第9話
町に着いた。が、剛は躊躇している。
「門番なのか衛兵なのかいるが、だいたいこういうとき、ゲームだと何か身分証が必要だったりするよなぁ」
ということである。
女神に問いかけても反応がないので、自分で何とかするしかなさそうである。先ほどのホーンラビットとの戦闘で得たポイントは無しになってすべて1のパラメーターに戻っている。
「……ちょっと待てよ。もしかしたら」
モンスターだけじゃなく、人からもパラメーターの数値が奪えるのではないかと考えた。指を丸めてその穴から覗き込んで、門番を見てみた。
『ハインツ(門番):HP:34、MP:0、STR:6、VIT:10、DEF:5、INT:7、RES:8、DEX:2、AGI:4、LUK:2、Lv:4、状態:冷静、所持:12G』
しっかりとした数値が見られた。もちろん剛が何か抵抗するなら、指先一つでダウンするだろう数値である。ただこれが高いのか低いのかわからない。とはいえ、さっきのホーンラビットは余裕で倒せるだろう数値だった。
「しかし……」
人間、しかも無抵抗の人の数値をもらって良いのかどうかを悩んでいる。武力で勝とうと思っていない。門番にもこの世界で生活があるだろうし、なんか後味が悪そうということだ。
「ポイントを借りて戻せるのか?」
剛はウインドウに表示されている、門番が今すぐ必要なさそうな知力のINTを1減らして6にして、残ポイント欄に1が追加された。
目視で門番を見たが、特に体に異変とかなさそうに見えたので、剛は胸をなでおろした。再びそのポイントを戻してINTを7にしたが、変化は見られなかった。
「まてよ……モンスターは討伐することが多いんだけど、人間を攻撃するつもりはないし、町の人たちが早々に死ぬことは無いと考えると――」
気づかれないようにこっそり1ポイントずつ頂戴して自分へ還元すると、無限に強化されるのではないか。そんなことを考える剛だったが、それは人道に反する気がして、そこまでの悪にはなりきれない自分がいた。
「犯罪者や危害を加えてくる奴は別かもしれないけど」
剛は人間からポイントを奪う基準は考えておかないといけない、そんなことを思った。
今回は、自分が入門する時だけ借りてすぐに返せば問題ないだろうと思い、各パラメーターから少し集めて、自らのLUKを20ほどにして、挑むことにした。
「街へ入りたいのかい?」
怪しんでくる目ではなく、門番のフレンドリーさが、この町が安全なのかもしれないということを感じ取れた。これはLUKの影響でななく、町の雰囲気だろう。
「入りたいのですが、良いですか?」
剛の態度は恐る恐るにもなる。今まで生きてきた世界は関所と無縁だったで、よく考えると初体験である。街中で警察官に声をかけらえてもビビるが、右も左もわからない世界なのでそれ以上の緊張だった。
しかし安心できたのは日本語が通じることだった。「おそらく転生者ボーナスなんだろう」とこれ以上考えるのは今のところ止めた。
「旅券とかは……持って無さそうだよね」
門前払いではなく、門番からは、何とかしてあげようという気持ちがくみ取れる。
「(申し訳ない)」
心の中でつぶやく剛だったが、転生者として正体がバレるのも正解かどうかわからない。この世界に転生者が多いなら通じやすいかもしれないけど、そうじゃなければ自分が見世物になる可能性もある。
しかもなにより、服装がこの世界に無いパーカー、ジーパン、スニーカーというコンボも、気の良さそうな門番でもスルーするわけにはいかないという表情をしている。
「ちょっと待ってもらって良いかな」
そう言い、誰かに伝言を伝えようとしたところ、犬が一匹現れて門番の足元の裾を甘噛みして引き留めた。
「ん? あぁ長老か、どうした?」
長老と言われたその犬は首を横に振った。まるで言葉が通じているかのように。そして剛の方へ目線を送り、頷き「大丈夫」と言ったような表情をしている。
少し考えた門番だったが、何か納得したのだろうか、「長老と友達なんだろ? 入って良いよ」と許可を出した。
「あ……ありがとうございます」
狐(犬だけど)につままれたような感覚だが、入って良いなら剛は軽く会釈をして町に入らせてもらった。助けてくれた犬も一緒についてきた。
「おっと、忘れてた」
剛はしっかりと借りていたポイントを門番に戻した。この犬のおかげてと考えると、LUK20は正しかったのだろう……と思う。
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