はすぐにイルに直接謝罪がしたいと申し出てきた。
「…謝罪する気持ちがあるというのならば、その止むを得ない事情を話して欲しい」
イルは謝罪を受け入れ、そして騎士団長に事情次第では味方をする可能性もある事、自分達が来た理由さえ達成出来れば、エーデ国に被害を出したいわけではない事を伝えた。
「………あの様な事をしておいて寛大な心遣いに感謝します」
命からがらエーデ国を去ったイル達がその仕返しに何をしてくるのかと、ここしばらくは不安を抱いていたが、イル達は特に何もしてこないままで、この様な提案をしてくれる事に騎士団長は感銘を受けた。
「…恥ずかしながら、今我が国で起きている事をお話します。それで、お力を貸して頂けるのならば、ぜひとも貸して頂きたいと願います」
騎士団長はここ最近起きた全てを話してくれた。
魔物使いを名乗る男と、その知り合いだという男が城を訪ねて来た。
例年よりも多い魔物による被害に苦慮していた王子は、素性も分からない二人であったが、それで少しでも魔物に対抗出来るのならば、と二人を城に受け入れてしまった。
王も騎士団長も外交で出かけていた時の出来事だった。
魔物使いがどうやって魔物対策をしていたのか、それは秘匿とされた為、誰も知らないままだった。
しかし、突然魔物の襲撃は止み、帰国した王もすっかり魔物使い達を信用してしまった。
その矢先、闇の竜が現れて、混乱の最中に王子が囚われ、王も囚われ、また一人囚われていき、国を纏めるべき立場にある人間は全て魔物使い達によって捕えられてしまった。
騎士団は、不本意ながらも魔物使い達に従うしかなく、魔物使いではない男が王子として君臨する日々を耐え忍ぶしかなかった。
何度も救出を試みたが、魔物使いに阻まれて今現在まで誰一人として奪還を果たせていない状態である。
「…つまり俺を襲うように指示したのは、あの時王子に扮していた魔物使いではない方の正体不明の男というわけだな」
何故、イルを襲うように命令をくだしたのかまでは分からないが、ならばイル達とエーデ国の魔物使いと、王子を語る不届き者以外の騎士達とは目的がそう異ならないという事だ。
「俺達は第一王子を語る男と、魔物使いを倒して、そして此処に渦巻いている闇を祓う事が目的だ。団長達は王達の救出が必要、しかしその為にも魔物使い達をどうにかしなくてはならないだろう」
何に重きを置いてるかは異なれど、敵そのものは同じというわけだ。
「ならば我が国の竜騎士団は正式にエーデ国との共同戦線を申し入れしたい」
共同戦線といっても、ようはエーデ国から魔物使い達以外の攻撃を避けられればそれで良い。
「貴殿達が救出が出来ぬのには闇の力が関係しているのだろう。だからこそ、魔物使い達に奇襲をかけれるのならば、今度は俺達がかける側にまわりたい」
あの王子を語った男自体には特に何の能力もなさそうに感じた。
問題は魔物使いの方だろう。
「それならば、ぜひ私にお任せください」
騎士団長が用意してくれた城内の地図で、魔物使いが現在使用している部屋はアルクが言う闇の渦が出ていた場所と近いそうだ。
どういう手段かは分からないが、闇の竜か、または闇の竜のブレスに似た闇の力を操っていると思われる。
「…魔物使いに突入する方は普段と違う戦いが求められる可能性が高い。特に用心してかかれ。万が一の際には深追いせず、離脱出来るのなら離脱しろ」
いつものように魔物や騎士達と戦うのと同じような戦いにはならないだろう。
王子を語っている男と、魔物使いが離れている時に騎士団長が合図を送ってくれる手筈になっている。
魔物使いにはフラナの言う通り、闇を浄化出来る可能性を含んでいるランと、自ら立候補してきたアルクを中心とした組。
王子を名乗る男には、副団長とエーデ国の騎士団長を中心とした組で、それぞれターゲットの捕縛又は攻撃を目的とする。
エーデ国の囚われていない兵士達は城から、イル達は竜を連れて外からの攻撃のタイミングを待つ。
臨時の共同戦線が張られたこの先に何が待っているのか、皆が緊張に包まれながら、その瞬間を待った。
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