第8話

 秋野剛はホーンラビットの数値をできる箇所は全て1にした。


「0は0にできるが、1があると1までしか無理なのか……そりゃそうか、いきなりHP0はさすがに世界が狂ってしまう」


 ホーンラビットから合計16ポイント回収した。


『ホーンラビット:HP:1、MP:0、STR:1、VIT:1、DEF:1、INT:1、RES:1、DEX:1、AGI:1、LUK:1、Lv:2、状態:興奮、所持:1G』


「レベルと、所持するGも振れないのか……なるほど。とはいえ……これでやっと俺は対等か、レベルで負けてるので、ガチンコ勝負したらたぶん負ける……か」


 考えるとかなり凹む。自らのステータスウインドウと見比べると、双方見事に1ばかりのウインドウになっている。


 興奮して睨んで動かない間に、自らのパラメーターがいじられてステータスが下がっていることすら気づいていない。ただ警戒態勢のままなので、剛はじっくり考えることができている。


「16ポイントをどうやって振り分けるかだな……この場だけを考えて、一旦攻撃力と素早さに分けてみるか。念のためHPもかな。ブックから閲覧できなくなるってことは、対象が死んだときだろうし、ホーンラビットを倒して、振り分けたポイントが消えるかどうかも確認しないとな……」


『秋野剛(無職):HP:5、MP:1、STR:7、VIT:1、DEF:1、INT:1、RES:1、DEX:1、AGI:7、LUK:1』


 いびつに見えるが、おそらくこれで倒せるだろうと、ステータス操作を完了した。


「とくに……体から湧き上がる炎みたいなのは無いんだな」


 相手・ホーンラビットも変わらずなので、剛もなにかオーラが見えるようになるわけではない。


「じゃあ、行ってみるか」


 前の世界でも仮をしたことが無いのに、いきなりの実践。「とりあえず、グーパンチで良いか」という感覚で、先に口火を切った。


 ホーンラビットが反応する間もなく、AGIが高い剛が近づき、腹にパンチを放った。


 ドスン、と1メートルほど飛ばされたホーンラビットは気絶する間もなく、息絶え、姿が消え去った。代わりに現れたのはキラキラ光る石だった。


「魔石……だろうな。これが1Gの価値ってことか?」


 殴ったこともないので、感触も「こんなものか」とあっけなく感じた剛。魔石も拾ってポケットに収納し、あらためてステータスを確認した。


『秋野剛:HP:1、MP:1、STR:1、VIT:1、DEF:1、INT:1、RES:1、DEX:1、AGI:1、LUK:1』


 見事にきれいに清算されている。もちろんブックからも姿を消している。代わりに、図鑑の項目が出てきて、そこにホーンラビットは登録されていた。


 剛のステータスウインドウにレベルが表示された。


『EXP(経験値)50獲得、Lvが4になりました』


「ん? レベル2のホーンラビットを倒して4になるって何かおかしくない?」


 そもそも低レベル1つ倒してもLv2にもならないだろうと思ったのだが、どさくさで女神と約束したことを思い出した。


「そういえば、女神が最後に振る時に経験値10倍とか言ってた……あれか」


 5,000回目のサイコロを振る際に、「5倍、いや10倍にするから」と流れで言ってたんだが、神は嘘を付けないということか。きっちりとその経験値10倍もチートとして身に着けていたようだ。


「ありがたく頂戴しておこう……でも、このステータス、数値が1並びで、レベルだけ高いって怪しすぎるよな……何か対策があると良いんだが」


 悩んだところでとくに今は良いアイデアが無かったので、剛は見えている町へ急ぐことにした。気が付けば日も傾き始めている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る