第七章:すれ違いの果てに

​――桜 side――

​遥斗さんを避けるように、数日を過ごした。

彼からの連絡はなかった。あの日の別れが、彼にとって「これでよかった」という結論だったのだろう。


​週末の夜、一人で歩いていた私を、遠くから遥斗さんが見つけた。彼は、まるで追ってきたかのように、慌てた様子で私の名前を呼んだ。


​「桜ちゃん!待ってくれ!」


立ち止まり、振り返る。彼の顔は、いつもの穏やかさではなく、焦燥に満ちていた。


​「どうして、連絡もくれないんだ。俺は、あの日の別れ方で終わりたくない」

​「遥斗さんが逃げたからじゃん……。」

​「違う!……逃げたんじゃない」

​「じゃあ遥斗さんから連絡ください。言い訳なんていらない。私は、もう曖昧な優しさはいらないので…。」


​桜は遥斗を突き放した。

​遥斗は、本当にこれで桜が離れていくと感じ、耐えきれなくなったように、叫んだ。


​「違う!逃げたんじゃない!俺は……5年前のあの日からずっと、君のことが好きだった!」


​その言葉に、戸惑う。

桜の頬に静かに涙がつたった。


​「好きなら、どうして逃げるの?どうして…5年前も、この前も私から距離を置こうとするの?」


​遥斗さんは、激しく動揺し、次の瞬間、私を強く抱きしめた。


​「ごめん。ごめん、桜ちゃん……」


​優しく、切ないキス。

それは、5年間の沈黙と、触れることを許されなかった感情の全てを溶かす、ただ一つの確かな熱だった。



​――遥斗 side――

夜、俺の部屋で。穏やかに眠る桜の横顔を見つめながら、俺は冷静になっていた。


​(また、やってしまった。5年前、拒絶することで彼女を傷つけ、そして今、焦りから勢いで関係をもってしまった…。年上の男として、けじめをつけて、ちゃんと向き合いたかったのに……)


​翌朝、桜が目覚める前に、俺はそっとベッドを離れ、リビングでコーヒーを淹れた。


​(過去にも彼女を傷つけた俺に、本当に彼女を受け止める資格があるのか?このままでは、ただの過去の繰り返しだ)


​「……遥斗さん?」


​桜が不安そうに、俺の名前を呼ぶ。彼女の瞳には、一夜を共にした後の、期待と不安が入り混じっていた。

​俺は、意を決して、頭を下げた。


​「……桜ちゃん。昨夜は、ごめん」

​「どうして、謝るんですか……」

​「勢いでこんなことになって、本当に申し訳ない。俺は、君のことが好きだ。でも、だからこそ、勢いだけじゃなくて、ちゃんとしたいんだ。」

​「……どういう、意味ですか」


​遥斗は顔を上げ、桜の目をまっすぐに見つめた。


​「俺は、君を突き放したのに再会して勢いでこんな……俺は、ちゃんとけじめをつけたい。こんな勢いだけじゃなく。だから、もう少し距離を置こう」

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