第十三章:長い沈黙と誓い
――遥斗 side――
俺が桜の想いに気づき、過去を後悔した直後、運命のいたずらが俺を打ちのめした。
「逃げない」と誓い、ようやく君の隣にいられると思った矢先の、あまりにも残酷な出来事だった。
俺は、真帆に病院の場所を詳しく聞き
「ありがとう。すぐ行く」とだけ告げて電話を切った。
頭の中は、桜の携帯ケースの裏に隠された、俺の番号の紙と桜の容態のことでいっぱいだった。
(お願いだ、無事でいてくれ。俺は、君に何も返せていないんだ)
俺は、店を飛び出し、タクシーを拾う。病院へ向かうタクシーの中、俺の頭の中は真っ白だった。ただ、何度も何度も、心の中で繰り返す。
(俺は、もう逃げない。だから、無事でいてくれ。)
病院へ着くと、桜の家族と、すでに連絡を受けて駆けつけていた真帆と悠真がいた。
桜の母は、事故のショックに加え、娘の交際状況を知らないまま、突然現れた俺に対して、強い不信感を滲ませていたが、悠真と真帆が事情を説明してくれた。そのおかげで、俺もようやく桜の容態について聞かせてもらうことができた。
医師から告げられたのは、命に別状はないが、意識が戻るまで時間がかかるだろう、という言葉だった。それを聞いて、俺は立ち尽くした。
店はしばらく悠真に任せ、俺はひたすら病院に詰めた。
桜の家族は、当初、俺との関係に戸惑いを持っていたが、俺がひと晩中、意識のない桜の手を握り続けている姿を何日も見て、何も言わなかった。
俺は、意識のない桜の手を握りしめた。
その手の冷たさ、そして枕元に置かれたままの、桜の携帯ケースの裏に隠されていたであろう、俺の番号。
俺の胸は激しく波打ち、耐えきれずに、大粒の涙がとめどなく溢れ出した。
「桜、目を覚ましてくれ。どれだけ時間がかかっても、今度は俺が待っているから。」
涙で掠れる声で、俺は何度も繰り返した。
俺は、病室のテーブルに向かい、ペンを取った。
書いたのは、「早く君の隣にいるべきだった」という後悔、そして「永遠に愛している」という誓いだった。
その手紙を、桜の枕元に静かに置いた。
すべては、長い沈黙の中で、彼女が目覚めた時、遥斗が誓いを守り、待っていた証として。
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