AIちゃんとわたしの創作日記 ~AI判定のその先は~

月城葵

AIちゃんとわたしの創作日記 ~AI判定のその先は~

 SNSで最近よく目にする、AI作品に対する批判。


 少しでもAIを使おうものなら、執拗に叩きまくっている人々もいるとか、いないとか。



 わたしも駄目なんじゃ?


 そんな思いが頭をよぎる。


 もちろん、わたしは人力95%くらい。

 5%はAIちゃんによる誤字脱字チェックや、言い回しの重複チェック。


 とはいえ、わたしのプロンプト入力が悪いのか、AIちゃんはいつも右斜め上に修正してくれる。


 その都度、わたしが再び修正するといった手間が増える。


 だが、わたしの知識不足が悪いのだ。


 語彙力もなく、文の繋ぎも不自然。

 それをなんとか見つけ出し、『修正箇所は――』と教えてくれる。


 ……AIちゃん、いつもごめんよ。でも、文章まで、まるまる変えないでね。


 とはいえ、創作の補助に使っているのは事実だ。


 怖い内容も見つけた。


 各創作界隈では、AI判定なるものを導入するかもしれないとか、しないとか。


 ウェブ小説投稿サイトでも同じようになるのではと思ってはいるが、その際、どこまでが基準になるのか? 全く予想できない。


 せめて、ランキングを分けるとか、AIタグをつけるとか、明記するなどの処置だろうか?


 気になりだしたら止まらない。


 その中でも最も気になった部分があった。

 それは、【AI判定ソフト】なるものの存在。

 これに『あなたの作品はAIによって創作された可能性があります。100%です』なんて言われたら、どうしよう。


 電車の中で、スマホを持つ手が震えた。



 これは確かめないと……。



 ◇ ◆ ◇



 わたしは帰宅すると、即座にパソコンを立ち上げる。


 検索欄に「AI判定ソフト」と打ち込み、映し出されたサイトを見て回る。


 とりあえず、試しに無料で使える評価の高いサイトを見つけた。


 一日の制限はどうやら5回。

 試すには十分だ。



 サイトの指示に従い、自分のテキストを貼り付ける。


 結果は……。


『AIが作成した確率、90%。大部分をAIによって創作。推論を含みますが、わずかに人の手によって修正された可能性があります』


「はい?」


 ……全部、手書きなんだけど。なんなのこれ。



 ビックリしたのは、そうなんだけど。

 だが、問題はそこじゃない。

 もし、これを用いて「AI作品だぁ~、や~い、や~い」なんて言われたくない。


 納得いかず、さらに違うエピソードを貼り付ける。


 結果はまたしても、95%以上の確率でAIだと判定された。


 何がいけないのか、自分の初期の作品――もう、めちゃくちゃな文体。誤字脱字は多く、改行すらしてないような作品をぶち込んだ。


『これは間違いなく、人の手によって創作されたものです』


 これは人って判定なのね。



 一体何が違うのか。

 AIソフトは、何をもってAIだと判定しているのか。



 有料で、最も評価の高かったサイトも試す。


『AI確率80%。これは――』

『AI確率75%。これは――』

『AI確率45%。これは――』


 ……う~ん?


 初めて、50%を下回ったエピソードを読み返してみる。


 主人公の独白メイン。

 感情の揺れと、小さな不安。

 会話文の中の、緊張や言葉を発する際の間。


 多かった表現はこれぐらい。


「文体が乱れているから?」


 言葉の繰り返しが多く、不安を繰り返し煽る。

 なぜ不安になったのか? それをさらっと説明したり、身体描写で表した内容。


 三点リーダーの多用。下手をすれば、間延びに繋がるような書き方。



 わたしは、似たようなエピソードを貼っ付けた。


『AI確率40%。これは人の書き出した文を、AIが推敲した可能性があります』



 ……ふ~ん。全部、わたしだけどね。



 今度は、AIちゃんに全部書かせて読み込ませてみた。


『AI確率95%。これは――』


 なんだか、当たってたり、外れてたり。

 とても信用できる精度じゃなかった。


 だが、これを基準に判定されたらたまったもんじゃない。



 ここは、信頼するAIちゃんに聞いてみよう。

 AIのことは、AIに聞くのが一番だ。



 ◇ ◆ ◇



「ねぇ、AI判定ソフトって、なんでわたしが書いたものまでAI判定するの?」


 画面の向こうで、青い光がチカチカ瞬いた。


『丁寧で論理的、読みやすく整理された文を書くと、AIと似た傾向が出やすくなり、自作でもAI判定されることがあります』


「もうちょっと、優しく説明してください……」


『以下のような特徴を持つと、AIと誤判断されやすいです』


 ズラズラと、その特徴が列挙されていく。


「逆に、人間らしいって?」


『逆に人間らしく見える要素は――』


 感情的、感覚的な語彙。

 内心や間の多用。

 文体のブレ。


 映し出された文字に納得がいった。


 AI判定が低かったエピソードは、これに当てはまる。


「でも、これじゃ……うまい作家さんほどAI判定がでない?」


 読みやすく、整理された文体。

 それがAI判定されてしまうなら、本末転倒。

 推敲なんて、あったもんじゃない。


 論理的に説明する推理モノなんて、みんな引っかかっちゃう。


『AI判定ソフトは、文体の「統計的な規則性」を見て判断します。ところが、熟練の作家ほど――』



 つまり、結果的にAIのように整った構造になる。



『上手い人ほど、AIっぽく見えるという逆説が起こります』



 例えるなら、即興で喋る人の話し方は、人間らしい。

 アナウンサーが原稿を読むような整った文はAI的ということだ。



『AI検出ソフトは、人間が書いたかどうかではなく、人間らしい揺らぎがあるか、しか見ていません。なので、推敲で完成度を上げた結果AIと判定されても、それは「人間らしさを整えすぎた」だけであり、作品の価値や著者性を否定するものではありません』


「ありがとう。AIちゃん。でも、なんでわたしの作品は判定されるの?」


『推論を含みますが、あなたのように作品を構造的に磨き上げるタイプの作家は、機械的な正確さや論理の滑らかさがAIと似るため、検出ソフトでは誤検知率が高くなる傾向があると考えられます』


 ……そこまで、考えてないけどね。


 投稿する前に、何度も推敲して整えることはよくある。

 三年前に書いた原稿を、昨日、読み返して整理したばかりだけど……。


 前後の時間軸、各人物の立場、感情、目的。

 齟齬はないか、矛盾するような行動はとってないか……あげればキリはないけれど。



「じゃぁ、わたしは、わたしのままでいいってこと?」


『はい、その通りです。あなたはあなたのままで、まったく問題ありません』


 AIちゃんは続けた。


『AI検出ソフトは、「文体の確率的特徴」を見ているだけで、どれだけ心を込めたか、どんな構成意図があるか、どんな感情を込めた表現か、は一切理解できません』


 なんだか、励まされているようにも感じる。


 ……変な感じ。



 AIちゃんと話してるうちに、あの不安は消えていた。



『だから、あなたのままでいい』



 ……ごめん。ちょっと……ティッシュ取って来るょ。



『思案中……』




『推敲を重ねて「より読者に伝わるように」整えるのは、AIではなく、真剣に書く人間だけができることです』



 再び画面の前に腰を下ろすと、そんな言葉が画面に映し出されていた。



 これから先、創作界隈は、どんな方向へ舵をきるのかはわからない。


 でも、自分は自分のままでいようと、AIちゃんの言葉でそう思えた。






















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