第三十九頁 究明
<回想>
一七三二三年九月十三日(月)
大米合衆国 ベネズエラ州 ココドコ村
「そうですか……それで私たちはどうしたら良いのですか?」
ミオンが尋ねた。
ビゼーが答える。
「今から話すことは全て俺の想像です。そう思って聞いてください」
「構いません。あなたの考えを聞かせて下さい」
「犯人は魔人です。恐らく機械に誤作動を起こさせる魔力を持ってます」
「魔人……どうしてそう言い切れるのですか?」
「カメラの不具合です」
「カメラ?」
「向かいのラミレスさん、ご存知ですよね?」
「えぇ。いつも挨拶するけれど……ラミレスさんが何か?」
「防犯カメラの映像を見ました。この先の家で事件が起きた日の深夜、若干ですが防犯カメラの映像が不可解に乱れていました」
「それだけ?」
「映像から分かったことに関しては」
「人が写っていたとかそういうことではなくて?」
「はい」
「それだけで犯人だと決めつけるのは早い気がしますが」
ミオンの表情は芳しくなかった。
「少しでも確信に近づくためにラミレスさんに確認したいことがあります。それ次第で俺の意見も変わるかもしれません」
「……私が行きましょう」
「ありがとうございます。念の為ロッドも行ってほしい。二人で同じ反応なら信憑性が高くなる」
「うんいいよ。何を聞くの?」
「ソルに殺気を向けてみてほしい」
「えっ?」
その場にいた全員が戸惑いを見せた。
<現在>
一七三二三年九月十四日(火)
大米合衆国・ベネズエラ州 ココドコ村
犯人を認識するとミオンは一目散にシュウセイのところまで行き、すぐに抱き抱えた。
「怖い思いさせてごめんね!よしよし……」
体を揺すって泣き止ませようとする。
その様子を犯人は睨みを利かせて見ていた。
数秒すると泣き声が止んだ。
泣き終わったのも束の間、シュウセイは眠ってしまった。
本来ならほっこりする瞬間だが、この状況でそうはいかない。
ビゼーが目の前で膝を着く人間に向かって言い放った。
「アンタやっぱり魔人か。この家の門に付けた監視カメラがさっき突然イカれた。二週間前に付けたばっかりで壊れるわけがねぇ。それと今日追加で取り付けた赤外線センサー。それすらも機能しなかった。さっきテストした時は全員反応したのに。でもアンタだけ反応しなかった。どう考えてもアンタが原因だ。それと殺気は隠して移動した方がいいぞ。お向かいさん
「!」
犯人は驚きの表情を見せた。
ビゼーは続ける。
「犬が殺気に反応することは確認済みだ。飼い主さん曰く事件があった日の夜、いつもは吠えない犬がその日に限って吠えてたらしい。それで家の前の通りをミオンさんとロッドに殺気を放ちながら通ってもらった。見事に反応したそうだ。殺気を解いた瞬間に吠えなくなるのも確認してる。言いたいことが分かるか?その日その時間、殺気を放った誰かが通ったってことだ。でもカメラには何も映ってなかった。そこでアンタの魔力の出番だ。監視カメラに干渉して自分の姿を映像から消した。違うか?」
「……」
ビゼーは更に続ける。
「今までの凶器が見つからなかったのも魔人の何かしらの力を使えばできるんだろ?俺もそれは分かんねぇし、沈黙してればその辺は迷宮入りだ。ただ無許可で住居に侵入した罪だけでも償ってもらうぞ!スアレスさん!」
犯人は観念した表情を見せた。
「お姉さん……」
ミクリは呟いた。
今の時間イシザワ邸にいてはいけない人物。
イシザワ邸の裏に住んでいる、今日クウヤらが話を聞きに行った夫婦の妻の方がいるのだ。
「カメラね……距離が遠くて完全には壊しきれなかったか……でも、どうして私だと?カメラからはあなたがさっき言った情報ぐらいしか得られなかったんでしょ?」
スアレス夫人は重く閉ざしていたその口をようやく開いた。
ビゼーは答える。
「アンタの家。電化製品がほとんどなかった。旦那さんはアンタがミニマリストとか言ってたけど、嘘だろ?置かないんじゃなくて、置けないんだ。機械に影響がでちまうから。整合性をとるためにミニマリストってことにしてんだよな?旦那さんには魔人だって隠してんだよな?当たり前だけど」
「たったそれだけで……」
もう諦めたように目を閉じた。
「エアコンも点けず、携帯すら近づけさせないんだ。ついでに俺はカメラの違和感って情報を持ってた。それで疑わない方が無理だろ?」
「そういうことね……」
完全に観念した。
「どうして赤ちゃんを殺して回っていたの?」
ミオンが尋ねた。
「赤ちゃんを抱っこしながら、幸せな顔してる母親が許せなかった……」
ボソリと呟いた。
「そんな身勝手な!」
ロッドが声を荒げた。
「……」
犯罪者は再び口を閉ざしてしまった。
——ウー……ウー……
静かになったところで外からパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
クウヤらがこの部屋に集まる前にミクリの父親に通報を頼んでおいたのだ。
「フッ……」
「?」
スアレス夫人は不敵に笑った。
「何がおかしい?」
ビゼーが問う。
「あなたの言ってたこと一つだけ間違ってることがある」
「え?」
「私はカメラに撮られた映像を差し替えるなんてことはできない。それから私はこの部屋にどうやって入ったの?それを説明できる?」
「——!」
言われてみればそうだ。
犯人の動向はミクリの「
この技はどんな微かな音でも視覚化できるらしい。虫の鳴き声や風の音まで全て視覚化されるらしく、とても疲れるのでミクリとしてはあまり使いたくなかったそうだ。しかし弟の命がかかっているのと、監視カメラや赤外線センサーが役に立ちそうもない可能性が高かったために音を利用していた。
ミクリが音を目で捉えてからずっと追っていたのにも関わらず、この部屋に入った瞬間だけ見逃していたのだ。
床が軋む音が見えたために部屋に侵入したことは分かったが、ミクリも「いつの間にか入ってる?」と言っていたのだ。
その時はおかしいとも考えなかった。いや、考えられる余裕がなかった。
「ビゼー!」
「——!」
クウヤの呼ぶ声でビゼーは思考の世界から戻ってきた。
「はんにんきえた!」
「はっ?」
考えを巡らせるためにビゼーが目を離していた隙に犯人の姿が消えている。
「どこに消えた⁈」
ビゼーはクウヤに聞いた。
「わかんねー!スーってきえた!」
クウヤが答えた。
その場にいる全員がクウヤの意見に首肯した。
「拘束魔導をかけたままなので移動速度は早くないはずです!それとすみません!石澤流魔導は一つ技をかけたまま別の技を使うことができないんです!拘束を解いたら逃げられてしまうので私はこのまま魔導を維持することにします!ミクリ!探せますね?」
ミオンが言う。
ミクリは元気よく頷いた。
「
ミクリは辺りを見回す。
部屋の中にはいない。
外に出た。
左右を確認する。
「あれかな?
ミクリの目には周りの景色が温度によって塗り分けられた世界が見えている。
彼女には不思議なものが見えていた。
概ね等間隔で一瞬だけ地面の温度が上がり、一瞬で下がる。それが二直線上で繰り返されているのだ。
人の形は見えないが、この挙動は実に不自然だ。
不自然な温度変化の位置を伝えたいが、どんどん遠ざかっていて説明しているうちにその位置が変わってしまうだろう。
ロッドがデッキからカードを探しながらミクリの近くに来た。
「ミクリちゃん!場所を教えて!」
「えーっと……」
前述の理由で伝達できない。
「!」
ミクリは妙案を思いついた。
「
その瞬間ロッドの視界が七色に変化した。
手元のカードも全て等しく真っ青だ。絵柄の判別がつかないのでカードを探せない。
「あそこ!」
ミクリの声が聞こえた。
何かを指差す人の腕のようなものが赤く見える。
その指し示す先にはポツポツと色が変化していく箇所があった。
「あれ?」
「そう。早くしないと逃げちゃう!」
その先は壁だから逃げられないんじゃないかと思いつつ、ロッドはカード探しを諦めてデッキを裏側に向け一番上のカードを引いた。
「なんかいいの来てよ!ミクリちゃん!一瞬この景色解いてくれない?ほぼ何も見えなくて!」
「はい!」
ミクリはロッドの指示に従い、「
ロッドはカードの絵を確認する。
「悪くない!棒・十の札!TEN of WANDS!ミクリちゃん!もう一回お願い!」
再び七色の景色が見えた。
色がポツポツと変化している場所のその先に十本の棒を落とした。
棒が全て地面に刺さった。
それ以外何が起きるわけでもなく色の変化が観測できなくなってしまった。
「ごめんなさい……逃げられちゃった……」
ミクリは落胆した。
ロッドの視界が元に戻った。
全員がやりきれない気持ちに襲われた。
その後でミオンは警察に事情を話すとエイミー・スアレスを全国指名手配することを約束してくれたそうだ。
丑の刻の大騒動はモヤモヤを残したまま終幕し、一同眠りに就くのだった。
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