最終章:永遠の誓い
――遥斗 side――
悠真が懸命に店を支えてくれたおかげで、俺は仕事の心配なく、病院に詰めることができた。
(あいつがいなかったら、俺は桜を失っていた)
冬の寒さが身に染みる年の瀬も近い頃、医師からついに退院許可が下りた。
(この冬が終わる前に、連れて帰れる...)
退院の日。俺は、病室にいる桜の家族に、深々と頭を下げた。
「今回は、桜のそばにいることを許していただき、本当にありがとうございました」
桜の家族は、静かな安堵の微笑みを返してくれた。
俺は、桜を連れて病院を出た。外の冷たい空気は、まるで新しい未来を急かすように、俺たちの頬を優しく撫でた。
「寒いね」
桜は小さく笑った。その笑顔が、俺の凍えついていた心まで溶かしていく。
「ああ。でも、大丈夫だ」
俺は、彼女の手を強く握った。
(二度と、この手を離さない)
久しぶりに、自分の部屋のドアを開ける。
見慣れた部屋の景色が、まるで二人の「始まりの場所」のように、新しい光を帯びて見えた。
「ただいま、遥斗さん」
「おかえり、桜」
その日の夜。
桜の回復祝いと、俺たちの新しい始まりを祝うささやかな夕食。特別なことは何もない。
でも、この何気ない日常こそが、一番尊いのだと知った。
夕食を終え、二人でマグカップを温めながらソファに並んで座る。
俺は、テーブルの上へ、以前から準備していた、シンプルな指輪のケースを静かに置いた。
(彼女に似合う、まっすぐな輝きのものを選んだ)
ポケットには、あの「届けなかった手紙」。
(それは、もう逃げないという俺自身の『覚悟』だ)
俺は、指輪のケースを手に取り、深く息を吸い込んだ。
「桜。君が意識を失っている間、俺は人生で初めて、『待つことの辛さ』を知った。(君がどれだけ辛い想いで、俺を待ち続けてくれたのか…)そして、君がどれほど俺の光だったのか、深く思い知った」
俺は、彼女の温かい手を、優しく包み込んだ。
「君は、俺が逃げても、遠くにいても、ずっと俺の帰る場所を照らしてくれた。俺を一番大切な人だと選んでくれた」
涙で声が震える。
「だから、もう、時間は無駄にしたくない。もう二度と、君を一人にはしない。もう二度と、過去の臆病な俺には戻らない。だから...」
俺は、真っ直ぐに彼女の目を見つめた。
「桜。俺の隣にいてください。俺の家族になってほしい。結婚してください」
――桜 side――
(この瞬間を、私はずっと待っていた)
病室で、遥斗さんが必死に私を待っていてくれた日々。
彼の涙と、強く握られた手の温もりが、全ての愛を伝えてくれていた。
それでも、今、彼の口から直接聞くこの言葉は、私の心を深く、深く揺さぶった。
(やっと、私の遥斗さんになってくれるんだね…)
彼の瞳は、もう迷いや臆病さではなく、ただ純粋な愛と覚悟に満ちていた。
「遥斗さん…」
私の目からは、自然と涙が溢れ出した。
この涙は、人生で一番幸せな涙。
(もう、後悔なんてない)
「はい。喜んで。私も遥斗さんと家族になりたいです」
遥斗さんは、私の返事を聞くと、そっと指輪を薬指にはめてくれた。
指輪は、ぴったりと私の指に収まった。
彼は、私を抱きしめ、深く、そして優しくキスをした。
窓の外では、ちらちらと雪が舞っている。
長い秋と冬を経て、私たちの物語は、今、真実の愛を伴い、永遠の春へと向かうのだった。
(もう、二度と、あなたを離さない)
――Fin――
6年、彼は私を「桜ちゃん」と呼ぶ距離に置いた。〜曖昧な優しさからの脱却〜 あやか @A-5yuka
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