第5話

 たどり着いた神様が行けるお店。その店構えはまさにコンビニエンスストア。


「え~っと、酒池肉林は?」


「直近まで高校生をそんなところに連れて行けるわけないでしょ」


 残念がる秋野剛を見て、ため息交じりに応えるが、若さのある妄想させたことで少し勝った気になった女神。ちょっとしたことで優位性を保ちたいところが、まだ神として未熟である。


 ピンポーン


 入店すると音が鳴るところも日本のコンビニと変わりはない。あなたとコンビニ、あいてますアナタの、良い気分と有名どころとも少し違うし、地方コンビニっぽくもない。レジ前で注文して冷凍弁当をレンチンしたら出来上がる機能もあるので、色々混ざっちる感じだ。さすが神の店なのか、賞味期限みたいな概念はなさそうなので偽装が無く安心できそうではある。入口の扉に身長が分かるための色分けテープが貼られているが、神の世界に強盗みたいなのはあるのだろうか疑問である。


 とにかく日本のコンビニがモデルになっているのが分かる。


「人間界に降りた神が、便利過ぎて作ったそうよ」


 女神はちょいちょい、剛の思考を読んでいるように回答する。


「……下手なことを考えられないなぁ」


 今後は注意しようと思った。……思っただけだが。


「しかし、店内を見てみたら、おにぎりとか、飲み物……ビールも? あとは駄菓子やパン、ってほぼラインナップ一緒じゃん。あ、通販のギフトカードとか、ゲームのプリカとか……どんだけ同じなんだよ」


 あと売ってるとしたら、異世界に行くためか、行く人物のための道具、棍棒とか松明とか安いアイテムから、高い物だとアイテムボックスなど、いわゆるゲームの商店で売ってるようなものもある。このあたりが異世界なんだと実感させられる。


 中には売り切れなのか「済」と書かれていたり、文字化けして見える商品もあるが、その一角で懐かしいものを発見した。


「パッケージタイプのゲームか……」


 剛の現在は貧乏で叔母からのイビリがあるような可哀そうな状態だが、両親は中流家庭の中の中だったので、ゲーム機もあった。二人がいなくなったあと、売れるゲームは売ったのだが、値段が付かないものもあり、その中に、30年前のパソコンがあった。


 剛の唯一の娯楽が、パソコンで遊びレトロゲームだった。特に父親が好きだったシミュレーションは豊富に残っていて、歴史や戦略、競馬、キャラクターを育てるものなど、沢山あった。特に剛がハマったのは歴史戦略シミュレーションゲームで、やりつくした後も味わうために、内容をいじれるアップグレードキットを求めて中古ゲームショップに通ったこともある。30年前のパソコンのゲームを扱う中古ショップという、すでにマニアックな店は運が良いことに同じ街にあり通いやすかった。学生ということもあり、店長や常連客に覚えてもらうことができ、アップグレードキットも手に入れることができていた。


 その馴染みのあった、パソコンゲームのパッケージみたいな、ソフトより無駄にデカいパッケージが並んでいた。


「……さっきの俺のパラメーターが1ばかりってなってたけど、神が使ってるシステムって、めっちゃ古くない?」


 一つの疑問がわいた。もしかしたらまだ保存はフロッピーディスクなのではないだろうかと。剛は店でも聞いてたしネットニュースでも見たいことがあるのだが、古い機械で動くから新しくしない企業もあったり、技術者がいないとか、アウトソーシングするための金がないとか。


「それは安心して、最近すべてのシステムが新しくなったばかりだから!」


「いや、むしろそれが原因じゃないの? ちゃんと検証してから動かし始めたの?」


「ん?」


 女神はこの手の話が弱いんだろう。期限を切って、そこまでに運用開始するためにどこかで無理があったのかもしれない。剛は、今回の5,000,000Gがエラーとして報告されないことを祈ることにした。


 懐かしさを感じるソフトを見てると、際立って目を引くものがあった。


【神々の野望ーアップグレードキットー】


「アップグレードキット?」


 剛がそそられるに決まっているサブタイトル! なのだが、それ以上に色あせている感じが気になって仕方が無かった。


「おお! お客さんは良い物を見る目がありますね~」


 スススっと寄り添ってくる女神。パッケージを棚から取って、剛に押し付けた。


「こちらの商品、シリーズ初回から人気で、すでに40年の歴史がある【神々の野望】の拡張パックとなってます」


 どこかで聞いたことがありそうなタイトルだったので、やはりそういうゲームなのかと…思った剛だったが、少し引っ掛かる部分があった。


「拡張パックってことは、本体も必要ってことじゃない?」


「本体? 本体が必要な商品なんてあるわけないじゃないですか」


 女神は何の疑問を持っていないのだろうか。おそらくこの商品をやったことがないのではと思ったので、剛はそっと棚に戻そうとしたが、強引に女神は押し付けた。


「そしてなんとこちら、今なら、初回来店記念で50%オフの特価になってます!」


 なんとしても売りつけようとしている感にに思えた。在庫処分をしたいのだろうか。剛としては、この態度は怪しむしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る