第7話

「……異世界には町は無いのか?」


 秋野剛の目の前に広がる景色は、結局前と同じところに出た。違うのかもしれないが麦畑が一面に広がっているところという同じである。


「せめて周りにある町はイージーモードであってほしい」


 目を凝らすと、薄っすら町のような影が見えるし、轍が続いているように見える。


「進んで見るが……モンスターに会わないことを祈りたい」


 大金も無くなり、ステータスも最低のパラメーター数値である。次も確実に死ねる。なんなら蟻に咬まれてもダメなんじゃないかと思えるくらい。


 慎重に歩いたおかげなのか、モンスターに出会わず麦畑を脱出した。轍が残っているということは、交通として常に使われている道なので、先には町があると信じて先に進むことにした。


「だけど、あのクソ女神め……」


 結局持たせてもらった荷物は何もない。5,000,000Gあったお金も、ゲームの拡張パックだけである。


「一応確認しとくか……す、ステータスオープン」


 恥ずかしので周りに人がいないことを確認して、異世界ワードを発した。すると女神がいる世界じゃなくてもきっちりウインドウが開かれて、自分自身のステータスが表示されている。


「名前、年齢…はここでも17歳なんだ……転移だしな。あとは、HP以下1……所持金も0、服装はパーカー、ジーパン、シャツ……まぁそうだろうな、防御力のない装備だと。特記事項も無し……あぁ【神々の野望ーアップグレードキットー】のマニュアルは持ってるのか。どうやって見るんだ?」


 ウインドウに表示されている項目に触れると、別ウインドウでマニュアルが表示された。


 使い方は、

・手や指で筒状にすると、その穴から覗ける物のステータスを見ることができる。

・一度見た対象のステータスは、ブックに記録され、対象が破壊、死亡など世界から消えるまで閲覧することができる。

・ブックに記録された対象のパラメーターを操作することが出来る。

・パラメーターの数値は合算され、ポイントとしてブック内で保管することができる。※閲覧できなくなるとポイントは消える。

・ポイントの出納は管理者に与えられた権限として使える。

・対象のパラメーターを自由に付与できるが、管理者にペナルティが課される。

・現在の管理者・秋野剛へのペナルティは“食うに困る生活=一時的に食の味がしなくなる”ことにする。


「パラメーターを弄れるあたりはアップグレードキットっぽくて良いよな」


 歴史戦略シミュレーション好きの剛なので、その点はワクワクしている。またさっきの1回目と比べて状況が分かってるだけあり気持ちに余裕があるように思えた。


 しかし単純なルールだが、よく見ると世界を変えてしまうのではないかという恐ろしさを感じている。


「パラメーターの数値を奪って、合算して、振り分けできる……って、これ、俺のパラメーターを上げられるってことじゃないのか?」


「しかもペナルティは一時的に食べ物の味がしないってことだけ? 食うに困らない生活って言ったからか?……かなりラッキーなんじゃないか、これ、異世界生活は何とかなるんじゃね?」


 食べたものの味がしないのは、楽しみがなくなるのだが、一時的なものと考えると、対価としては破格に見える。しかし、腐っていたり毒があったりを察知できないのは、生きていく上では重要な部分である。剛にはまだそれが理解できていないようだった。


 他にデメリットが無いのか、立ち止まって考え込んでいた。するとガサッと草むらから一匹角の生えたウサギが飛び出してきた。


「……本当かどうか、試してみるか」


 緊張で乾いてしまってるが、唾を飲み込み、息を整え、右手の指を筒状にし、そのウサギを覗き見た。まだウサギは剛のことを認知していない。


 開きっぱなしにしていたウインドウから、【神々の野望】が立ち上がった。


『本編ソフトがありません』


 剛は「やっぱそうか」と舌打ちをした。おそらく何か本編が必要なのだろうが、それは手元にない。


 チッという舌打ちをしたことにより、角の生えたウサギが剛に気づいた。そして即戦闘モードに入った。


 今回は後ずさりしてもウサギが引く様子がない。


「次、またここで死んだら、あの女神が担当なんだろうな」


 数時間サイコロを振るのを応援するだけの無駄時間を思い出し、なんだかどう手も良い気持ちになっている。そんなときだった。


『ブックの閲覧または操作をしますか?』


「え?」


 死を覚悟した剛だったが、閲覧と操作ができるなら、何か打開策があるかもしれない。痛くなかったとはいえ、ヤられるのは気が進まない。どうせなら一度は抵抗して見たい気持ちはある。


 ウインドウに表示されている『はい』ボタンを押した。すると、記録1件目のところにウサギが表示されていた。


『ホーンラビット:HP:8、MP:0、STR:2、VIT:2、DEF:1、INT:1、RES:1、DEX:1、AGI:8、LUK:1、Lv:2、状態:興奮、所持:1G』

※HP(体力)、MP(魔力)、STR(攻撃力)、VIT(生命力)、DEF(防御力)、INT(知力)、RES(抵抗力)、DEX(器用さ)、AGI(素早さ)、LUK(運)、Lv(レベル)


 普通に考えたら、剛の方が低くて詰みである。しかしパラメーターの出し入れの『出納操作』が可能なら逆転できる。


 各パラメーター横にある数値バーがあり、試しにHPのバーに触れると7→6→5→4と減らし、1までできた。


 ブックの脇にある残ポイント欄に7が入った。


「めっちゃチートじゃん……」

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