ゴッドリリース!~八百万の神々との交流記~
全うに生きる
第1話 プロローグ:神社での出会い その一
少し寒い風が、神社の周りを包み込んだ。ちょうど同じころ、雲が太陽を覆い、あたりが少し暗くなった。でも、今の僕は、それに気は向かなかった。冬休みに入ったばかりの午後。僕は、天野ユウト。周りからもあまり浮いてなく、普通に何気なくくらしている中学一年生だ。もうすぐ正月。本当なら実家の「天ノ宮神社」で、正月準備の煤払いでもしているはずなんだけど――こっそり手伝いをサボって、本殿の裏の石段の隅に隠れていた。ここなら大人たちの目も届かないし、人目も気にせず最新の対戦ゲームに夢中になれる。
「ユウト。またサボってるの?」
どこからか母の声が聞こえたが母はまだ僕の居場所に気づいてないみたいだ。なら問題はない。僕はゲーム画面にあるボタンを押して、次のステージに進んだ。
神主の息子が大人の近くでいえることではないけど、僕は神とかは信じていない。そもそも、神社を管理するためににも費用がとてもかかるし、かと言って人がそこまで毎日のように来るわけではない。(もちろん、行事の時には多くの人が来るけど、それで維持費が安定して払えるわけどもなく、寄付金に頼っている状態でもある。)
「あなたが天野ユウト?」
突然、背後から氷のように澄んだ、無駄な抑揚のない声がして、僕はビクッと体を震わせた。ゲーム機のスティックから指が滑り、危うく機械を落としそうになる。
慌てて振り返ると、そこに立っていたのは、僕と同じくらいの背丈の少女だった。
白い上衣に緋色の袴という、神社の巫女装束。でも、この神社でバイトしているお姉さんたちとは全然違う。銀色のロングヘアは完璧に一つに束ねられ、切れ長の瞳は、僕のことをまるで標本でも見るみたいにじっと見つめている。なんだか、空気が一気に冷たくなった気がした。
「え、誰…? 新しい巫女さんのバイト?」
少女は僕の質問には答えず、手に持っていた古い地図を、カチッ、カチッと音を立てて几帳面に畳んだ。そして、ハッキリとした、少し偉そうな口調で自己紹介した。
「日向 スズ。この冬休み中に、あなたの学校の近くへ引っ越してきたの。三学期から、あなたの学校に転校するわ。よろしく」
巫女装束の転校生!? しかもこんな時期に、だなんて。僕は目を丸くしたけど、持ち前の明るさで対応した。
「へえー!よろしく!僕は天野ユウト!クラスはどこになるんだろうね?もし一緒になったら、僕が色んなこと教えてあげるよ!」
僕が元気に手を差し出すと、スズは一瞬その手を見ただけで、握手しようとはしなかった。そして、感情の読めない顔で、話を切り出してきた。
「その前に、いくつか聞きたいことがある。あなたは、この天ノ宮神社が、遠い昔、『古事記』に記されるような国の始まりの神々を祀っていることを知っている?」
話の流れを完全に無視した、歴史の授業みたいな質問に、僕はポカンとするしかない。
「さあ? 知らないよ。僕、あんまりそういうの興味ないっていうか……。ただの古くてでかい実家って感じだし。それより、スズちゃんはどこの街から来たの?」
僕が適当にごまかすように答えると、スズはフッとため息をついた。
「やはり、その程度なのね。…まあいいわ」
スズは再び僕の背後の本殿を鋭い目つきでじっと見つめ、何かを確信したように小さく頷いた。その真剣な横顔は、僕にはまったく理解できなかった。
「じゃあ、また学校で。天野ユウト。」
スズはそれだけ言い残し、僕に背を向けた。まるで風のように、静かに神社の裏手へと去っていった。僕の差し出していた手は、宙に残されたままだった。
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