第22話 新たな仲間
アルクとマイルは先に竜と共に帰り、フラナとヴィッセンは徒歩で城へ向かう事になった。
「多分、逆子だ…」
フラナ達が馬舎に着くと、アルクが馬の対応をしていた。
「子供は無理そうだな」
この国では逆子は生育不良になる事が多いと、母体を優先とした処置をする事が多かった。
「待ってください!逆子の出産にも立ち会った事があります!!」
アルクの言葉にまだ母の中から出てきてもいない子供に、決められてしまいそうな未来に立ち向かおうとヴィッセンが声を掛けた。
「母体を優先にします。でも、通常の出産として扱ってもらえませんか?」
折角生まれそうな命が守られる道があるのなら、それに越した事はない。
アルクが母の保定を行い、ヴィッセンが出産のサポートをする事で役割分担を決めて出産がスタートした。
「嬢ちゃんは自分の仕事をしろ」
心配で見ていたフラナにアルクが声を掛ける。そう言われて、フラナは竜舎へと戻った。
「良かったぁ。無事だ…」
馬の出産としては難産だったが、何とか出産は無事に終える事が出来た。
心配された母親の様子も、診る限りでは問題なさそうだ。
「大きくなれよ」
少しだけ小柄な馬の子供に声を掛けながら、体をさすり続けた。
「親子共に無事なようだな」
報せを聞いて副団長がやってきた。
「…今日は来て頂き有難うございました」
副団長はヴィッセンに対して礼を述べた。
「後は他の者に任せて、礼代わりに良かったら竜舎へどうぞ」
そう副団長が言うと、疲れて地面に座り込んでいたヴィッセンはすぐに立ち上がった。
「本当ですか?ぜひ、お願いします!!」
馬の体調管理をしていた老人は怪我で休養中だが、普段世話している者はいるので、その者達に馬の親子を任せ、三人は竜舎へと戻った。
「ヴィッセンさん!親子共に無事だったようで有難うございます!!」
ヴィッセンの姿を見てフラナもヴィッセンに礼を述べた。
「アルクさんもお疲れ様でした」
アルクは竜騎士であり、竜騎士としての仕事ではないが、動物の知識にも長けている為に頼りにされる事が多々あるようだ。
「はぁ~、竜がこんなに沢山……」
一方のヴィッセンはようやく竜舎に足を踏み入れる事が出来、竜舎にいる竜の数に圧倒された。
「…あの、竜の世話人というのは一人の枠しかないのでしょうか?」
竜の世話人に上限があるわけではないし、複数人いた事もあるが、フラナが来てからというものの、相棒の騎士が不在や怪我中などと言った特殊な場合を除いて、竜の世話には適任過ぎるフラナがいるので、食事の運搬を騎士達が行う以外はフラナが全ての竜に対して出来てしまうので、フラナがいる今の状態でさらに世話人がいるかどうかというと、正直微妙な所だ。
「兼任というのならありかもな」
イルも竜舎へとやって来た。竜の世話人の人材不足というか、長らくの0人という記録はフラナが来たおかげで解消したが、他にも人材不足はある。
「現状だと、フラナが毎日竜舎にいる事が当然になっているがそれは良い事ではないし、獣医と呼べるような人材がこの国にはほぼいないという問題だな」
先の襲撃で怪我を負い不在となっている馬の管理人にしても獣医ではなく、牧場をやっていて馬に対する知識や経験が高いという事で、月に何度か馬の健康確認や、怪我の際の手当て、出産の立ち合いなどを随時お願いしていた。
「怪我がいつ治るかも分からないし、もう高齢だからな」
怪我をする前から、高齢で以前程には歩けなくなってきたから、牧場と城の距離が遠くなくても、徒歩で城に行くのが辛くなってきた、と愚痴を零したりもしていた。
「馬の手当てとか、薬などの知識はあるか?」
そんな状況なので、ヴィッセンがスパイ的な意味で潜り込んでいるのでなければ、欲しい人材でもあった。
「勿論です。国により採れる材料に違いはあると思いますが故郷では薬も作っていました」
相次ぐ魔物の襲撃により竜達の薬作りの必要数も増えている所だった。
「では、獣医師兼薬剤士兼、適正がありそうであれば月に何回かの竜の世話人という事ですかね」
副団長が採用に乗り気になっている団長に念を押した。
「竜の研究を個人的に進めても大丈夫でしょうか?」
今までの経験を活かしながら、さらには竜の世話人にもなれるかもしれないと聞いて嬉しいが、肝心の研究の許可もとりつけたいヴィッセンだった。
「竜の研究といっても、遠くから見るだけで研究出来るのか?まぁ、研究の成果を共有するのなら許可しても良い」
竜騎士団長のお墨付きを頂けて、これでヴィッセンのハッピー竜の研究生活が始まる。
「お前、他国のスパイだった時はどうなるか考えておいた方が良いぞ」
ハッピー竜の研究生活は始まったけど、すぐ終わるかもしれない。
全くスパイする予定などないが、勘違いであってもすぐに八つ裂きしてきそうな雰囲気をアルクは持っていたからだ。
「あの…私はもうこの国から離れる気が毛頭もないんですが、万が一疑われたとしてもきちんとした裁判を得てからの処断にしてください!」
ハッピー竜の研究生活が始まってすぐに、スパイをしてないのに疑いをかけられて、バッドエンド。になるわけにはいかないのだ。
「既に疑われる心配か、安心しろ。お前の大好きな竜で何処までも追いかけて、俺の手で八つ裂きにしてやる」
…この人なら本気で地の果てまで追いかけてきそうだし、どうせエンドになるのならば、せめて竜によって旅立ちたいのにそうはさせない所が悪い意味で分かり過ぎている。
「勘違いで処断される場合も、世の中沢山あるから万が一の話です!とにかくこれからよろしくお願いします」
この国に新しい人材が加わる事となった。最近はフラナといい、他国からの採用が多いが、それも国民の数が少ない国では当然の事なのかもしれない。
「実際のところ、どうだ?」
ヴィッセンはフラナに付き添われて竜達に挨拶に回ってるが、当然のごとく皆に警戒されまくっていた。
そんな二人を遠目で見ながら、イルと副団長がヴィッセンの事をアルクに確認する。
「…馬は逆子でジジイもいないし、俺は通常の出産は難しいと思ったが、あいつが自ら母体優先にするが力を貸して欲しいと言った。あれが潜入する為の演技ならたいしたものだ。少なくとも経験があると言ったのは取り入る為の嘘じゃない事は事実だ」
出産に取り組む姿、終わって安堵して馬に向けた笑顔が嘘には見えなかった。
そして、段取りからして馬の出産に何度か立ち会った事があるのは嘘ではないだろう。
「そうか…、状況が状況なだけに気をつけるとして、状況が状況なだけに優秀な人材も探してる所だ。明日からは、竜の薬作りを中心に働いてもらう事にしよう」
第二王子とも様々な分野での増員の話し合いに言ったのだが、国民数が減り続けている中で、どう人材募集し、育成していくかは話が纏まらずに、魔物襲撃により話も途中となってしまった。
「ヴィッセンさん大丈夫ですか!?」
団長達の心配をよそに、竜達に挨拶しまくるヴィッセンにランが爪を振り下ろしてしまった。
「大丈夫です、何とか避けました………」
比較的温厚なのはランだと聞いて、挨拶に行ったが全くそんな事はなかった。
「…俺より先に竜にやられそうなだな」
フラナと話している所を見ると、怪我はなかったのだろうが、違う意味での不安が襲ってくる。
「………竜の世話人には逆に向かないかもしれませんね」
フラナと同じく竜を愛する研究者だが、フラナは幸いにも竜達全員に好かれているから問題ないが、初めて寄ってきた見知らぬ人間に対して警戒しない竜はいない。
しかし本人は触れるのなら触りたいのだろうから、不用意に近付いて大怪我する未来しか見えなかった。
「それは本人に強く言って止めるしかない…だろうな」
最近何かと騒がしい竜舎だが、これからまた騒がしくなりそうだ。
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